20代こそ課題や組織の“質”重視で会社を選ぶ。コインチェックCTO・松岡剛志が「楽して稼ぐ」を危険視する理由
“今、20代エンジニアだったら”働きたい会社の三大条件
「何らかの領域で一番になれるくらいの実力を持つ人であれば、会社選びはそんなに重要ではないんです。目の前の技術スタックをがむしゃらに掘っていけばいいわけですから。
だからあえて自分を含めた“凡人だったら”どう戦うかを軸にお話ししますね」
早くも8回目となる本連載。そう前置きしてからインタビューに応えてくれたのは、松岡剛志さん。ヤフー、ミクシィ(現MIXI)、Viibar、レクターと数々の企業の要職を歴任し、現在はコインチェックのCTOを務める。
「先行者がいない場所で戦え」松岡剛志が実践する“凡人エンジニア”が市場価値を高め続ける方法https://type.jp/et/feature/21546/
以前から「凡人」を自称する松岡さん。だからこそ、20代というキャリアの初期に働く会社選びには、松岡さんなりの軸があった。
コインチェック株式会社
常務執行役員CTO 開発・人事本部長
松岡剛志さん(@matsutakegohan1)
2001年に新卒第一期生のエンジニアとしてヤフー株式会社に入社、複数プロダクトやセキュリティに関わる。07年株式会社ミクシィに参画し、複数のプロダクトを立ち上げたのち、13年に取締役CTO兼人事部長に就任。 その後、株式会社Viibarの最高技術責任者を経て、16年に株式会社レクターを創業、代表取締役に就任。19年一般社団法人 日本CTO協会の設立と同時に代表理事に就任、25年7月より理事。そのほか、株式会社うるるの社外取締役を務める。22年8月コインチェック執行役員CTOに就任、執行役員CTO兼CSO、執行役員CTO 開発・人事本部長を経て、24年6月より常務執行役員CTO 開発・人事本部長
目次
「難しい課題」に取り組み続けられることを軸にする情報戦を制する者が、良い会社との出会いを得る「要領良く儲ける」は将来的にはリスクになる?typeで掲載中! 注目のエンジニア求人
「難しい課題」に取り組み続けられることを軸にする
ーー早速ですが、松岡さんはもし今20代だったら、どのような条件で会社を選びますか?
一つ目は、「難しい課題に取り組んでいる」ことです。
圧倒的な規模や速さを実現する「技術的」な難しさ、法整備や組織間のしがらみが複雑に絡み合う「ビジネス的」「社会的」な難しさ……どんなものでもいいですが、「こうすれば解決できる」という方法を簡単に見通すことができない課題に向き合っている会社を選びます。
ーーでも、そういう会社だと仕事の難易度も上がるのでは?
だからこそ、です。難易度の高い課題に挑む会社では、社員が取り組む課題も必然的に難しくなります。そのため、無理やりにでも成長できるのです。
裏を返せば、簡単に解決できるような課題に取り組んでいる会社は、容易にリプレイスされてしまうでしょう。当然そこで働いている人も、希少性のあるスキルや経験を得ることが難しくなる。簡単な問題というのは、要するに自分以外にも解決できる人が多い問題というわけですから。結果、コモディティー化されたキャリアを歩むことになりかねません。
ーー20代のうちから楽な環境に依存してしまうのは危険ということですね。
はい。まだ誰も解決したことのないような問題に取り組んでいる会社で働きたいですね。
そして難しい課題解決に取り組む上では「レベルの高いエンジニアがいること」が大切です。これが二つ目の会社選びの条件です。
どんなに良い課題に挑もうとしていても、周りのエンジニアのレベルが足りなければ、そもそも課題解決は不可能ですよね。なので、優秀な仲間が必要です。
それに優秀なエンジニアが集まっている組織では、働き方やアーキテクチャも洗練されている可能性が高い。こうした環境は、さまざまな歴史や経験の積み重ねの中で築かれていくものですから。成熟したチームに身を置くことで、自分の中の「当たり前」の基準を上げることができるでしょう。
また、成熟しきっていないチームの場合、あるいはエンジニアの人数が極端に少ない場合は、誰からもレビューを受けられない可能性があります。ですが一定の規模のチームになると、当然のように設計のレビュー、コードレビューを受けることができる。レベルの高いエンジニアから日常的にフィードバックをもらえるだけでも勉強になるはずですよ。
ーーキャリアの早い段階から「当たり前の基準」を上げておくことが重要だ、と。では、会社選びで重視したい軸をもう一つ教えていただけますか?
「会社が追い風を受けていること」でしょうか。これも、難しい課題を解くためには必要です。良い課題、良いチームがあっても、事業がうまくいっていなければどうしようもありません。場合によっては「来期には解散します」という事態にもなりかねませんよね。
今成長していなくても、将来的に成長する見込みのある会社を選ぶ必要があります。
ーー追い風を受けているかどうかの見極めが難しそうです。
時代を代表する技術ドメインに注目するといいでしょう。
これまではSaaSやクラウド基盤、SNSが注目されてきて、現在はAIが大きな関心を集めています。私自身は、今後ブロックチェーンや暗号資産がAIと融合することで、どんなインパクトを生み、次の象徴的ドメインになり得るかに注目しています。
VCの投資先を見てみるのも参考になりますよ。世の中から期待が集まっているドメインには、面白い人が集まるものですから。
それから、フェーズが変わる瞬間を迎えている会社もおすすめです。上場や大規模なM&A、経営陣の刷新といった大きな変化は、会社が何らかの勝算を持って取り組んでいることのはず。そのタイミングで入社すればさまざまな機会に恵まれやすくなると思います。
情報戦を制する者が、良い会社との出会いを得る
ーーでは、良い会社と出会うために20代のエンジニアがやるべきことは何でしょうか?
まず、数字に強くなることです。良い会社の定義の一つに「儲かっていること」があるとして、その会社が儲かる会社かどうかを自分で判断できる必要があると思います。
自分に合った方法でかまわないので、一通り勉強すればきちんと利益を上げている会社かどうかが自分の目で見極められるようになるはずです。財務諸表などの数字を読めるようになることを目標としてみてください。
また、会社の成長可能性を見る上では、自分なりの指標やフレームワークを持っておくことも大切です。例えば「TAM・SAM・SOM*」という三つの指標の意味を理解しておく。この三つはいずれも、市場の中で自社がどれだけの利益を生み出せるかを測る指標です。スタートアップが事業を始める際や、投資家が投資先を決める際にも使われる指標なので、ぜひ参考にしてみてください。
聞こえのいいことばかり言う会社に入ってしまって、後で後悔することがないように若いうちから備えてほしいですね。エンジニアの会社探しは「情報戦」ですから。
*市場規模を分析する際に用いられるフレームワーク。事業の成長性や戦略立案の解像度を高めることができる
TAM (Total Addressable Market):獲得可能な最大市場規模
SAM (Serviceable Available Market):自社の製品やサービスでアプローチ可能な市場規模(TAMの一部)
SOM (Serviceable Obtainable Market):現実的に獲得可能な市場規模(SAMの一部)
ーー情報戦を制するために、他にできることはありますか?
自ら積極的にアウトプットすることです。情報というのは、発信する人のところに集まります。いろいろな人と知り合う中で、面接や面談だけでは見えてこない情報を得ることができるでしょう。
アウトプットする内容や形式は何でもいいんです。OSSにコミットするのはかっこいいなと思いますし、技術書典で同人誌を書くとか、Xやブログに技術を試した感想を投稿するとか。技術コミュニティーに貢献したり、ポッドキャストを配信したりするのもいいですね。アウトプットすれば何らかのフィードバックが返ってきますし、それがまた成長につながります。
何より、アウトプットしたもの自体が転職時の名刺になります。自身のキャリアのゲートが広がり、企業から直接スカウトされることもあるかもしれませんから、できる範囲でいいので積極的に取り組んでみてください。
ーー「インプット」はどうですか? アウトプットと対になるイメージですが。
もちろん、インプットも重要です。インプットの場合、ぜひ「仕事以外」のことも吸収していってください。
ーー仕事以外というと、具体的には?
私の尊敬しているエンジニアの中に、毎年一つ新しい言語を勉強して、個人的な開発をすることを続けている人がいます。それも30年以上の間ずっとです。その人を見ていると、日々の積み重ねが技術者としての幅を拡げるんだなとしみじみと思います。
仕事では使わない技術でも、勉強してみると今の仕事に対する理解を深めるヒントが得られるかもしれないし、好きな技術と出会うきっかけになるかもしれない。そもそも、20代は習得している技術の幅が狭いので、自分は何が一番好きなのか分からないものです。だからこそ、自分の知識を広げるような取り組みには大きな価値があります。
あとは、本当に仕事とは関係なく山登りや釣りをやってみるのも一つの手だと思います。
ーー山登りですか?
遊び上手な人って、仕事もできるじゃないですか。そういう人は、仕事外でも積極的にチャレンジするので、豊かな気付きを得る機会が多いんじゃないかなと思うんです。世の中の全てのことはつながっていますから。
山登りの例で言えば、仲間を誘って計画して、実際に登って降りてくるまでの間に得られる学びって、すごい量だと思いますよ。「なぜ自分はあの時アイゼンがいらないと思ってしまったんだ……」と後悔したときに、「Cursorでコードを書く前に、このファイルをきちんと設定しておけばよかった……」と感じたことを思い出して、「山登りも開発もつながってるんだ!」と気付くとかね(笑)
「要領良く儲ける」は将来的にはリスクになる?
ーー松岡さんはご自身の20代を振り返って「もっとこうしておけば良かった」と後悔していることはありますか?
私は新卒でヤフーに入ったとき、最初の半年である程度キャッチアップして以降、約3年間努力するのをサボってしまったんです。慢心していた、と言ってもいいかもしれない。もし今のように副業が当たり前の時代だったら、当時の私も簡単な副業で副収入を得るような生活をしていたでしょうね。
ある日、優秀な新卒社員が入ってきたことで「このままでは抜かれる」と危機感を覚えて必死に勉強を始めたんです。この出来事があったからこそ今の自分があるわけですが、脳の元気な20代の3年間を無駄にしてしまったことは、今も非常に後悔しています。
コインチェック・新CTO松岡剛志「失った時間は返ってこない。大波の気配を感じたら乗る」が強いキャリアをつくる鉄則https://type.jp/et/feature/20304/
というのも、技術者のレベルを決めるものの一つに「深さ」があると思うんです。アプリケーション、OS、メモリ、CPUというように、コンピューターのどこまで深く潜ってそれらの気持ちになれるかが、開発の質を決める重要な要素となります。
潜れば潜るほど、その段階をマスターするのにかかる時間は増えていく。今の自分にはそんな勉強ができる時間がないので、やっぱり時間があった20代前半の頃に学んでおけばよかったと思いますね。
ーーその学びの深さは収入にも関係するのでしょうか? 本業で一定のパフォーマンスを発揮しつつ、副業で稼ぐ……とは違う?
そうですね。最近は「副業で儲けてます」と話す若手エンジニアもいますが、「それでいいのか?」と伝えたくなります。
確かに今はいいかもしれません。でも、そのままだと将来の収入は頭打ちになってしまうと思うんです。
エンジニアの年収データをみると、20代にどれだけ傾斜をつけられるか、つまり急成長できるかが、生涯の年収にダイレクトに影響していることは明らかです。自分はたまたま不確実な時代にエンジニアになったから生き残れましたけど、今の時代だったら、あんな20代の過ごし方をしていたら立ち行かなくなっていたでしょうね。
ーー経験に基づく貴重なアドバイス、ありがとうございます!
いえいえ、いろいろ話しましたけど、年寄りのアドバイスなんて気にする必要ないですよ。生存者バイアスがかかってますからね(笑)
エンジニアの世界は若い人の方がどんどん優秀になっていく世界ですから、何が自分にとって正しいかは、ぜひご自身で判断してもらえればと思います。
取材・文/一本麻衣 編集/秋元 祐香里(編集部)
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