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記憶を紡ぐ空撮の旅 ~2025年、日月潭からの出発~[田路昌也の中国・香港ドローン便り]Vol.48

DRONE

2024年のドローンと共に記憶を紡ぐ旅を振り返りながら、2025年は台湾・日月潭の空撮を皮切りに、風景を記録する旅に出発しました

朝靄に包まれた日月潭の湖面に、冬の静けさが漂っていました。1月15日の朝、午前5時半、まだ暗い中でドローンの準備を整えながら、私は2025年最初の海外撮影への思いを巡らせていました。約1時間後に迎える日の出に向けて、この神秘的な風景を記録に残したい。その思いと共に、機材の最終確認を行っていました。

日月潭湖面

記録を重ねた2024年の軌跡

2024年は、ドローンと共に様々な記憶を紡ぐ旅ができました。長く続いたコロナ禍を経て、ようやく海外での撮影が当たり前になった時期でもあります。

実家のある兵庫では、地元のドローン仲間に案内していただいた夫婦桜での撮影、阿蘇の広大な草原での飛行、中国の雄大な山々の空撮、そしてヨーロッパとアジアの境界を流れるボスポラス海峡の朝日など、それぞれの土地で印象的な風景を撮影できました。

特にボスポラス海峡での撮影は忘れられない体験となりました。朝日に輝く海面が二つの大陸を分かつ様子は、まるで悠久の歴史が目の前で展開されているかのようでした。文明の交差点を空から見下ろすその瞬間、風景を記録することの意味を、改めて考えさせられました。

ボスポラス海峡

記憶の重さを知った瞬間

2024年1月1日に発生した能登半島地震から、早くも1年が経ちました。あの時、多くの風景が一瞬にして変わってしまったことは、私たちに記録を残すことの大切さを痛感させる出来事となりました。

実は地震の数カ月前、私は能登半島を訪れて空撮を行っていました。日本海に沿って続く美しい海岸線、のどかな田園風景。その時に収めた映像は、今では土地の大切な記憶を留める記録となってしまいました。

また、以前のコラムでも触れた中国深圳と香港の国境周辺でも、大きな変化が予定されています。深圳側はすでにこの20年ほどで近代的な高層ビル群へと変貌を遂げましたが、香港側には今でも広大な養殖池が広がっています。 しかし、この香港側でも大規模な再開発が決まり、のどかな水辺の風景は近い将来、新しい街並みへと生まれ変わるでしょう。時には自然により、時には人の手によって、私たちの目にする景色は刻一刻と移り変わっていくのです。

馬草壟夜景

空から見つめる風景の記録

都市化や開発は、時代の流れとして避けられないものです。その中で、写真や動画による記録の重要性を改めて強く感じています。特にドローンによる空撮は、広い範囲を一度に収めることができ、その場所の全体像や周辺との関係性まで含めて、残すことができる特別な視点を持っています。一枚一枚の写真や映像が、その場所の持つ物語を伝えてくれるような気がします。 そんな思いを胸に、今回は、日月潭での撮影を行いました。

湖面に浮かぶ朝の風景

台湾最大の淡水湖である日月潭は、標高700メートルを超える高地に位置しています。周囲の山々に囲まれた独特の景観は、かつてこの地に住む邵族の人々の暮らしの中心として、今でも大切に守られています。

3日間の滞在中、天候の関係で実際にドローンを飛ばせたのは初日と最終日の朝だけでした。湿度の高い環境での撮影は機材管理に細心の注意が必要で、特に朝靄の中での飛行は常に機体の位置を把握し、安全な高度を維持することが欠かせません。それでも朝日とともに挑戦した撮影では、期待以上の映像が撮れました。

日月潭養殖

特に印象的だったのは慈恩塔の周辺です。パノラマ撮影を試みることで、朝靄に包まれた塔の姿と、湖面に浮かぶ船の風景を一枚の写真に収めることができました。水面に映る光、立ち込める靄、そして人々の営みを感じさせる小舟。この土地の持つ多くの表情を一つの画角に切り取ることができたと思います。

慈恩塔パノラマ

その朝の撮影で、もう一つの思いがけない交流に恵まれました。慈恩塔での撮影を終えた頃、DJI Air3を手にしたカップルと出会ったのです。

台湾ドローンユーザー

台湾では、これまでドローンユーザーと接する機会が少なかったので、思わず声をかけてしまいました。所有ドローンの話で盛り上がり、その場でFacebookの交換をすることに。香港に戻ってからもお互いの撮影データを共有し合ったりと、これからも情報交換していきたいと思っています。

風景の記録は、時として人と人とを繋ぐきっかけにもなるのだと、この出会いを通じて感じました。言葉の壁を越えて、同じ風景の魅力を共有できる。それもまた、ドローン撮影の持つ素晴らしい側面の一つかもしれません。

未来へと紡ぐ私たちの記憶

風景を記録し、記憶として残すということは、単なる美しさの追求以上の意味を持つと考えています。それは、その土地の歴史であり、人々の暮らしの証でもあります。時として、その記録は予期せぬ形で価値を持つことがあります。

ふと思い返すのは、まだドローンを持っていなかった頃の旅の記憶です。アンコール・ワットの荘厳な伽藍、ミャンマーのバガンに広がる数千の仏塔群、ハロン湾に浮かぶ奇岩群の間を船で巡った風景。当時は限られた視点でしか捉えられなかったそれらの場所を、今度は空からも記録に残したい。そんな思いが日に日に強くなっています。

確かに、ドローン規制は年々厳しくなっています。10年前なら自由に飛ばせた場所でも、今では簡単には飛行許可が下りないケースも増えています。その一方で、ドローン技術の進化により、より安全に、そしてより美しい映像を撮影できるようになりました。2025年に入ってすぐ、DJIから新型の小型機「DJI Flip」が発売されました。私のメイン機である「DJI Mini 4 Pro」と、これからの旅でどちらを持っていくことになるのか。新しい可能性への期待も膨らみます。

だからこそ、今この瞬間に目の前にある風景を、できる限り丁寧に記録し、未来に伝えていきたい。2025年は、そんな思いを持って世界の風景と向き合っていこうと思います。

それが、ドローンというツールを持つ撮影者としての、新しい使命なのかもしれません。そして、その記録の一つ一つが、未来の誰かにとって大切な風景の記憶となることを願っています。

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