赤ちゃんにヤキモチ!? 上の子の“本音”に気づいたら 「兄・姉の自覚を育む」〔絵本のプロ〕が伝授する魔法の言葉とは?
「弟妹ができた上の子」に贈りたい絵本として、『おへそのあな』『あかちゃんがやってきた』を紹介。絵本コーディネーター・東條知美氏が厳選。連載「子どもの本のプロが選ぶギフト絵本」第4回。
【▶画像】子育てのモヤモヤどうしてる? 会話型AIにママが相談絵本は、子どもへの贈りものに最適なアイテム。とはいえ、数ある絵本の中から年齢や好み、贈るシーンに合った1冊を選ぶのは、なかなか難しいもの。連載企画【子どもの本のプロが選ぶギフト絵本】では、絵本の専門家が、子どもにも親にも喜ばれる贈り物にふさわしい絵本をセレクトします。
第4回は、絵本コーディネーターの東條知美(とうじょう・ともみ)さんが、「弟妹ができた上の子」におすすめの絵本を紹介します。
命の誕生を赤ちゃんの視点で描いた絵本
赤ちゃんが生まれる──。ご家族にとって、とても待ち遠しい出来事ですね。親御さんは、上のお子さんに、赤ちゃんが生まれることをいつごろ伝えるのでしょうか。
生まれた赤ちゃんのことを兄姉の視点から描いた絵本はたくさんあります。生まれる前から、家族みんなで赤ちゃんが誕生する喜びを共有できたら素敵ですね。
上のお子さんに余裕を持って絵本を読んであげられるのは、実は出産前なのではないでしょうか。新たな赤ちゃんが生まれるまでの数ヵ月間を、ご家族で心ゆくまで楽しんでほしい。そんな想いが贈る相手に伝わるような2冊を選んでみました。
最初にご紹介するのは、『おへそのあな』(BL出版)。お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんが、実はおへその穴から、お兄ちゃんやお姉ちゃん、お父さんの様子をのぞいているという、ユニークな視点で描かれた絵本です。
『おへそのあな』(作:長谷川義史/BL出版)
「みて みて、 ロボット つくったよ。うまれてくる あかちゃんに あげるんだ。」
はじめに登場するのは、お兄ちゃん。赤ちゃんと一緒に遊ぶためのロボットを作っているようです。赤ちゃんの誕生を今か今かとワクワクしながら待っている気持ちが伝わってきますね。すると、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんが語りかけます。
「おへその あなから みえる みえる。」
「おにいちゃんが みえる。なにしてるのかなぁ。」
赤ちゃんは頭を下にしてお母さんのお腹の中にいますから、見える景色がすべて上下さかさま。そんな絵の描き方もおもしろいですね。赤ちゃんがたしかにそこに存在していることが、上のお子さんにしっかりと伝わる構成になっています。
そのころ、お姉ちゃんは何をしているかというと、きれいな花を赤ちゃんに見せてあげようと、植木鉢の小さな芽に水をあげています。お父さんは、ギターを抱えて赤ちゃんを歓迎する歌を作っているようです。家族みんなが、赤ちゃんの誕生を心待ちにしているのですね。
そんな家族のようすを眺めたり、優しい声を聞いたり、においをかいだりして、赤ちゃんは満足げにほほえんでいます。
上のお子さんは、赤ちゃんに会えるのが楽しみで仕方がないという気持ちに共感すると同時に、「みんなが待っている」それは「きっとうれしいことだろう」と、赤ちゃんの気持ちを想うこともできるでしょう。
そして、ラストシーンに描かれた美しい満月と、今まさに咲こうとしている花。その絵とシンクロするように語られる赤ちゃんの言葉が、じーんと胸に染み渡るとてもドラマティックな絵本です。非常にわかりやすくやさしい文章で書かれているので、小さなお子さんへのプレゼントにもおすすめですよ。
兄・姉になる意識が自然と芽生える1冊
次にご紹介するのは、『あかちゃんがやってきた』(福音館書店)。作者は、『魔女の宅急便』でおなじみ、角野栄子さんです。
『あかちゃんがやってきた』(作:角野栄子、絵:はたこうしろう/福音館書店)
主人公は、お母さんから「あかちゃんが うまれるの」と聞かされた「ぼく」。その瞬間から、生まれてくる赤ちゃんにさまざまな想いをめぐらせるのですが、さっそくやきもちを焼いたり、お母さんのお腹に話しかけても返事がないから「本当にいるのかな」と疑ってみたり……。お兄ちゃんになる「ぼく」の素直な気持ちが描かれています。
ある日、赤ちゃんのものを買いに出かけるお母さんについていった「ぼく」は、はりきってお手伝いをします。買うものはベビー服や絵本、おしゃぶりなど、全部で17個! 数字に興味を持ち始めたお子さんなら、絵を見ながら一緒に数えてみるのも楽しいですね。
また、「ほかに足りないものはないかな?」「○○ちゃんが赤ちゃんだったら、何がほしい?」などと、お子さんに相談してみるのもよいでしょう。赤ちゃんが生まれると、どうしても赤ちゃんに時間や気持ちがとられて、上のお子さんに寂しい想いをさせてしまうことがあるかもしれません。
でも、親御さんから“良き相談相手”として頼られているとわかれば、自尊心が満たされて「僕(私)もお母さんの力になれるんだ」と、大きな自信が湧いてくるはず。お兄ちゃんお姉ちゃんという、素晴らしい立場になる意識が自然と芽生える──。そんなきっかけを与えてくれる絵本ではないでしょうか。
そして、とうとう赤ちゃん誕生の日がやってきます。生まれてきたのは、男の子かな、女の子かな──? 続きは、読んでからのお楽しみ。新鮮な驚きのあるラストシーンで、親子で楽しめる1冊です。
絵本の優しい言葉や楽しい絵は、子どもだけでなく、大人をリラックスさせる効果もあります。赤ちゃんのお世話で大変な日々を送るお母さんやお父さんも一緒にわかちあって、家族で素敵な絵本の時間を過ごしてほしい。そうしたメッセージと共に贈ってみてはいかがでしょうか。
取材・文/星野早百合