なぜ新『スーパーマン』はオリジンを描かないのか? ─ 「スーパーマンは強すぎて共感できない、バットマンは負け犬でもあるから共感できる」との声に向き合う
新DCユニバース映画第1弾『スーパーマン』は、すでにスーパーマンがスーパーマンとして活動している世界を描くもので、クラーク・ケントがいかにヒーローになったかの誕生譚(オリジン)は描かない。その理由や意図について、監督・脚本のジェームズ・ガンが米にて詳しく語っている。
スーパーマンといえば、滅亡直前のクリプトン星から、両親によって地球に送られたカル=エルが、カンザス州の農夫婦に拾われ、クラーク・ケントとして育てられる。ザック・スナイダーによる2013年のオリジン映画『マン・オブ・スティール』では、クリプトン星の滅亡までに上映時間の実に20分ほどを費やしており、スーパーマンがお馴染みのスーツに身を包むのは、本編開始後50分経ってからのことである。
新『スーパーマン』はこのプロセスを省略する。「最大の挑戦は、この世界では誰もがスーパーマンのことを知っており、どこから来たかも知っているということでした。そこには、誕生物語をやらなくていいというメリットもありました」とガン。「クラーク・ケントが、クリプト星の両親から赤ん坊のままロケットで地球に送られて、農家の夫婦に育てられたということは、ほとんど誰でも知っていますよね。だから、わざわざ全部をやる必要がなかった。そこはメリットでしたね」と話している。
これは、旧DCユニバースにおけるバットマンや、MCUにおけるスパイダーマンと同様の考え方だ。ベン・アフレック版バットマンの誕生は『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)のオープニング映像でダイジェスト的にまとめられ、トム・ホランドのスパイダーマンは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)で初めからストリート・ヒーローとして活動する状態で初登場した。彼らの誕生秘話は主にファンの間でよく知られており、過去作でも何度も描かれていることだから、わざわざ再映像化するのは冗長というわけだ。
一方、スーパーマンはあまりにも有名な存在であるため、キャラクター像が確立されてしまっていることに、ガンは難しさも感じていたようだ。「たくさんの人が、スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンから成る“BIG 3”に、非常に親しみを抱いています。このキャラクターが自分にとってどういう存在なのか、具体的な考えを持っています」と話すガンは、多くの人から「スーパーマンは強すぎるから、あまり共感できない。バットマンには、負け犬みたいなところがあるから共感できる」との意見を得ていたと明かす。
「“スーパーマンは共感されにくい”ということは、僕が最初から考慮していたことです。予告編や本編の冒頭で、彼がどう見られていたかについても繋がっています。」
公開された予告編では、最強クラスのパワーを持つはずのスーパーマンがいきなり満身創痍で落下する姿から始まり、人々からモノを投げつけられるという、まさに“負け犬”のような状況が描かれる。おそらくガンは、スーパーマンの立場をいくらか弱めることで、共感を得られるようにしたいと考えたのだろう。
一方で、「スーパーマンは惑星をパンチして真っ二つにできるから好きだ、という人もいます」ともガンは語る。「スーパーマンがどういう存在なのかというのは、みなさんそれぞれ違った考えを持っていて、そのことに向き合わなければいけない。きちんと向き合って、“自分はこういうスーパーマンが好きだけど、今回のスーパーマンはどういう描写か見てみよう。2時間の映画を見て、確かめてみよう”と思ってもらえたら嬉しいです」。
令和のスーパーマンは完全無欠の最強ヒーローではなく、人間臭さを打ち出すようだ。これまでもガンは、本作について「人間性」がテーマだと繰り返している。親しみやすさを演出するために、あえてコスチュームにプロレスラーのような赤パンツを導入したというほどである。
新『スーパーマン』は2025年夏、公開。
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