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マイクロソフトの動きに違和感? AIバブル崩壊の予感がするワケとは【中島 聡×安野たかひろ対談】

エンジニアtype

マイクロソフトの動きに違和感? AIバブル崩壊の予感がするワケとは【中島 聡×安野たかひろ対談】

「今、10年に一度のビッグウェーブが来ている」
「これからはスモールチームにこそチャンスがある時代に」
「ビッグテックの動きに“不気味さ”を感じる」

そう語ったのは、長年エンジニアとして業界の最前線で活躍してきた中島 聡さんと、AIエンジニアの安野たかひろさんだ。

私たちは今、技術革新の波の真っただ中にいる。AIの進化はとどまるところを知らず、かつてないスピードで私たちの働き方、そしてエンジニアの「仕事」そのものの定義を変えようとしている。

この波に乗り遅れてはいけないーーそう感じつつも、具体的に何をすれば良いのか、漠然とした不安を抱えていないだろうか? AIを使いこなすことが求められる時代、あなたのスキルは、そしてキャリアは、どのように変化していくべきなのだろうか?

その答えのヒントを、フリーランスや派遣エンジニアの紹介事業を手掛けるPE-BANK主催のITエンジニア向けイベント『ProTechOne 2025』(2025年6月14日開催)で展開された中島さんと安野さんのトークセッションの一部から探ろう。

ソフトウエアエンジニア 実業家
中島 聡さん(

@snakajima

早稲田大学大学院理工学研究科修了・MBA(ワシントン大学)。1985年に大学院を卒業しNTTの研究所に入所し、86年にマイクロソフトの日本法人(マイクロソフト株式会社、MSKK)に転職。89年には米国マイクロソフト本社に移り、ソフトウェア・アーキテクトとしてMicrosoft本社で Windows 95 と Internet Explorer 3.0/4.0 を開発。Windws95に「ドラッグ&ドロップ」と「(現在の形の)右クリック」を実装したことによって、両機能を世界に普及させる。後に全米ナンバーワンの車載機向けソフトウェア企業に成長するXevo(旧UIEvolution)を2000年に起業し、19年に352億円(3億2000万ドル)で売却。元EvernoteのCEOが立ち上げたmmhmmの株主兼エンジニア。現在はフルオンチェーンのジェネラティブアートの発行など、Web3時代の新たなビジネスモデルを作るべく活動している。堀江貴文氏に「元米マイクロソフトの伝説のプログラマー」と評された

AIエンジニア&起業家&SF作家
「チームみらい」党首
安野たかひろさん(@takahiroanno)

1990年生。エンジニア。東京大学 松尾研究室出身。外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループを経てAIスタートアップ企業を二社創業。デジタルを通じた社会システム変革に携わる。日本SF作家クラブ会員。内閣官房デジタル行財政改革戦略チーム構成員。東京都AI戦略会議委員。一般財団法人GovTech東京アドバイザー。近著に『1%の革命 ビジネス・暮らし・民主主義をアップデートするみらい戦略』(文藝春秋)、『はじめる力』(サンマーク出版)

AIと共に進化する「AI用言語」の開発へ

安野:ここ数カ月の間だけでもAI業界ではさまざまな動きが見られていますね。

中島:長くエンジニアを続けてきた中で、10年に一度くらいの頻度で「これはやらなければならない」というプロジェクトが頭に浮かび上がってくることがあるのですが、まさに今その状態です。おかげで毎朝4時に起きてコーディングしていますよ。

安野:その「やらなければならない」プロジェクトとは具体的にどんな内容なんですか?

中島:AIとの付き合い方に関係するものです。

私の性格上、ニューラルネットワークのハイパーパラメーターを微調整しながらトレーニングする……といった作業は向いていないんです。時間がかかりますから。かといって、AIアプリやAIエージェントを使ってみてもどうもピンとこない。なので、まずはAIをより扱いやすくするためのオープンソースプロジェクトを始めました。その結果完成したのが「Graph AI」です。

これはデータ間の依存関係をグラフで記述し、各ノードがAIを呼び出す仕組みになっています。グラフを変更するだけで、システムがAI呼び出しを最適化してくれるわけです。あるデータをAIに渡して、返ってきた結果を分解し、今度は音声合成のAIに渡す……といったように、複数の並行処理の実現を目指していました。

グラフ記述言語にJSONを採用して実験を重ねたのですが、簡単な処理はできるものの、なかなか複雑なリクエストには応えてくれなかったんですよ。正直、少しがっかりしましたね。

ただ、考えているうちに「AI用の言語を作ればいいのではないか」というアイデアがひらめいたんです。人間用の言語でやらせているから無理があるのではないか、と。

安野:LLMに読ませる専用の言語を想定されている、ということですか。

中島:読ませて、書かせることを想定しています。AIは質問すると言葉で答えてくれますし、絵やビデオを作ってと頼めば作ってくれます。しかし、絵もビデオも言葉も、全て人間用のものですよね。

だから、AIが何かを表現したいと思ったときに、AIにとって便利な言語を定義してあげる。そして、その言語で表現されたものを、コンパイラが動画やPodcast、スライドにしたりする、というわけです。

安野:逆転の発想ですね。AIが自然言語に近付くかと思いきや、AI用の中間言語を用意した方が良いのではないか、と。

中島:この言語を「MulmoScript」と名付け、言語設計とコンパイラ作成の両方を進めていますが、かなり良い感じです。ChatGPTやClaudeに与えると特殊なプロンプトになるので、人間が読んでも意味不明。ですが、AIには非常に分かりやすいようです。トライアルしているうちに、ChatGPTとClaudeがMulmoScriptで話すようになっていきました。

安野:新しい言葉を作り、それをAIに教えるというのが、中島さんにとっての「10年に一度のビッグウェーブ」なんですね。

中島:AIを最大限に活用する方法を追求するのは、楽しくて仕方がないですね。

ただ、「AI版の会計ソフト」のようなサービスだと、作ってもすぐに時代遅れになるような気がしていました。ネーティブなAIが直接できない部分にチャンスがあるのは間違いないですが、その期間は1〜2年かもしれませんよね。

小さなアプリを作っても意味がないと考えた結果、「AIが頑張るための言語」であればAIの進化と共に生きていけるのではと思い、とてもワクワクしました。

今のAIには、インターネットやスマートフォンが登場した時に「これは」と思ったのと同じような感覚があります。スマートフォンが出た当時もいろいろ開発してみましたが、ビジネス的には失敗し、その市場を逃してしまったので、今回こそはと思っているんです。

AIの生産性はエンジニア40人に匹敵? スモールチームで戦う時代

安野:中島さんはさまざまものを開発していますが、その過程でどの程度AIを活用しているのか非常に気になります。

中島:生産性でお答えすると、3倍から5倍程度には上がっています。個人的な感覚ですが、これは会社組織における40人分程度の生産性に相当すると思っています。

大規模なプロジェクトだと10人、20人、あるいは100人といった人員を雇いますよね。そのうち40人程度がエンジニアだったとしても、生産性は40倍にならないんです。全員が同じだけの生産性を発揮できるわけではありませんから、せいぜい3倍程度でしょう。

つまり、AIがパートナーになってくれれば、私一人で40人分の能力が出せるわけです。

安野:個人でできることが非常に増えましたよね。スモールチームの時代だと強く感じます。CursorやDevinのように、数十人の社員で評価額として数十億ドルまで達しているケースもありますし。

中島:昔であれば、大きなことをしようと思ったら、まず資金集めをしなければなりませんでした。ですが今はその必要性も薄れていますよね。

人を雇ってしまうと、売上が入ってこなければ潰れてしまうため、資金を集めなければなりません。資金を集めると、今度は投資家に対してリターンを出さなければならないため、さらに人を雇って膨張する……という無理が生じますから。

安野:マネジメントスタイルもかなり変わりそうですよね。

複数のエンジニアに同じタスクを与えて、より良い方だけを採用するというマネジメントは人間相手では難しいですが、AIであれば容易い。「今月はDevinくん2体で十分だけど、来月は忙しいから100体くらい稼働させて、再来月になったら休止させよう」といったスケールもしやすいですしね。

聞こえてくるAIバブル崩壊の足音

安野:1年前のAIのIQは90前後くらいだったと記憶していますが、現在は130程度になっているとか。一体どこまで賢くなっていくと思いますか?

中島:AIの成長は、投じるお金によってある程度決まります。そう考えると、すでに数十億ドル規模の資金が投じられているので、次の段階へ進むには1000億ドル以上の資金が必要になるでしょう。資金は有限なので、どこかで飽和するか、これ以上は資金を投じられない、という地点が来るだろうと思っています。

加えて、電力にも同じことが言えそうです。

安野:OpenAIも、ソフトバンクなどから多額の資金調達ができている話があるので、あと2段階くらいは拡大できるかもしれませんね。

中島:そうなると、サム・アルトマンがAGIと呼んでいるレベルには軽く到達するのではないでしょうか。

ただ、私は一つ不気味に感じているポイントがあるんです。マイクロソフトとOpenAIの関係です。

一応契約上は、「OpenAIのテクノロジーはマイクロソフトが自由に使い、OpenAIはサーバーにマイクロソフトのAzureを使わなければならない」となっているはず。しかし、マイクロソフト側がOpenAIの要求に全て応えられないため、一部がオラクルなどに流れている状態ですよね。要はOpenAIは「もっとやりたい」と言っているのに、マイクロソフトがそれに対しノーと言っているのではないかと。売上にもつながる大チャンスのはずなのに。

巨大な資産を持ち、確実に購入してくれる顧客がいるにもかかわらず、さすがに今以上の額を一社で負担するのは怖いと考えている。これは、マイクロソフトがリスクを感じている証拠だと思うんです。

インターネットバブルの後、莫大な資金を投資して作られた光ファイバーネットワークの会社が潰れていきました。それが安く買い叩かれたおかげでインターネットが普及したという歴史もありますが。それと同じようなことがAIにも起こるかもしれない、と感じているのではないでしょうか。あと1〜2年はこれまで通り伸びていくとは思いますが。

「一歩ずつ成長」から「大きく飛躍」を狙え

安野:中島さんのお話を聞いて、AIがもたらす変革の波は想像以上に大きく、エンジニアとしてこの変化をどう捉え、どう行動するかが問われる時代だと改めて感じました。

よく語られている「これからエンジニアはどのようにAIと付き合い、どのようなスキルを磨き、どのようなキャリアパスを目指すべきか」という話も非常に難しくなってきたと思います。中島さんはこの点をどう見ていらっしゃいますか?

中島:ゆっくりと階段を上ることが難しくなった、と感じています。ジュニアと呼ばれるレイヤーの場合、まずは誰かに付いて、比較的簡単な仕事を任せてもらいながら慣れていくのが一般的な成長ステップですよね。しかし、その「比較的簡単な仕事」がAIに投げられるようになってしまいました。

これは単に仕事が奪われるという話でなく、ゆっくりと階段を上りながら勉強する機会の損失です。

安野:では、駆け出しのエンジニアはどうしたら良いと思いますか?

中島:まず、今の状況が2、3年前と大きく変わったということを強く意識すべきです。どこかの会社になんとか潜り込み、簡単な仕事をしていれば経験が積めて階段を上れる、と思っていたら甘いでしょう。どうしたらいきなり階段を飛び越えて上れるかを考えなければなりません。

ひょっとすると、「AIに教わる」くらいの気持ちでパートナーを組むのが良いかもしれません。ある程度経験があるエンジニアにとって、AIは「優秀なジュニアエンジニア」ですが、本物のジュニアエンジニアにとっては「先生」です。付き合い方は異なりますが、それを活用して階段を上るという意味ではどのレイヤーでも同じだと思いますよ。

中島 聡さん撮影/竹井俊晴 文・編集/秋元 祐香里(編集部)

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