立派だった卒園式から一転!?脂汗が止まらなかった自閉症息子の小学校入学式。不安だった学校生活は…
監修:藤井明子
小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長
心休まらなかったイベントも、徐々に楽しめるようになってきた小学校入学前
幼稚園の頃のあーは、慣れない環境、知らない場所、特別な場面などで過度に緊張し、興奮することが多くありました。しくしく泣いたり、じっと固まって動けなくなったりするのではなく、大きな声で歌ったり叫んだり走り回ったりと「動」に表出するタイプだったために、親は気が休まることがありませんでした。
それが、幼稚園の発表会や運動会を数多くこなすうちに、本人も先生方も親である私たちも段々慣れてきて、練習を積み重ねれば諸々イベントごとを楽しめるようになってきたんです!そしていよいよ迎えた卒園式では本当に立派な姿を見せてくれて……!今思い出しても目頭が熱くなるほどに、あーは幼稚園の3年間で見違えるほど成長してくれたのです。
入学式まで入念に重ねた準備。しかし本番前日、息子の言葉に大反省
だから安心……というか油断していたんですよね。小学校でもきっとそつなくやってくれるだろう、と。
あーの通うことになる小学校は、特別支援学級に進学する子どもを入学式の予行演習に参加させてくれたんです。入学式の前日に、それはありました。
あーは、幼稚園のイベントにも大張り切りで参加するようになっていたので、きっと予行練習も喜び勇んで参加してくれると思ったら……。行く前から超不穏……。道路で砂いじり(もっと小さな頃、機嫌が悪いと無心でやってた行動)、着いてからも体育館に寝そべる、先生に話しかけられても「あーあー」と意味不明な奇声……。
え、なんなの?どうしたの?
がその時の母の本音。
この間(卒園式)はできてたじゃん。みんな君のために心を砕いてくれてるんだけど。
特別支援学級に通う予定のほかの子たちはみんな「ちゃんと」してるよ?
普段私の中には天使母と悪魔母が同居していて、「普通の子なんかいない!私はこの子の個性を大事にしたい!」の天使モードと、「なんでちゃんとできないの、恥ずかしい……みんな頑張ってるのに!」の悪魔モードが常に拮抗しながらもバランスを保っているんですが、この時ばかりは悪魔母モードに転落しましたね……。あるがままの姿を受け止めようという気持ちになることができませんでした。どうしても。
それでも明日は来る。最後まで手は抜いちゃダメだ、これは親としての責務!とお風呂で入学式の練習(名前を呼んだら答える、など)をしていたら、急にあーが 「もう嫌だ」 とそっぽをむいてしまったんです。聞けば、「お母さん、お母さんなのに先生みたい。おうちなのに」って……。これには大反省しました。苦手なことを克服して、小学校生活を少しでも楽しく過ごさせてあげたい一心で、いろいろ準備していたけれど、あーの負担になってたなんて……!
わが子だけどうして……準備が報われなかった入学式
そんなこんなで迎えた入学式は……散々でした。教室に入っても最初から椅子に座ることすらできず、床に寝転がるあー。入学式が始まると、逃げ出すことはしなかったものの、静寂の中で時たま聞こえる歌や声……。私はもう、下を向いて脂汗を流しながらひたすらに耐えるしかありませんでした……。もうほんとごめんなさい周りの全ての人……!!
先生は「よく頑張ってくれましたよ!」と笑顔でしたが、笑顔すらつくれない私の頭の中に浮かぶのは「絶望」の二文字でしかなかった……。
入学式の翌日、通常の登校が始まると意外にも……!
そして入学式の翌日。
「きっと小学校生活にも適応できないだろう……」という私のネガティブな予想に反し、あーはテキパキ……というわけでもないけれど、しれーっと学校に行きました。明くる日も、その次の日も、特にぐずることなく日々を淡々とこなしている……。
そして私は思い出したのです。冒頭のことを。そうだ、あーは元々そういう子だった。特別な場面や新しい環境は実はすごく苦手で、騒いだり不機嫌になるのはあーの不安や緊張の表れで、確かに幼稚園の後半戦はそんな姿は見せなくなっていたけれど、それは本人と先生方の努力の賜物だったんだ。今またあーは静かに自分を新しい環境に適応させようと頑張っているんだ……!と。
そんなあーの心理に気づけず、寄り添うこともできなかった情けない私……。母歴何年なのか……。
落ち込むと共に大きな後悔が押し寄せましたが、ここは切り替えてあーのサポートを頑張ろう!と気持ちを新たにした小学校生活の幕開けとなりましたとさ!
ちなみに……。月日は流れ、6年後。中学校の入学式は問題なかったです。バッチリこなせてました!人は成長する!
執筆/よいこ
(監修:藤井先生より)
入園、入学の季節になると、新しい環境や場面で情緒が不安定になったお子さんの様子に心配になったという相談が増えます。ほかの子はできているのに、なぜわが子はできないのだろうと、悲しくなりましたと涙ながらに話される方もいます。でも、大丈夫です。よいこさんの息子さんのあーさんが、中学生になる頃には入学式は問題なく過ごせるようになったように、時間は要するかもしれませんが、特別な場面や環境の変化があっても、落ち着いて過ごせるようになっていきます。そのためには、不安や緊張がありながらも、さまざまな環境に身を置いて、できたね、という経験の積み重ねが大切になります。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。