上司マネジメントの達人が心掛けている5つの要素
組織で働く以上、上司との関係づくりは避けて通れません。
「“上司マネジメント”ができると仕事がうまくいく」と語るのは、転職サイト「リクナビNEXT」の元編集長で、30年以上にわたり中途採用に携わってきたキャリアのプロ・黒田真行さん。ときには面倒と感じる上司との関係づくりを好循環に変える、「上司マネジメント」実践のコツを聞きました。
上司マネジメントとは、仕事の成果を最大化するスキル
——「上司マネジメント」とは何でしょうか?
「上司マネジメント」という言葉は、 上司との関係を主体的に築き、自分自身や組織の成果を高めるスキル のことです。「ボスマネジメント」ともいわれ、仕事をするうえで非常に大事な力です。
よく誤解されるのが「ごますり」との違いです。実力が伴わないにも関わらず、見せかけの態度で上司に気に入られようとすることは、ほとんどマイナスの結果しか生みません。単なるおべっかや指示待ちではなく、 上司の意図を正しく理解し、主体的に行動すること が上司マネジメントの本質です。
――上司マネジメントができるとなぜ成果があがるのでしょうか?
「上司マネジメント」には、3つのステップがあります。
第1ステップは、自分と上司との関係性が良くなる段階。関係性が良くなれば上司のストレスが少なくなり、組織としての成果が上がりやすくなります。
第2ステップでは、上司との関係性が高まることで、結果的に自分の得意なことや、強みを生かした仕事を任せてもらえるようになります。この段階の特徴は、自分自身の仕事の自由度が極めて高くなることです。
上司との関係性が高まり、得意分野で勝負できるようになると、第3ステップとして上司のフォローが得やすくなります。しかも、ある程度自由に仕事ができるので、成果の質が上がることにつながります。
上司マネジメントの基本3原則 「傾聴力」「タイミング」「相手目線」
——上司マネジメントが得意な人の特徴はありますか?
上司マネジメントが得意な人には、共通する5つの傾向があります。まずは、基本の3原則をおさえましょう。
1. 「傾聴力」――上司の言葉をそのまま受け取る
一番大切なのは傾聴力。上司の話に耳を傾ける力です。人は話を聞くとき、相手の言葉を頭の中で自分の言葉に変換したり、自分なりに短縮して解釈してしまったりしがちですが、 まずは上司が言った言葉を一言一句受け止めて聞き取ること が非常に大事です。言葉を変えない、ということですね。これができると、上司が何を考えているかを理解するための大きなヒントを見つけることができます。
まずは、上司の言葉をメモしてみましょう。自分で要約したり、表現を変えたりするのではなく、ありのままにメモすることが重要です。そのメモを見ながら、「上司はなぜ、他でもないこの言葉を使ったんだろう」などとじっくり考えると、違った景色が見えてくると思います。
2.「タイミング」――報・連・相を見極める
仕事上のコミュニケーションの基本として「報・連・相(報告・連絡・相談)」という言葉がありますが、この「報・連・相」のタイミングひとつで、気の利いた部下かどうかが推し量れるものです。
あなたの都合ではなく、今の上司のごきげんはどうか、直前に上席に呼び出されてストレスをかけられていなかったかなど、上司の様子や状況をよく見て、話しかけるように意識してみましょう。ただし、トラブルが起きたときは例外。いかに早く報告するかが非常に大事で、これもタイミングの選び方の一つだと思います。
3.「相手目線」――上司の立場を理解する
上司の目線に立ち、上司が今どのような立場に置かれているかを理解すること。例えば「上司の上司から何が課題だと指摘されているか」「チームをどういう方向に進めたいと考えているか」などです。その立場は刻々と変化するものでもあるので、上司を日々よく観察し、「上司がその上司にほめられるには」「上司が喜ぶにはどうすればいいか」という視点を持ちましょう。
<実践ポイントまとめ>
上司の言葉をメモする(要約や意訳はしない) 「なぜこの表現を使ったのか?」を考えながら振り返る 上司の機嫌や状況を見て、話しかけるタイミングを考える トラブル時は、迅速に報告する 上司の上司から指摘されている課題を把握する 「上司が評価されるには?」「どんなことを喜ぶか?」を意識する
「共感と補完」「主体性」が上司マネジメントの達人への道
——上司マネジメント上級者は、他にどのような視点を持っていますか?
「共感と補完」「主体的態度」を意識できると、上司マネジメント上級者といえるでしょう。
4. 「共感と補完」――上司の負担を先回りして軽くする
上司の心情に共感して、上司が部下にフォローしてほしいことを先回りして補完する。上司マネジメントの達人は、日々こういった行為もやっているように思います。
5. 「主体的態度」――言われる前に動く
上司に言われる前に主体的に動いたり、提案したりすること。このレベルの人は、上司の懐刀(ふところがたな)、右腕であり、チームの筆頭メンバーとして、自律して課題を解決する人間に成長できたといえるでしょう。
<実践ポイント上級編>
上司が忙しそうなとき、先回りしてサポートする 「自分が動けば、上司が楽になる」ことを意識する 課題を見つけ、自主的に解決策を考える 上司の意図をくみ取り、先回りして行動する
——上司マネジメントを実践すると、どんなメリットがありますか?
上司マネジメントの最大のメリットは、 自分の得意分野を任されることで、自分が組織に貢献している実感が高まり、それが成果につながって、さらなるモチベーションになっていくという好循環ができる ことです。上司との関係づくりは面倒に感じることもあると思いますが、一度この好循環ができると、キャリアを長く支える推進力になります。ぜひ心がけてみてください。
プロフィール
黒田 真行
ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役
1988年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、 リクルートエージェント HRプラットフォーム事業部部長、株式会社リクルートメディカルキャリア取締役を歴任した後、2014年にルーセントドアーズを設立。35歳以上向け転職支援サービス「Career Release40」を運営している。 2019年、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を開始。
代表著書 『35歳からの後悔しない転職ノート』『転職に向いている人 転職してはいけない人』