子どもの教育格差をなくす取り組み
人権に関わる身近な話題をテーマに掲げて、ホットなニュースをお伝えする番組。
今回は、塾や習い事に関する話題です。子どもの頃に、習字やそろばん、ピアノ、水泳などを習っていた人も多いのではないでしょうか。しかし、家庭の経済状況によっては教育費に回すお金がないという家庭も増えていて、子どもに「教育格差」が生まれています。
広がる教育格差
子どもの教育格差をなくす取り組みをしている東京の団体「チャンス・フォー・チルドレン」によりますと、経済的に厳しい家庭の子どものおよそ3人に1人が、習い事はおろか、スポーツ観戦や旅行、お祭りといった体験機会がないそうです。さらに記録的な物価高で、そうした家庭の7割以上で子どもの教育への支出が減っています。一方で、世帯収入が高い家ほど子どもの教育にお金をかけていて、学力テストの成績も良く、大学進学率も高いことが分かっています。
「チャンス・フォー・チルドレン」の代表、今井悠介さんに話を聞きました。
この背景には貧困という問題があるわけですけれども、経済的に生活全般が苦しいご家庭ですと、子ども自身がやりたくても諦めなきゃいけないことがたくさん出てくる。「塾に行きたいけど行けない」という子もいますし、「サッカーをやりたかったんだけどできなかった」とか、あるいは「ピアノを一回やってみたかったけど親に言い出せなかった」とか、そういうことを言っている子ってたくさんいて、小さい頃から「こんなことをやってみたいけど、これを親に言ったら困るだろうな」といって飲み込んでしまう経験を繰り返している子たちがたくさんいますね。
チャンス・フォー・チルドレンの今井悠介代表
学習専用のクーポンで学びの機会を提供
チャンス・フォー・チルドレンでは、経済的に厳しい家庭に塾や習い事の費用として使える「スタディクーポン」を提供しています。今年度は小学生から高校生までの660人に、総額1億7000万円分のスタディクーポンを提供するなど、設立からの13年間で、のべ6000人以上の子どもたちに学びの機会を提供したそうです。費用はすべて企業や個人からの寄付でまかなわれています。 ただ、毎回スタディクーポンの希望者募集の時には、定員を大幅に上回る応募がある状況で、残念ながら外れてしまう人も出てしまっているのが現状だそうです。このスタディクーポンは全国4000の教室や団体で使うことができます。
再び今井さんの話です。
クーポンの利用先は、子どもたちから随時リクエストを受け付けているんですね。例えば、登録していない教室で地元でこんな教室があって行きたいという声があったら、その声を我々に届けてもらえれば、その教室に随時交渉してクーポンの利用先になってもらう、ということをやってきているんです。なので、基本的には子どもが使いたいところで使えるように全力でサポートしています。
教室によってすごくたくさん来るところもあれば、本当に一人二人受け入れていただいている場合もあるんですけど、私は結構どちらもあるということが大事だと思ってまして、というのは、行政の施策で何か場所を設置しようとなると、より子どもが多く来ればだけになっちゃうんですよね。でも、子どもたちは地域の中で何十という選択肢の中で、たとえ一人だけが来ている教室でも、あえてそこを選んできているんですね。それが一人一人を大事にすることだと思ってまして、そういう小さな体験や学びの場が地域にたくさんあるということがすごく大事だと思ってます。それが子どもたちの多様な状況に合わせていく、多様性に応えるということなのかなと思いますね。
なお、クーポンを使った高校生からは
「このような支援のおかげで、お金の心配をすることなく勉強に専念することができます」
「金銭的な問題を気にせず学習塾に通えたことは、とても心の支えになりました」
などの声が寄せられているそうです。
学習の枠に収まらない「体験」への支援も
さらに、チャンス・フォー・チルドレンでは、スタディクーポンとは別に、スポーツ・音楽・芸術・伝統芸能・ものづくりなどの体験活動で使える「ハロカル奨学金」という制度も始めています。提携先である東京・墨田区の団体「SSK」では、キャンプなどの体験学習のほか、小さい子ども用に巡回型の無料の遊び場を提供する活動をしています。会長の須藤昌俊さんの話です。
メンバーのほとんどが、その子たちが小学生の時とかに一緒にキャンプに行った子たちがスタッフとして帰ってきてくれている。それはやっぱり自分が子供の時に受けたキャンプがすごく良かったんで、今度自分がそれを提供する側になりたいっていうので、一緒に戻ってきてくれてキャンプを一緒にやってるっていうような形です。我々のキャンプに参加してくれた子とかは、遊び場にも来てちっちゃい子と一緒に遊んでくれたりなんかもします。
キャンプですと、やっぱり子供が持ってきたチラシに対してそれに親が申し込むというステップが必要になってくるんですね。でもこの遊び場の授業は、通りがかった時になんか楽しそうなことやってるなっていうので、親の意思関係なく子供が自主的に自由に参加できるっていう場なので、そういった意味ではこの遊び場の活動っていうのがもっと広がっていくと、子供の中での体験格差っていうのも少なくなっていくんじゃないのかな、なんていうのは思ってます。
SSKの須藤昌俊会長
家庭の経済事情で学習の芽を摘んでしまうのは、子どもにとっても残念なことです。チャンス・フォー・チルドレンの今井さんによると、スタディクーポンのような政策を民間の寄付ではなく自治体が政策として取り入れている事例も増えているそうで、こうした取り組みが広がれば、子どもたちがやりたくても諦めなきゃいけないということが減っていくのではないでしょうか。
(TBSラジオ『人権TODAY』担当:進藤誠人)