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トレイルランニングのレジェンド 鏑木 毅が語る「モノ」へのこだわり:#05 テーピング

PARCFERME

日本を代表するトレイルランナーの鏑木毅選手に、PARCFERME独自の視点から「モノ」について語ってもらう全6回の連載企画。気候や路面の変化と闘いながら自己のパフォーマンスを最大限発揮することを目指すトレイルランニングにおいて、ランナーはどんな観点でギアやツールを選ぶべきなのか。第5回は、体の保護や疲労軽減、性能の補助と幅広い役割を担う”テーピング”にフォーカスした。

——たびたびトレイルランニングのレースに出ていると、テーピングをしている選手が増えていることを実感します。鏑木さんはテーピングの重要性についてどう考えていますか?

鏑木 毅(以下、鏑木): 現在ではトレイルランニングにおいて、テーピングは欠かせない重要なアイテムになっています。ロードランではあまり使われませんが、トレイルランでは特に足の筋肉に加わる衝撃が非常に大きいため、テーピングにより筋肉や関節を保護し、パフォーマンスを向上させることができるのです。

——テーピングにどんな効果があるのか、簡単に解説してくださいますか。

鏑木:テーピングをすることで、筋肉の動きをサポートし、パフォーマンスを向上させることができます。例えば膝にテーピングをすることで、膝の無駄な動きを抑えて、効率よく足を動かせるようにします。これにより、エネルギーの消耗を抑え、より長時間走り続けることができます。テーピングは単に防御のためだけではなく、攻めのツールとしても活用できるのです。

例えば100マイル(約160km)レースなら、50km時点で出てくるような筋肉の疲労を、100kmまで引き延ばすことができます。テーピングがあることで、レース後半になっても体が守られているという安心感が得られますし、結果的に後半のパフォーマンスを高めることができます。

私は早い時期からテーピングを積極的に活用してきました。国際的なレースではヨーロッパの選手と戦うこともあるのですが、彼らはあまりテーピングを好みません。そうした“生脚”の選手が競ってくると、「自分はこのテーピングで守ってもらえるから、絶対に終盤に抜けるぞ!」と、精神的に優位に立つことができましたね。

それと、これまでに何度もテーピングのおかげで、“生脚”であれば手術するほどの裂傷などの大怪我を防げた経験が私にはあります。トレイルランニングは転倒や鋭利な岩への接触など、怪我のリスクが高いので、しっかりと保護するためにもテーピングは欠かせません。

膝に施しているテーピングはいずれもGONTEXの「山下り専用膝貼足+5」

——鏑木さんが使っている「GONTEX」のテーピングには、どのような特徴がありますか。

鏑木:まず、通気性が非常に良いため、剥がれにくいのが特徴です。普通のテーピングだと汗で蒸れてしまい、長距離を走る間に剥がれやすくなるのです。

「GONTEX」のテーピングには、貼るだけで適切なテンションがかかる形状に設計された「カットテープ」という便利な製品があります。あらかじめ効果的な形状にカットしてあるうえ、部位により柔軟性の異なるテープを組み合わせる設計になっています。これを適切なテンションで貼ることで、効果が最大限に発揮されます。このテープは、テンションのコントロールがしやすく、特に足首のように複雑な部位にも、簡単に正しく貼れるような工夫もされています。

(上)GONTEXのロールテープ。このタイプは、サポートしたい部位に合わせて、必要な長さにカットして使える。 剥離紙には目盛りがついていて扱いやすい。(左)GONTEXのテーピングのもっとも大きな特徴がストライプ状の粘着面。 外気を取り込み、汗抜けしやすい。故に汗濡れの不快感もなく、テーピング剥がれも防げる。筋肉の伸縮性により近いテンションで作られており、筋肉に過剰な負荷を与えず、適度に筋肉をサポートする。(右)今季の新製品、カーキ色。ロールだけでなくカットテープの商品も充実している。GONTEXの生産・販売を手掛ける株式会社ジーオーエヌの張 茂完代表は、「60年~70年代米軍制服のモティーフにして、今回ハードなアウトドアに結び付けてみました」と、新色の製品に期待をこめる。

GONTEX 伸縮性ロールテープ 幅5cm×長さ5m
https://gon-ff.com/products/rolltape_s

——鏑木さんはどんな部位にテーピングを貼っているのですか?

鏑木:レースの距離やタイプによって、テーピングを貼る部位はさまざまです。100マイルのような長距離レースでは、私は足裏、ふくらはぎ、太もも、腰、背中など、全身にテーピングを貼っています。ウェアに隠れて見えませんが、裸になるとテーピングだらけです(笑)。短い距離のレース、例えば50km程度のレースでも、膝や足、前もも、ハムストリングには必ずテーピングを貼ります。これにより、筋肉への衝撃を緩和し、疲労や怪我のリスクを軽減できます。

——特に工夫しているところはありますか?

鏑木:足裏のテーピングは特に重要です。足のアーチをしっかりサポートすることで、長時間走る際の負担を軽減します。足裏専用のカットテープもあり、これを使うことで簡単に、適切なテンションで貼ることができます。特にトレイルランニングでは足裏にかかる負荷が大きいため、このテーピングがあると足の疲労を大幅に軽減できます。足の横アーチや縦アーチをしっかりサポートすることが重要で、正しく貼ることで走りやすさが格段に向上します。

(上)「足裏貼足4」テーピングのテンションにより、つぶれた土踏まずのアーチを引き戻すサポートを行う。テーピングのテンションにより親指や小指が広がるので、外反母趾・内反小指もサポートする。(左)「山下り専用膝貼足+5」トレイルランニングにおける厳しい下りパートにおいて酷使される、前ももや膝関節を集中的にサポートする。(右)「膝貼足+2」膝から前ももにかけて前後左右に伸びた4本のテーピングは、膝から繋がる筋肉全体をサポートできる長さ・形状となっている。膝蓋骨(膝関節)のブレを抑え、大腿部やハムストリングの筋肉をサポートする。

GONTEX 山下り専用膝貼足+5(膝・前腿サポートテープ)2枚
https://gon-ff.com/products/hiza5?_pos=4&_fid=281cdb75f&_ss=c

GONTEX 足裏貼足4(足裏サポートテープ) 2枚
https://gon-ff.com/products/ashiura4?_pos=9&_fid=281cdb75f&_ss=c

GONTEX 足裏貼足4(足裏サポートテープ) 2枚
https://gon-ff.com/products/ashiura4?_pos=9&_fid=281cdb75f&_ss=c

——さきほど、ヨーロッパではあまりテーピングが普及していないと伺いました。地域による捉えられ方の違いについて教えてください。

鏑木: ヨーロッパの選手はあまりテーピングを使いません。彼らには、オイルを塗って筋肉をほぐすという文化があり、テーピングに馴染みがないのです。一方で、日本ではテーピングが広く使われており、特にトレイルランナーにとっては必須アイテムになっています。私がヨーロッパのレースに出たとき、現地の選手から「日本の選手は何か特別な薬草が入った秘密の薬を貼っているのか?」と聞かれたことがあります。

——鏑木さんご自身も、テーピングを敬遠していた時期があったそうですね?

鏑木:実は昔はテーピングをあまり好んでいませんでした。テーピングを貼っていると、「アイツはいま調子が良くない」と周囲の選手に思われるのではないか、と感じていたからです。

そうした、テーピングに対するネガティブな印象からか、一般的に陸上競技に使われるテーピングは、目立たないよう肌色で作られています。

これに対して、トレイルランニングではテーピングはポジティブなものとして捉えられています。筋肉のサポートを強化し、動きを効率化する。色のバリエーションが豊富で、目立つ柄のものも販売されています。

——私自身も、勝負どころのレースでは派手な柄物のテーピングに挑戦することがあって、俄然「負けないぞ!」という気持ちに火が点きます。どんなに困難な道でも諦めず、トレイルランニング・レースをより逞しく走り抜くためのギアとして、これからもテーピングに注目していきたいと思います!

鏑木:いい意気込みですね。がんばってください!

(左)20km程度と短めの距離を走るセミナーでも、膝周りは特にテーピングは欠かせないという鏑木氏。この日は膝とハムストリング、足首にテーピングを施していた。(右)新製品の「気になるところ全身貼足6」。テーピング慣れしていない人でも簡単に身体中どこでも使うことができ、 75mmという幅の太さがしっかりと筋肉をサポートしてくれる。

<つづく>

鏑木 毅
2009年世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(現UTMB、3カ国周回、走距離166km)」にて世界3位。

また、同年、全米最高峰のトレイルレース「ウエスタンステイツ100マイルズ」で準優勝など、56歳となる現在も世界レベルのトレイルランニングレースで常に上位入賞を果たしている。

著書に「アルプスを越えろ!激走100マイル(新潮社)」「トレイルランニング入門(岩波書店)」、「トレイルランナー鏑木毅(ランナーズ)」、「トレイルランニング(エイ出版)」、「全国トレイルランコースガイド(エイ出版)」「トレイルランニング~入門からレースまで~(岩波書店)」などがある。

2009年のウルトラトレイル・デュ・モンブランでの世界3位はNHKドキュメンタリー番組(DVD「激走モンブラン」)となり、日本でのトレイルランニングの盛り上がりの火付けとなった。
2011年11月に観光庁スポーツ観光マイスターに任命される。
現在は競技者の傍ら、講演会、講習会、レースディレクターなど国内でのトレイルランニングの普及にも力を注ぐ。

アジア初の本格的100マイルトレイルレースである「Mt.FUJI100」の大会会長を務める。また自らがプロデュースしたトレイルレース「神流マウンテンラン&ウォーク」は2012年に過疎地域自立活性化優良事例として総務大臣賞を受賞、疲弊した山村地域の振興、地域に埋もれた古道の再生など地域を盛り上げるモデルケースとなっている。

鏑木毅オフィシャルサイト
https://trailrunningworld.jp/profile/

<写真提供>
鏑木 毅、©富⼠箱根伊⾖トレイルサポート、株式会社ジーオーエヌ、ESS JAPAN、アスタリール株式会社、ペツルジャパン株式会社、THE NORTH FACE

佐々木 希
都内在住ながらほぼ毎週末、登山かランのため山に通うトレイルランナー。野菜ソムリエプロ資格を取得、エステティシャンの経験もあることから健康や身体づくりに目覚め、ヨガ、ランニング、登山、ウェイトトレーニングなどに取り組み、ボディコンテストで表彰台を獲得。2021年からトレイルランニングのレースに参加し、第2回ジャングルぐるぐるMAX G2(80km)女子優勝をはじめ入賞5回。2023年に100マイル・レースであるULTRA-TRAIL Mt. FUJIに初参戦・初完走。良質な脂質、低糖質・高タンパクの材料を中心とした食生活を心がける一方、レース前以外のディナーは好きなメニューを楽しむ。日本大学文理学部卒。

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