上司の「励ましのひと言」が部下を追い詰める? 調査で判明、無自覚な声掛けが職場のリスクに
一般社団法人日本リスクコミュニケーション協会(東京都港区、RCIJ)は10月20日、職場における上司の発言・言動がもたらすハラスメントリスクに関する意識調査の結果を公表した。多くの上司が「良かれと思って」かけていた定番フレーズが、実は部下の心理的安全性を下げ、生産性の低下や離職、さらには企業の評判毀損といった経営リスクにもつながる恐れがあるという。
なぜ「励ましのひと言」がリスクになるのか? 善意の声掛けに潜む無意識バイアス
上司が部下を励ますつもりでかけた言葉が、実は職場のリスクにつながることもある。今回の調査で明らかになったのは、「善意」の声掛けと実際の受け止め方との大きなズレだった。
RCIJの調査は、危機管理心理学の観点から「無意識バイアス」に焦点を当てたもの。無意識バイアスとは、本人に悪意がなくても、経験や慣習に基づいて判断や発言に偏りが生じてしまう心理的な傾向を指す。
上司と部下の受け止め方にどれほどギャップがあるのか?
調査対象は、全国の企業・団体に勤める20歳代から60歳代の男女289人。管理職には「職場での声掛けの使用頻度」を、非管理職には「上司からそのような声掛けをされた際の印象」を尋ねた。調査結果からは、上司が鼓舞や方向付けのつもりで使っていた定番フレーズが、部下にとっては逆に不快感や萎縮を招いていた実態が明らかになった。
善意での声掛けが、結果として部下の心理的安全性を損ない、組織の生産性や定着率に負の影響を与える可能性がある。実際に、管理職の54.3%は「自分の言葉で部下を傷つけたことはない」と回答したのに対し、非管理職の60.7%は「上司の『悪意のないひと言』で傷ついた経験がある」と答えている。
具体的に、どんな声掛けが「逆効果」だったのか?
調査では、日常的に職場で使われるフレーズを提示し、それに対する管理職と非管理職の反応の差を分析。その結果、特定の「定番の励まし」が、意図とは裏腹にネガティブに受け止められているケースが多く見られた。
「みんな頑張ってるから」は本当に励ましになるのか?
部下を奮起させるつもりで使われがちな「みんな頑張ってるから君も頑張って!」というフレーズ。
管理職の68%が使用している一方、非管理職の35.3%が「いやな気持ちになる」と回答し、「やる気が出る」と感じたのは24.3%にとどまった。
このような声掛けは、協調性バイアス(周囲との同調を期待する心理)の影響を受けやすく、個別の状況や感情を軽視しているように映り、プレッシャーと受け止められるリスクがある。
「まず指示通りにやってみて」で信頼関係は築けるのか?
方向性を示すために使われることの多い「まず指示通りにやってみて」という言葉も、受け止め方に差があった。管理職の78%が使用しているが、非管理職では「いやな気持ちになる」が30.6%、「やる気が出る」は17.3%と、明確なギャップが見られた。
このフレーズは確証バイアス(自分の考えを正当化したくなる傾向)に基づいており、部下には「考える余地を与えられていない」「信頼されていない」と感じさせる可能性がある。
「なんとかなるよ」は安心感を与える言葉なのか?
スケジュールへの不安を抱える部下に向けた「なんとかなるよ、とにかくやってみて!」という声掛け。管理職の81%が使用しているものの、非管理職の35.3%が「いやな気持ちになる」と答えた。特に20歳代では、その割合が48.3%にのぼっている。
楽観的な言葉が、若年層には「責任の丸投げ」と受け取られやすい傾向があり、支援の曖昧さや評価の不明確さに対する敏感さが背景にあると考えられる。
なぜ管理職の54.3%は「気付けなかった」のか? 背景にある「無意識の偏り」
こうした声掛けのすれ違いは、表面的なコミュニケーションの問題ではなく、職場の心理的安全性や信頼関係に直結する、本質的な課題だ。無意識のうちに部下を追い詰め、組織全体に悪影響を及ぼすリスクも含んでいる。
調査結果からは、多くの管理職が「悪気はなかった」と考えている一方で、実際には部下が傷ついている実態がうかがえる。RCIJは、このギャップがハラスメントや離職といった初期兆候を見逃す要因になり得ると指摘し、その背景には「無意識の思い込み(認知バイアス)」があると分析している。
善意の言葉であっても、発言者自身が気付かない「偏り」によって、不快感や萎縮を引き起こすことがある。その結果、職場の生産性や人材の定着、ひいては企業の評判にまで悪影響を及ぼす可能性があるとRCIJは述べている。
RCIJでは、リスク発生時の情報発信や炎上対応など、リスクコミュニケーションに関する教育・支援を行っている。調査結果の詳細は、RCIJの公式サイトで確認できる。