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モノンクル SF的世界観と高度で自由な音楽的作品が完成、7年ぶりフルアルバム『僕ら行き止まりで笑いあいたい』インタビュー

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モノンクル 撮影=大橋祐希

モノンクルが7年ぶりのフルアルバム『僕ら行き止まりで笑いあいたい』を完成させた。レーベル移籍・出産・育児などを経て、2人の紡ぐ音楽は「武装を解き」「剥き出しに」なったという。本作は、SF的世界観とともに高度に構造化された、自由で音楽的な作品だ。同時に、夫婦のラフなセッションや子どもの初めて奏でたフレーズも収められた、私的で素朴な家族の記録でもある。「行き止まりは別次元へのポータル」──ポジティブな気持ちで鳴らされるカラフルな音楽は、うっすらと暗いこの時代を温かく照らしてくれるはずだ。本作に至るまでの旅路とリリース後に開催されるワンマンライブへの想いを2人に訊いた。

――7年ぶりのアルバムですね。

吉田沙良(Vo):アルバムを出したいと思いながらずっと曲を作ってましたし、お客さんにもライブで「アルバム頑張って作ってます」「作ります」と伝えていたんですけど、ようやく出せました。

角田隆太(Ba):今回のアルバムには、2024年以降に出した配信シングルと新しく作った曲が入っています。

――つまり、吉田さんの出産に伴う活動休止期間(2023年)を経た現在のモノンクルのモードが反映されたアルバムだと。この2年での変化は大きかったのでは?

吉田:この2年でいろいろなことがガラッと変わりました。レーベルを移籍したタイミングでもありましたし、出産して子育てが始まって。子供ができたことで、自分の時間がなくなったんですよ。制作に割ける時間も以前より減ったと思うんですけど、その分、時間をかけて悩むよりも、スッと決まっていったことが多かった。でも“練る時間がないからしかたなく”という感じではなく、ナチュラルにそこに落ち着いてくれた感覚です。

角田:今は剥き出しのまま出しているし、それがかえってよかったんじゃないかと思います。練ることがいい結果に繋がるとは限らないですからね。こねくり回して変な形になっちゃったり、自意識が乗っかっちゃったり、不必要に人と比べて“ここはやっぱりダメだな”と思っちゃったりすることもあるので。だけど今はそういうものがない。

吉田:生活が変わって、自分だけの人生じゃなくなったことで、手放せるものや人に任せられる部分が増えました。

角田:“これでいいじゃん”と自分を許せる範囲が広がっている感覚です。制作に対してストレスが減ったし、わりと素の状態でお届けできているんじゃないかと思いますね。

吉田沙良(Vo)

――歌もすごくやわらかくなりましたよね。聴いていて、心が浄化されていくような感覚がありました。

吉田:嬉しいです。今思えば、過去の自分の歌は武装しているような感じでした。さっき角田も言っていたように、必要以上の自意識があって、すごくたくさんのもので自分を覆っているような。だけど今の自分はそうではない。武装しなくてもいいと思えるようになってきています。

角田:10月に配信シングルとして出した「奇跡。」という曲は、3年前にできていたんですけど、あの時に出さなくてよかったなと。当時の沙良が歌うのと今の沙良が歌うのでは全く違う。声の出し方もそうだし、表現自体がストレートになったなと思っていますね。

――吉田さんから見た、ここ2~3年での角田さんの変化は?

吉田:曲自体の自由度が明らかに増えましたね。なんか無理がないというか。やりたいことや今面白いと思うことをちゃんとキャッチして、音にしてくれている感じがものすごく伝わってくるんです。歌詞に並んでいる言葉も、すごく角田さんらしいなって思う。基本的に彼は自分の身に起きた話を書くのではなく、物語を紡いでいくタイプなんですけど、それでも人柄がちゃんと出ているなと、以前と比べて断然感じられるようになりました。きっと“子供が成長した時にこの曲を聴いてどう思うか”みたいなことが頭の片隅にあって、それがサウンドにも言葉にも影響しているのかなと勝手に思っています。

角田:そうね。前に2人で話したことがあるんですよ。「自分たちにとってリアリティのある言葉や表現って何なんだろうね?」って。今の僕らにとってはやっぱり子どもに向けて話すことがすごくリアリティのあるものだから、そういう表現ができたらいいよね、みたいなことは思っていました。

角田隆太(Ba)

――アルバム、素晴らしい内容でした。音楽的で豊かで、お二人のミュージシャンシップが感じられると同時に、とても素朴で温かくて、ある側面では家族の記録みたいなところもある。今このタイミングでしか生まれ得なかったアルバムだろうと感じました。

吉田:ありがとうございます。嬉しい。

角田:まさに今のタイミングじゃなければできなかったアルバムだと感じています。7年ってなかなか長い年月だと思うんです。その中で僕らは順風満帆な活動をしてきたわけではないと思うし、きっと選択をいろいろ間違えたりもしました。今回のタイトルには“行き止まり”というちょっとネガティブなワードが入ってますけど、“行き止まりにぶち当たらなかったらこのアルバムは作れなかったな”、“この道筋の中で得てきたものによって、このアルバムができてるんだな”と考えると、決してネガティブなことだけではない……むしろ捉え方によってはすごくポジティブなことだと思うんですよね。行き止まりって、SF作品では、別次元に繋がるポータルとしてよく登場するじゃないですか。同じように人の人生にとっても行き止まりは、何か別のところにステップアップしたり、全く違うところに連れて行ってくれる場所だと思う。その場所をどう捉えるかはその人次第ですけど、僕らは笑い合いたいよね、という。ポジティブに変化して次に進もう、とまとめたアルバムですね。

――アルバムタイトルになっている《僕ら行き止まりで笑いあいたい》というフレーズは、「奇跡。」の歌詞にも出てきますよね。

角田:「奇跡。」の最後の3行がずっと思い浮かばなくて。このフレーズが出てきた時、他の収録曲とも通じるところがあるなと思って、そのままアルバムのタイトルにしました。

吉田:アルバムを作り終えた今、“ここからまた新しい扉を開いて違う次元に行きたい”、“ここがスタートだ”という気持ちが強くて。今、私たちはすごくポジティブで前向きです。来年以降もいろいろな曲を出していきたいし……というふうにビジョンが既に見え始めています。

――私自身もこのアルバムにとても励まされた。きっと励まされるリスナーもたくさん出てくるんじゃないかと。希望を持つのが難しい時代に、リスナーに寄り添いたいという気持ちはありましたか?

吉田:私はそこはあんまり意識していなかったですね。自分たちの生活を送っていたら、結果そうなったというか。

角田:僕も“寄り添いたいな”という気持ちから出てきた表現はないんじゃないかと思っています。ただ、2025年は特に、みんなが行き止まりを感じやすい年だったんじゃないかなと思うんです。分断という言葉をよく聞きますけど、SNS上でフィルターバブル越しに相手を見てケンカしあっていたり、世界情勢もいろいろありましたし。そういう時代からしか生まれ得なかった表現ではあるなと感じますね。

――先ほど“行き止まり=別次元へのポータル”という話も出ましたが、今作はSFモチーフの曲が多いですよね。

角田:SF的なモチーフは裏テーマとしてアルバムの中で広く使いました。沙良がめちゃくちゃSFが好きということで、モノンクルではわりと使っているモチーフではあるよね?

吉田:そうですね。とはいえ、モノンクルの過去の曲でSFのモチーフの曲がいっぱいあるかと言われたら、そうではないですけど。空とかがよく出てきていたくらいかな?

――個人とは独立した宇宙系で、完全に分かり合うことはできないけど、それでもなお繋がろうとする姿勢、諦めない気持ちを歌っているアルバムと私は解釈しました。

吉田:次元って縦にも横にも奥にもいろいろあるじゃないですか。あらゆる次元で曲同士が繋がっているというイメージで制作しました。私個人の話をすると、昔から目に見えないものとか宇宙に憧れていて。“いるのかな? いないのかな?”とワクワクするような気持ちがあったんです。音楽も目に見えないけど、でも絶対に存在しているじゃないですか。それって誰にも否定できないことだから、そういうところにロマンを感じるんだろうなと。そういう意味で、音楽と宇宙って私の中では繋がっているんです。

――目に見えないものは信じられない……ではなく、誰にも存在を否定できないと。なるほど。

吉田:そうなんですよね。だからこそ信じたい。それは目に見えないものだけじゃなく、目の前にいる人に対しても同じです。繋がれると信じ続けるということは、全てにおいて共通していると思います。

――8曲目「Ü?」のクレジットにある「Toy Piano:chibinkvl」という表記が気になりました。これはお子様ですよね?

吉田:そうです。1歳2ヶ月くらいの時だったかな。子供が初めてトイピアノを弾いた時の動画をiPhoneでたまたま撮っていて。それを見返しながら“けっこう天才的だぞ?”と思って、曲にしてしまいました。

角田:赤ちゃんの弾くピアノって、だいたいバンバンバンって叩くような感じが多いんですけど、4小節ループぐらいの長めのフレーズを弾いていたのでびっくりして。

吉田:彼女はなぜかFのキーのフレーズをよく弾くんですよ。Fが好きなんだね、と思いつつ。

――すごいですよね。1歳だったら、音階も理解していないだろうに。

吉田:しかもテンポもしっかりあったんですよ。クリックから全然ズレなくて、修正も一切必要なかったんです。素晴らしいなって……本当に親バカですけど(笑)。

――“天才だね”と思って、すぐに“よし曲にするぞ”って?

角田:すぐにではなかったですけど、曲にしたいねという話は2人でしていました。

吉田:MONONEON(モノネオン)というアーティストがいて。彼は絶対音感があるのかな? こうやって普通に喋ってるような、会話する人の声とかに音程をつけて、音楽にしたものをよくSNSにあげているんですよ。昔から好きでその動画をよく観ていたんですけど、“音楽になると思ってなかったものが音楽になってしまうって、面白そうだな”という実験的な気持ちで今回やってみました。まあ彼女は音階を弾いてくれているので、こっちはコードつけるぐらいだったんですけど。

――そんな「Ü?」のあとの「奇跡。」がまた沁みますし、ラストの「プレピローグ」も素敵です。《そんなおしゃれなメロディいらない》と笑う吉田さんの声が入っていたり、飾らない温度感のセッショントラックですが、どのような経緯で収録することになったんでしょうか?

角田:この曲の詞やメロディは、ちょうど子どもが生まれた日にできて。メモリアルな曲なので、アルバムに入れたかったんです。「プレピローグ」というタイトルはプロローグとエピローグを合わせたもので、“始まりであり、終わりでもある”という意味です。さっきの話にもあったけど、子どもができると、自分たちの人生が今までとは全く違うものになるんですよ。ある意味“今までの自分は死んだな”、“別の人間になったな”と思う。つまり子どもが生まれた日は、始まりであり終わりでもあると。アルバムの最後に置くことで、円環をなす1曲になるんじゃないかという思いもありました。

吉田:曲の最初に入っている自分たちの会話は、恥ずかしいぐらい普段通りで。それを収録することに最初はちょっと不安もあったけど、この曲が入ることでリアリティが出るし、“モノンクルってこんな人たちです”という自己紹介をアルバムの最後にできると思ったので。みんなと変わらない人間味をこの曲から感じてもらえたらと思いますし、そういう曲になったんじゃないかと思っています。

――今作には、モノンクル初のフィーチャリング楽曲が2曲収録されています。「二人芝居 feat. Daichi Yamamoto」「Who am I feat. AAAMYYY」誕生の経緯についても教えてください。

吉田:「二人芝居」は3年前ぐらいに1番までできていたんですけど、今回のアルバムに向けてちゃんと完成させようとなった時に、“2番の頭はラップだね”、“じゃあラッパーは誰だろう?”、“Daichiくんだね”という話になって。「Who am I」も作っている最中に“これはAAAMYYYに歌ってほしいね”とイメージが自然と湧いてきたんです。

――なるほど。楽曲に呼ばれた形だったんですね。いつかライブでのコラボレーションも聴いてみたいです。

吉田:実は12月5日のワンマンライブに、お二人がスペシャルゲストとして駆けつけてくれるんです。フィーチャリング楽曲を制作すること自体、モノンクルにとって初めての試みでしたけど、ワンマンに他のアーティストさんが来てくれることもなかなかないので。私たちにとってめちゃくちゃ新しい挑戦だし、来てくれるみんなにとっても楽しい時間になると思うので、ご注目ください。

角田隆太(Ba)

――貴重なコラボ、楽しみにしています。その日は宮川純さん(Key)、伊吹文裕さん(Dr)、竹之内一彌さん(Gt)を迎えたバンド編成でライブを行うそうですね。

角田:伊吹と純くんは旧知の仲という感じで、7年前のアルバム制作にも参加してもらいました。一彌さんはここ3年くらいでかなり行動を共にしてくれているし、今回のアルバムでも2曲弾いてくれていて。

吉田:新旧織り混ぜ、今のモノンクルを表してくれる3人という感じがしますね。

――アルバムの中で、ライブで演奏するのが特に楽しみな曲は?

角田:「Interstellar」はすごく盛り上がるんじゃないかと思っています。

吉田:既にライブでやっている「HOTPOT」や「GINGUA」のようにみんなで楽しめる曲もあれば、じっくり聴かせる曲もある。一つのライブの中でいろいろなシーンをお届けできるんじゃないかと思っています。あと「Ü?」はライブでどうやろうかなと、今ワクワクしながら考えているところです。……このままいくと、全曲挙げちゃいそうですけど(笑)。

角田:(笑)。自宅でDAWベースで制作したアルバムなので、ライブではいろいろなミュージシャンを呼んで風を吹かせられればと。音源では音が綺麗に収まりきっていますけど、ライブの醍醐味は生音が収まりきらずに出ていくことにあると思うので。その差をぜひ体感しに来てほしいです。


――最近のモノンクルのライブはどんな感じですか?

角田:舞台上のものをお客さんに鑑賞してもらうのではなく、一緒に歌ったり、ダンスをしたり、お客さんと一緒に楽しむようなシーンが増えてきていると思います。その変化は意図的なものではなかったのですが……「ここにしかないって言って」というコール&レスポンスをたくさんする曲があるんですよ。あるライブで、その日の流れの中でコール&レスポンスをやってみたら、その時の映像をお客さんが撮って、SNSにアップしてくれていて。それを見て“なんか楽しそうだね”、“こういうことをもっとちゃんとやっていきたいよね”と思ったんです。あの曲に関しては、そこからコール&レスポンスの時間がどんどん延びていったという経緯があって。

吉田沙良(Vo)

――そんな背景があったんですね。吉田さんはどんな気持ちでライブに臨んでいますか?

吉田:私は昔は“歌詞をしっかり伝えなきゃ”という気持ちが強くて、1曲ごとに1冊の本を読むようなイメージでライブをしていたんですけど、今はもうちょっとフランクに、“音を楽しむ”というスタンスでライブをしています。冗談とかくだらないことを大事にしたいな、みんなが笑ってくれたらそれでいいじゃん、それが一番幸せだな、という気持ちが前よりも増えたのかな。それでみんなとの距離も自然と縮まって、一緒に楽しむようなライブに変化していったのかなと思います。個人的には、あんまりカッコつけずにライブに向かっていけたらという気持ちがあって。アーティストじゃなくて一人の人間でありたいし、お客さんも肩肘を張らずに来てほしいです。頑張って何かを持ち帰ろうとしなくてもいいし、ライブを観たあと、どんな気持ちになってもいいと思うので。

角田:“こういうものが持ち帰れます”というものを提示してもらった方が安心できるかもしれないですけど、モノンクルのライブはそういうものではないと思ってます。僕らとしては“帰り道とかに何かが芽生えたらいいな”、“なので、ちょっと観察してみてください”くらいの感覚。……あっ、でも、12月5日はアナログ盤の先行販売をするから、具体的なものを持ち帰れる可能性はあります(笑)。

吉田:(笑)。今回のアルバム最高なので、きっと、いい映画を観たあとのような気持ちになれるはずです。

――2026年以降の活動については、どのように考えていますか?

吉田:どんどん曲を作って、みんなに新しいものを届けていきたいです。ライブも変わらずたくさんやっていきたい。

角田:今までなかったような活動のしかたや見せ方も、今チームで検討しているところです。なので、僕らもどうなるか分からないですけど、僕ら自身、今後の活動をとても楽しみにしています。新しい形でみなさんと何かご一緒できたらいいな。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=大橋祐希

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