伊藤銀次とウルフルズ ⑬「SUN SUN SUN '95」の完成はギタリスト徳武弘文のおかげ!
大好評連載中:連載【90年代の伊藤銀次】vol.17
ウルフルズの存在を広く強く巷に印象づけた「大阪ストラット・ パートⅡ」
「トコトンで行こう!」に続くマキシシングルの「大阪ストラット・ パートⅡ」は、その楽曲のおもしろさを、おもいっきりビジュアルで拡大してくれたプロモーションビデオのおかげもあって、以前よりもさらに話題になり、ウルフルズの存在を広く強く巷に印象づけることができた。
このアイデアあふれるビデオを制作してくれたのは、のちにさらに意表をついたあの「ガッツだぜ‼」のプロモーションビデオを制作することになる竹内芸能企画の竹内鉄郎君だ。このあたりから始まっていくウルフルズのサクセスストーリーには絶対に欠かせない存在。楽曲と映像の化学反応が始まったのがこの「大阪ストラット・パートⅡ」で、そのいい流れは続くマキシの「SUN SUN SUN '95」へとつながっていくことになる。
「さんさんさん」を再録した「SUN SUN SUN '95」
「SUN SUN SUN '95」は、もともと1993年5月にリリースされた、彼らのセカンドシングル「マカマカBUNBUN」のカップリングとして収録されていた「さんさんさん」を再録したもの。これは “大滝詠一さんの「びんぼう」と「福生ストラット」をカバーしませんか” というナイスなアイデアを提供してくれた、ディレクターの子安次郎さんからの新たな提案。2ヶ月おきにリリースしてきたマキシシングルの次のリリースが7月ということで、夏向きなこの曲をリテイクしてはという相談に僕は二つ返事でOKした。
はじめてトータス松本君と曲作りを始めた頃、彼がソウルミュージックやリズム&ブルースに加えて、ブライアン・ウィルソンがとっても好きだと聞かせてくれてたことがあった。オリジナルの「さんさんさん」はその影響が表れているポップな曲で好きだったけれど、いくらなんちゃってサーフ音楽といっても、あまりにもサーフ感がなくて惜しいなあと思っていた。
残念ながら彼らのギタースタイルではサーフミュージックの感じが出せないと判断して、そんな世界をしっかり作ってくれるギタリストを参加させるのはどうだろうと提案してみたところ、さすがブライアン・ウィルソンの大ファンだけあってか、うれしいことにトータスから快諾を得た。この曲のリテイクが決まった時から僕の頭の中に浮かんでいたのは、カントリーフレーバーのギターを弾かせたら日本一の徳武弘文君だった。
ネオ・サーフミュージックの土台をしっかり作ってくれた徳武弘文
かつて僕がシュガー・ベイブに関わっていた頃に、 “山本コウタローと少年探偵団” のギタリストだった通称 “徳ちゃん” こと徳武君と知り合った。その頃の僕はジム・メッシーナ経由のカントリーロックのギターが好きでそのあたりを追いかけていたけれど、徳ちゃんの弾くギターを聞いて、こりゃかなわないなと舌をまくほどの存在だった。その後はなかなかいっしょに音楽空間を共にする機会に恵まれなかったが、彼がザ・ベンチャーズなどのインストゥルメンタルが得意だという情報は僕に届いていたので、今回の助っ人はもう彼しかいないと確信したのだった。
そんなこともあってか、彼がダビングで参加する前のメンバーによるリズム録りは今まで以上に厳しいものに。特にドラムのサンコンには、高橋幸宏さんみたいによりタイトでシャープなドラミングを要求したものだから大変だったと思うが、がんばってくれてイメージしていたタイトなネオ・サーフミュージックの土台をしっかり作ってくれた。
そしていよいよ徳武君の出番。僕も彼もギタリスト。ここはベンチャーズでいこうか? とか、ここはデュアン・エディみたいなのがいいんじゃない? ここはやっぱりディック・デイルだよねとかの楽しいやり取りの中で、これでもかとありとあらゆるサーフィン・フレーバーなフレーズを披露、提供してくれた。おかげで、オリジナルの「さんさんさん」をはるかに超えた上質な “なんちゃってサーフミュージック” を作ることができた。彼の協力がなければ「SUN SUNSUN '95」はけっして形をなすことはなかった。徳ちゃんほんとにありがとう。
このとき2人は意気投合、僕が彼のライブにゲスト参加して、お互い大好きな『ロックフォードの事件メモ』のテーマをいっしょに演奏しようと盛り上がるところまでいったのだが、その後なかなか機会がなくて、いつかいつかと思っていたら、残念なことに、彼は長い闘病生活に入り今年(2025年)の5月に亡くなってしまった。 信じられないショッキングな彼の逝去。いまあらためて徳ちゃんへ感謝を捧げ、彼の冥福を祈りたいと思います。