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バンドリーダー伊藤銀次が語る松原みき「真夜中のドア」世界的ヒットは誰よりもうれしい!

Re:minder

1980年01月21日 松原みきのファーストアルバム「POCKET PARK」発売日

世界中で突然ブレイクした「真夜中のドア」


今年でリリースから45年が経った松原みきさんの「真夜中のドア〜stay with me」が世界中で突然ブレイクしたことは僕にとっては、他の誰よりもうれしく驚きな出来事だった。

この曲は自分の音楽人生の中でも忘れようとしてもけっして忘れられない曲。実は僕は、彼女がこの曲でデビューした1979年から1981年までの約2年間、みきさんのステージバンド、カステラムーンのリーダーを務めて、もう何度もこの曲を演奏した体験を持っているからなのだ。

松原みきのバックバンドのリーダーをという依頼


いろんなところで僕が書いたりしゃべったりしてるように、1977年に初のソロアルバム『DEADLY DRIVE』をリリースしたものの、ほとんど評価されず、勇んで始めたソロ活動もままならない僕はCMソングの作編曲やギター教則本の執筆で息をつないでいた。

そんなとき、ポケットパークという音楽事務所から、これからデビューする松原みきさんというアイドルのバックバンドのリーダーをやってもらえないかという依頼があった。

うん? アイドル? なぜ僕に?

1970年代から1980年代前半にかけての日本の音楽シーンは、いわゆる歌謡曲の女性アイドル全盛。あたりまえのようにバックバンドつけているアイドルなんかいなかった。

僕になぜアイドルの仕事がきたのだろうと、頭の中にいっぱいクエスチョンマークを浮かべながら、とりあえず『POCKET PARK』というデビューアルバムを聴いてみることにしたら…。

それまでのアイドルの歌には絶対になかったハイセンスな洋楽感


もうそれはぶったまげたね。1曲目の「真夜中のドア〜stay with me」が耳に飛び込んできた瞬間に、それまでのアイドルの歌には絶対になかったハイセンスな洋楽感、そしてまだ20歳にもなってないというのにその成熟した歌のクオリティーの高さに衝撃を受けたよ。そしてそのままアルバムを聴いていくと、どの曲もどの曲も、その頃のアメリカのAORの匂いがぷんぷん。林哲司さんの作編曲とパラシュートの演奏がかっこよくて、もうすっかりしびれてしまった。

そのときふっと頭に浮かんだのが、これってシュガー・ベイブがやろうとしてたことじゃん? シュガー・ベイブの『SONGS』はリリース当時、マニアックな音楽という扱いをされて、まったく売れなかったというのに、同じような洋楽ポップスの匂いを持つ音楽をいまアイドルがやろうとしている…。これはすごいことだ。僕は直感的に、音楽シーンの潮目が変わってきたように感じて、もう即答で引き受けることにしたのだった。

まさに新しい時代のアイドル


そして、いよいよそのみきちゃんに(どうも “みきさん” はなんかそらぞらしくて僕の中で落ち着かないので、ここからは、かって彼女のバンドにいたときの呼び名 “みきちゃん” でいきます)会ってみて、さらに実際にステージを共にするようになると、僕が当初描いていたみきちゃんのアイドルというイメージはもろくも崩れさったね。

僕と同じ大阪出身で、かやくご飯やお好み焼きが大好きな、その年齢なりのきゃぴきゃぴした部分もあるけれど、今ふり返れば、同時代のアイドルたちと比べて、新人とは思えない成熟した歌のクオリティーの高さに比例するような、どこかアーティスティックな部分を感じることができた。それはアーティスト特有のガンコなところとか。まさに新しい時代のアイドルだった。

だけど、あの時代にそれをなるべく表には出さずにやっていかなきゃならなかったのはけっこう大変だったんじゃないかと今になって思うね。

サンキュー!! みきちゃん、すばらしい機会をありがとう!!


みきちゃんとの2年間は、僕にとっては何もかもが初めての体験ばかりだった。これまで自分とはまったく別世界の出来事だと思っていた『夜のヒットスタジオ』への出演や、レコーディングで使われた譜面から、各メンバーのパート譜面を書き分けたり、スケジュールの都合でいつもメンバーのラインアップが不規則なのを、冷静にまとめて同じクオリティーにすることなど、この2年間で体験したことが、その後の僕のプロデューサー生活の大きな基盤になったことは間違いないと思う。サンキュー!! みきちゃん、すばらしい機会をありがとう!!

みきちゃんとのツアーで一番印象に残ってるのは1981年のCUPIDツアー。いまや小説家としておなじみの伊集院静さんが舞台演出をてがけたこともあって、ステージ上に、映画『アメリカン・グラフィティ』に出てきたローラースケートをはいたウェイトレスが給仕するようなレストランのセットが設営されて、そこでみきちゃんといっしょに僕たちバンドも踊りながら演奏するという、まるでミュージカルのようなライヴはまったく未体験なこと。

はじめはとても恥ずかしかったけれど、伊集院さんのきびしいプロデュースぶりから垣間見える、“真のエンタテインメント” の心みたいなものを学ぶことができたのはとても大きかった。

みきちゃんは若くして2004年に惜しくも亡くなってしまった。今もし存命だったならば、「真夜中のドア」の世界的ブレイクをどんな気持ちで受け止めたんだろう。これを機会に、きっと世界に歌いに出かけてたかもしれないと思うと、まだまだ生きて歌っていてほしかったと切に思う。

*UPDATE:2023/08/02

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