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上白石萌音のカバーアルバム「あの歌」ボーカルから伝わってくる繊細な色彩感が魅力!

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2021年06月23日 上白石萌音のアルバム「あの歌-1-」「あの歌-2-」発売日

1970〜1990年代の邦楽曲で構成されたカバーアルバム「あの歌」


俳優として高く評価されている上白石萌音だが、シンガーとしての活動も、とても興味深いものがある。彼女はミュージカルでそのキャリアをスタートさせ、18歳の時に初主演した映画『舞妓はレディ』(2014年)の主題歌「舞妓はレディ」を役名の小春名義でシングルリリース。早くから演技と歌をハイブリッドさせていたが、上白石萌音としても本格的に歌手活動を行っている。

上白石萌音のディスコグラフィーのなかで、おもしろい企画として目を引かれるのが2021年に発表された『あの歌-1-』『あの歌-2-』と題された2枚のアルバムだ。これはファンから寄せられた1970〜1990年代にリリースされた邦楽曲のリクエストをもとに構成されたカバーアルバムで、2枚のディスクに収められている21曲のすべてが彼女が生まれる前の曲。それらをどのように解釈して表現しているかが聴きものだ。

実は、上白石萌音のカバーアルバムはこれが初めてではない。本人名義の最初のリリースとなったミニアルバム『chouchou』も、彼女がヒロインの声を担当したアニメ映画『君の名は。』(2016年)の主題歌「なんでもないや」を含む映画主題歌・挿入曲のカバー集だった。もともとミュージカルからスタートした上白石萌音にとって、演技と歌はけっして無縁なものでなく、どちらも表現として真摯に取り組む対象と捉えているのだろう。そんな彼女の音楽に対する姿勢が、カバーというスタイルによりくっきり見えてくる気もする。

繊細な色彩感が伝わってくる上白石萌音のボーカル


『あの歌-1-』には1970年代を代表するポップス系ヒット曲が11曲収められている。そのうち6曲のオリジナル歌手が女性、5曲が男性だ。こんなふうに女歌と男歌を同じボリュームで取り上げる選曲は、アルバムのトータリティという面ではリスクがあると思うけれど、このアルバムはそんな違和感を感じさせない。

それは、上白石萌音が必要以上にオリジナル曲のテイストを踏襲することにこだわらず、その曲が持っているドラマの中に入り込んで、そこから素直に浮かんでくる感情をすくいあげるように曲の世界を描こうとしているからだと感じられる。上白石萌音のボーカルは一見淡々としているようだけれど、それぞれの曲から繊細な色彩感が伝わってくる。そこに彼女ならではの歌の表現の特徴があるのだという気がする。

アルバムのこだわりを感じさせる「夢先案内人」


『あの歌-1-』に収められている曲はすべて1970年代を代表するヒット曲だが、中には、上白石萌音のこだわりを感じさせる選曲もある。たとえば、山口百恵のカバーがそうだ。彼女の代表曲として真っ先にあがるのは「横須賀ストーリー」(1976年)や「プレイバックPart2」(1978年)という感じだと思うが、ここで選ばれているのは「夢先案内人」(1977年)なのだ。

この曲は「横須賀ストーリー」や「プレイバックPart2」などと並ぶ、宇崎竜童と阿木燿子による楽曲だが、「プレイバックPart2」などに感じられるソリッドなインパクトとは違うマイルドなトーンを持つ楽曲。ヒットチャートでも1位を獲得しているし、ファンにも人気の高い名曲だけれど、あえてマイルドな印象のある「夢先案内人」を選曲したことに上白石萌音なりのこだわりが感じられる。

歌謡ポップスの源流と言っていい「さらば恋人」


もう1曲、個人的に面白いと思ったのが堺正章の「さらば恋人」が取り上げられていることだ。『あの歌-1-』収録曲のほとんどは1970年代中期から後期に発表されたヒット曲だ。けれど「さらば恋人」が発表されたのは1971年だから、“あの歌シリーズ” では最も古い曲になる。もちろん、楽曲としてのクオリティの高さや上白石萌音の声との相性の良さもこの曲が選ばれた理由なのだろう。

しかし、ある意味で70年代歌謡ポップスの源流と言っていい「さらば恋人」が『あの歌-1-』に収められていることが、このアルバムを象徴しているのではないか。「さらば恋人」を歌った堺正章は1960年代のグループサウンズを代表するザ・スパイダースのリードボーカルだったし、作詞の北山修はやはり60年代のフォークブームをリードしたザ・フォーク・クルセダーズのメンバーだった。そして作曲の筒美京平は60年代後期からの洋楽テイストをもった歌謡曲作曲家の第一人者だった。

つまり、「さらば恋人」は1960年代後期に台頭したフォークソング、グループサウンズ(ロック)、そして歌謡ポップスの流れが合流して多くのヒット曲を生み出していく1970年代の歴史のスタートを象徴する曲なのだ。この曲が最後に置かれていることで、『あの歌-1-』は、単なるカバーアルバムを超えたメッセージを21世紀に伝える作品となっているのだ。

松任谷由実の作品が3曲収録された「あの歌-2-」


1980〜1990年代の楽曲をカバーした『あの歌-2-』の選曲も興味深い。一見して気づくのは松任谷由実の存在感が大きいこと。自身の歌唱曲である「ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ」(1983年)の他、松田聖子に呉田軽穂の名で作曲した「制服」、そして1981年に石川ひとみがヒットさせた「まちぶせ」の3曲は、松任谷由実が手掛けた曲だ。

ちなみに「まちぶせ」の作詞・作曲名義は荒井由実。この曲はもともと荒井由実時代に三木聖子に提供されたものだからだ。三木聖子の「まちぶせ」は1976年にシングルとして発売されていたが、石川ひとみバージョンの大ヒットによって80年代の代表曲のひとつとして認知されるようになっている。また、松田聖子の曲として「赤いスイトピー」(1982年)のB面曲である「制服」を選ぶところにも上白石萌音のこだわりが並みじゃないことが窺える。

また『あの歌-1-』が男歌と女歌をバランスよく配置していたのに対して『あの歌-2-』では女性シンガーの曲を中心にしながらも、スターダスト☆レビューの「ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス」(1982年)、フィッシュマンズの「いかれたBaby」(1993年)、ブルーハーツの「青空」(1989年)と、ロックナンバー3曲が収録されているところにも、上白石萌音の幅広い音楽性が感じらせて興味深い。

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