松戸がクラフトビールの街になる日は近い!? コアなファンの応援を背に受ける二つの醸造所
近年、松戸に誕生したビール醸造所『松戸ビール』と『矢切ブルワリー』。対照的な二つの個性がクラフトビールファンを新たに掘り起こし、今では松戸から常磐線沿線の街へもその名を広めつつある。
目指すは地元民に長く愛されるビール『松戸ビール』
2019年に開業した、松戸におけるクラフトビールの草分け。醸造所『まつど麦酒』を矢切地区に置く。アメリカ産ホップを使うペールエールに代表されるように、香りと苦味のバランスを大切にする。また、各種ビールは原料にハチミツも使われ、ふくよかな味わいとともに、飲みやすさにも気を使う。松戸駅に近いタップルームで、多彩なメニューととともに楽しめる。
『松戸ビール&タップルーム』詳細
松戸ビール&タップルーム(まつどビール&タップルーム)
住所:千葉県松戸市松戸1151/営業時間:15:00~21:30LO(土は12:00~、日は~20:30LO)/定休日:月/アクセス:JR常磐線・京成電鉄松戸線松戸駅から徒歩3分
二人にしかできないビールを目指す『矢切ブルワリー』
開設したのは現役の会社員二人。松戸の観光名所「矢切の渡し」にちなみ、その地名を冠した。ライムとグレープフルーツの酸味を強めに利かせたゴーゼ、セゾン酵母のスパイシーな香りにドライホップのフレッシュな香りを加えてひと味違った仕立てのセゾン、樽熟成をイメージしたウイスキー香のあるメルクスなど「二人が面白いと思ったビールだけを造る」ことを信条としている。
『矢切ブルワリー』詳細
自社店舗はなく、瓶も樽もオンライン販売が主。
購入できる店は、『ますよし酒店』(新松戸)☎047-343-7594『京成小岩クラフト酒店』☎03-6877-0525
https://www.yagiribrewery.com/
それぞれのビールに込められた思い
酒は醸す人の物語を味わうもの……だと思うが「言われなくても、そんなこと」とばかり、若い客がビール談義を楽しんでいる。いい眺めだな。
「女性のお一人客もけっこういらっしゃいます」と言うのは『松戸ビール&タップルーム』を経営する醸造家の渡邊友紀子さん。
かつて都内中央区でビール醸造所を営んでいたが、移転することになり、住まいのある松戸でビールづくりを再開した。ところが、直後にコロナ禍に見舞われた。
「そのとき、街の方々が松戸ビールを買って支えてくれたんです」。
だから「地元に喜ばれるビールを造り続けたい」と言う。
後発の『矢切ブルワリー』は、渡辺耕三郎さんと石田正樹さんが立ち上げた。中央大学自転車部のOBで、先輩と後輩という間柄だ。石田さんはクラフトビールにひかれて、6年ほど前に醸造の勉強を始め、「醸造所を開きたい」と渡辺さんに相談した。
「石田は、やりたいことをとことん突き詰めるこだわり屋。面白いと思いました」とは渡辺さん。醸造所設立の話に乗った。
二人の製品が世に出たのは2023年。これには松戸ビールの渡邊さんが関わっている。松戸駅西口デッキで開催されるクラフトビールフェスがある。その発案者が渡邊さんで、当時はまだ試作を繰り返していた『矢切ブルワリー』に出店を誘いかけたのだ。
「お客さまの『おいしい』という声が、こんなにうれしいのか」と感激し、二人は発売に踏み切った。
松戸と矢切、その性格は実に対照的だ。「日常的に楽しめるものを」という松戸ビールには、全体的にまろやさがある。対して矢切ブルワリーのビールはエッジが効いている。「他にはない、二人だけにできる自信作を」と言う。その個性の違いがまた面白い。
「松戸発で全国に知られるものに育てたい」とは松戸ビールの渡邊さんの望み。味は違えど、思いは矢切ブルワリーも同じだ。
取材・文=高橋盛男 撮影=高野尚人