【富士山静岡交響楽団の「第128回定期演奏会」浜松公演】 コントラバスに耳を傾けた
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は1月18日に浜松市中央区のアクトシティ中ホールで開かれた富士山静岡交響楽団の「第128回定期演奏会」浜松公演を題材に。原田幸一郎さん指揮によるベートーベン作曲「序曲『コリオラン』」、竹澤恭子さんをソリストに迎えたブラームス「バイオリン協奏曲ニ長調」、休憩を挟んでメンデルスゾーン「交響曲第3番イ短調『スコットランド』」。同じプログラムで19日午後2時から静岡市清水区の市清水文化会館マリナーと大ホールでも公演がある。
1月1日に宮澤敏夫専務理事が亡くなって以降、初の定期演奏会。ロビーには2月6日の「お別れの会」の案内も掲示された。
ただ、演奏は過度な湿っぽさがなく「いつも通り」のクオリティーの高さだった。緊張と弛緩を自在に行き来するベートーベンは、弦をふんわり響かせる着地が心地よかった。竹澤さんのソロは典雅と豪壮をたった一人で表現していた。
しかし、この日はなんと言っても「スコットランド交響曲」が白眉だろう。もの悲しい冒頭部分が、めまぐるしく展開していく。起伏に満ちた第1楽章、軽快なクラリネットが快活な印象を広げる第2楽章、ロマンチックで牧歌的な第3楽章、そしてファンファーレのような金管が幕引きを先導する第4楽章。耳を飽きさせないという点では、これほど旋律のバリエーションが豊かな交響曲もそうはないのではないか。
宮澤専務理事はかつてコントラバス奏者だった。そのことが頭をよぎり、この日は6人のコントラバス奏者の音を中心に耳を傾けた。アクトシティ浜松中ホールの音響効果もあったが、そもそも「スコットランド交響曲」自体、低音楽器の活躍の場が多い楽曲ではなかったか。
舞台から退席する6人の中に、宮澤さんの後ろ姿が見えたような気がした。
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