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発達障害の特性のある子どもを持つ親や家族への支援【精神的負担】編 〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説

コクリコ

発達障害の特性のある子の母親が抱えるストレスのうち、「精神的負担からくるストレス」への対応と支援について、言語聴覚士・社会福祉士の原哲也先生が解説します。

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発達障害や発達特性のあるお子さんと保護者の方の関わりについて、言語聴覚士・社会福祉士であり、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表として、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってきた原哲也先生が解説します。

「発達障害の特性のある子を持つことによる精神的負担からくるストレス」への支援

発達障害の特性のある子を育てる母親は、定型発達の子どもとの違いを感じるしんどさ、将来への不安、周囲の目が気になるなどの精神的負担を感じています。

今回は、その「発達障害の特性のある子を持つことによる精神的負担からくるストレス」への対応について考えていきます。

周りの人の協力

母親の精神的負担からくるストレスへの対応の第一は、周囲の人の精神的な支えです。

①家族の協力

発達障害の特性のある子どもの子育ての大変さを父親、祖父母などの家族が理解し、協力して子育てをしてくれることで、母親の負担は、物理的にだけでなく、精神的にもずいぶんと軽くなるはずです。

両親が子どもの状況についてじっくり話し合い、家族にも協力をお願いして、さまざまなことを分担する。家事の分担、父親が休みの日には父親が子どもをみる、通院時は祖父母が他の兄弟をみてくれる、など小さなことから大きなことまで周りの人ができることはたくさんあります。

そのような協力によって物理的な子育ての負担が減ること、そして、協力してくれる人がいる心強さは、母親の精神的負担を軽くします。しかし実際は、

●父親が子育てにコミットしない
●父親や祖父母が子どものことは母親がするものと思っている
●父親や祖父母が子どもの状況を十分に理解していない中で、厳しくしつければよくなるといった間違った子育て観を母親に強要する

などの状況があって、母親にさらなる精神的負担をかけていることがあります。

父親や祖父母を含めた家族の気持ち、彼らに子どもの現状を理解してもらい協力体制をつくるにはどうしたらいいかについては、次回以降で取り上げたいと思います。

②友人の支え

保護者から、親自身の友人が精神的な支えになってくれたという話を聞くことはよくあります。親自身が自分の気持ちを開示し、話を聞いてもらうことで楽になることは、自分を取り戻すために大切なことです。

ただ一方で、発達障害についてよく知らない人に話をすると、かえって傷つくこともあるように思います。そこは過大な期待をせず、話す相手を選ぶことが必要だろうと思います。

発達障害の特性のある子どもを育てる親同士の支え合い

①「親の会」

地域の発達障害の特性のある子をもつ親による「親の会」には、「発達障害の特性の子を育てる先輩」がいて、今困っていることや将来への不安など共通の悩みについて話し合うことができます。

また、先輩参加者は、就園、就学、進学、就職などについてや療育の場所の情報など、居住地域の情報を多く持っています。療育や進学等の制度は自治体ごとにかなり異なるので、地域の情報は貴重です。

さらに、特別支援学級や特別支援学校の実情なども「先輩」はよく知っているものです。地域の保健センターや児童発達支援センター、医療機関、そして保育園・幼稚園、小学校など、教育、医療、福祉の機関はどうしても縦割りになり、機関同士の連携や情報共有が十分ではないことがありますが、「先輩」は横断的な情報を持っていたりします。

一般社団法人 日本自閉症協会には、全国の親の会の情報があります。一度のぞいてみられてもよいのではないでしょうか。
https://www.autism.or.jp/accession/

親同士が顔を合わせてつながることはとても大事なことです。私の事業所では、事業所主催のワークショップで保護者が交流したり、自然発生的に保護者がお茶会を開いて交流することがあります。そのときの保護者の表情を見ていると、どの方も、普段子どもと一緒にいるときは明らかに違う、穏やかな表情をされています。わかり合えること、支え合うことの大切さを感じます。

②ペアレント・メンター

『ペアレント・メンター』という制度があります。自らも発達障害の特性のある子の子育てを経験し、かつ相談支援のトレーニングを受けた『ペアレント・メンター』が、対面して話を聞いてくれた上で共感的なサポートを行い、同時に地域の情報を提供してくれます。

日本ペアレント・メンター研究会のHPには、「高い共感性に基づくメンターによる支援は、専門家による支援とは違った効果があることが指摘され、厚生労働省においても有効な家族支援システムとして推奨されています」(日本ペアレント・メンター研究会HP https://parentmentor.jp/parent-mentor)との記載があります。

専門職に相談するのがよいということはわかるが、緊張してしまってうまく相談できないかもしれないという方は、ペアレント・メンターのほうが話がしやすいかもしれません。

残念ながらメンターの数はまだ多くはなく、近くに必ずメンターがいるといえる状況にはないのですが、興味のある方は、日本ペアレント・メンター研究会のHPでぜひ、探してみてください。
https://parentmentor.jp/local-organization

③SNSや当事者の情報サイト

Xやインスタグラムなどでは、多くの発達障害の特性のある子を持つ親が発信をしています。そこで同じ状況の中で同じ悩みを持つ人同士が交流することで、気持ちを吐き出したり、支え合うことはあるのだと思います。ずっと年上のお子さんを持つ方の発信は、まだ小さいお子さんを持つ方にとって、将来を考える参考になることも多々あるでしょう。

ただ、匿名での情報発信では、情報が間違っていることもあります。また、それが必ずしも我が子にあてはまるわけではありません。なので、何かを取り入れる場合はぜひ、お子さんがリアルで療育を受けている専門職に相談してほしいと思います。また一般的なネットリテラシーが必要であることももちろんです。

「障害受容」のこと

我が子に発達障害の特性があることを受け入れる(障害受容)のは、たやすいことではありません。「普通」であることを求める日本社会の特徴が、障害受容をより困難にしているように私には思えます。

上の図は、親の障害受容に関するモデル図です(親の障害の認識と受容に関する考察──受容の段階説と慢性的悲哀 早稲田心理学年報 = Waseda psychological reports (27), p83-92, 1995-03東京 : 早稲田大学大学院文学研究科心理学コース ; 1969)。https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/ld/z12020/z1202001.html#g10

この図からは、親は子どもの状態について、否定の時期→肯定的になる時期→否定の時期を繰り返しながら徐々に障害を受容していくことがわかります。

子どもの現状を理解し、対処し、少し先が見えてきたと思ったら、次の課題が見える、という日々の中で、肯定の気持ちと否定の気持ちを繰り返す。その様子は、長年、療育の現場で保護者の方と関わっているとよくわかります。

それまで子どもの障害を受容しようと努力し、療育に取り組んできた保護者の方が、それでも、入園入学、進学等の節目節目で我が子を定型発達の子と比べて気持ちが乱れてしまう。一筋縄ではいかないその気持ちがあるのに、支援者などから「子どもの現実を受容できていない」と言われることがあり、そうして「障害受容ができていない親とみられること」自体が、また保護者を苦しめる、ということもあります。

親が障害受容ができていると子どもの経過が良いという研究もありますが、だからといって受容できるものでもありません。子どもの障害受容は極めてパーソナルなことがらであって、本人以外が「障害受容を求める」ものではないと私は思っています。

最後に

長年発達障害の特性のある子どもと家族、特に多くのお母さんたちと関わってきて、お母さんを支援者として応援しなくては、と強く思ってきました。

子どもが自分らしく生きることが大事なように、母親も自分らしく生きることが大事です。「お母さんが自分らしく生きる」家庭は、子どもが「自分らしく生きる」家庭でもあります。ですから、ぜひ、子育ての協力体制を整えて、母親を支援したいのです。

次回から、母親以外の家族について考えていきますが、その中でも、母親の支援については考えていきたいと思います。

ーーーーーーーー
今回は、「発達障害の特性のある子どもを育てる母親への支援」の中から、「発達障害の特性のある子を持つことによる精神的負担への支援」」について原哲也先生に解説していただきました。さまざまな支援がある中で、「親の会」や「ペアレント・メンター」など、身近に相談できる機関もあることをご紹介しました。専門家への相談と併せて、参考にしていただければと思います。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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