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高齢者の4人に1人が「買い物難民」に…現状と解決に向けた取り組みを紹介!

「みんなの介護」ニュース

山崎 晋平

日本全国で深刻化する「買い物難民問題」の現状

今や高齢者の4人に1人が「買い物難民」に

近年、食料品の購入が困難な「買い物難民」と呼ばれる人々が増加し、注目を集めています。

2024年3月に農林水産政策研究所の公表した「食料品アクセスマップ」(※)によると、高齢者の4人に1人にあたる約904万3000人が買い物難民となっていることが明らかになりました。なお、2015年時点の調査では824万人であり、900万人を超えたのは初めてのことです。

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※食料品アクセスマップは、令和2年国勢調査(2020年)の地域メッシュ統計と店舗の所在地が分かる情報から、「店舗まで500m 以上かつ自動車利用が困難な65歳以上の高齢者」を「食料品アクセス困難人口」として推計したもの。食料品アクセス困難人口は、過去の研究事例等から徒歩で無理なく買い物に行ける距離として500mを設定し、買い物での不便・苦労を感じる人の多くが自動車を持たない65歳以上の高齢者であることから定義されている。

年齢を重ねるほど「買い物難民」になるリスクは高まる

なお、年齢に着目してみると後期高齢者である75歳以上の占める割合は63.0%にも上ります。 

年を重ねるにつれて、どうしても運動機能・認知機能の低下により自身の運転能力に懸念が出てきたり、収入の低下によりマイカーを維持できなかったりして、免許の自主返納に至るケースが出てきます。

加えて、運動能力の低下により自力での長距離移動が厳しくもなっていくと思われます。

年を重ねれば重ねるほど、買い物難民になるリスクは高まるといえそうです。

独身世帯の増加も「買い物難民」増加の一因

日本における独身世帯の増加は、買い物難民問題の深刻化に拍車をかけています。特に顕著なのが、高齢者の独居世帯の増加です。かつては多くの高齢者が三世代同居のもと、食料品や日用品の購入を若い世代に任せることができましたが、現在は70代後半や80代になっても、自力で買い物に行かなければならない人が増えているのです。

この背景には、日本の急速な高齢化があります。80歳以上の人口は、現在国民の10人に1人に当たる1259万人ですが、2035年には1607万人に達すると予測されています。80代以上になると、配偶者を亡くす人が増え、単身で過ごす期間が長くなります。また、若い頃からシングルで高齢期を迎える人も増えています。

実際、高齢者世帯の半数以上が独居世帯で、その多くが80歳以上です。男性の27.1%、女性の44.7%が80歳以上で、女性の場合は85歳以上が24.1%を占めています。

このように、配偶者を亡くすケースの増加と、若い頃からのシングル層の高齢化が重なり、独居高齢者が増え続けています。この傾向は、高齢者の買い物難民問題を一層深刻なものにしていくでしょう。社会全体でこの問題に向き合い、解決策を検討していく必要があります。

過疎地・都心それぞれの「買い物難民」事情

買い物難民になるリスクの高い過疎地・中山間地域

なお、都道府県別で見ると全高齢者数に占める買い物難民の割合は長崎県が最も高く41.0%、次いで青森県37.1%、鹿児島県34.0%と続いており、過疎地域や中山間地域における比率が高い状況です。

過疎地域や中山間地域においては、そもそも商業施設が不足しており、自宅の周りにコンビニやスーパーがないことが多いうえに、バスや電車などの交通手段も限られているため、買い物弱者の割合が必然的に高まります。公共交通が脆弱な地域では、車の運転をやめた高齢者は完全に買い物難民化してしまいます。

さらに、これらの地域では少子高齢化が進んでいる傾向にあります。高齢者は身体的な制約や交通手段の不足から外出が難しいケースが多いです。また、子供や親族が遠方に移り住んでいる場合、高齢者が孤立しやすく、買い物支援を受ける機会が限られてしまいます。

全国でも買い物難民率の3番目に高い鹿児島県では、採算の取れなくなった個人商店の閉店が相次いでいる状況であり、73.0%の市町村において店舗数が減少。そのうえ、バスや電車の本数も減少傾向であるようです(鹿児島県「令和5年度買物弱者等実態把握調査【調査結果報告書】概要版」2023年 p.7)。

実は多い「都心部の」買い物難民

その一方で、三大首都圏(東京、名古屋、大阪)は割合としては比較的高くはないものの、人数で見ると約414万人。買い物難民全体の約半分が都心部に住んでいる計算になります。

店舗も多く便利に思える首都圏ですが、母数が多いことで人数は必然的に多くなるのです。

実例で見る「買い物難民」対策

自治体の「買い物難民」対策状況は?

このように、土地特性にかかわらず買い物難民問題への支援は必須です。

農林水産省の調査によると、全国1089市町村のうち約87%の市町村が買い物難民に対する対策が必要であると考えており、そのうち89.9%が民間あるいは行政にて何らかの施策を実施しています(参考:農林水産省「『食品アクセス問題』に関する全国市町村アンケート調査結果」)。

なお、行政の実施している施策の実施状況を見ると、「コミュニティバス、乗合タクシーの運行等に対する支援」が最も多く80.3%。「移動販売車の導入、運営に対する支援」が一貫して増加傾向にあり33.7%、「空き店舗等の常設店舗の出店、運営に対する支援」が27.8%、「宅配、御用聞き・買物代行サービス等に対する支援」が25.7%となっています。

コミュニティバス等による移動支援

買い物難民問題を解決するためには、高齢者の移動手段を確保することが不可欠です。過疎地や中山間地域では、公共交通機関の減便や撤退により、高齢者が買い物に行くための交通手段が限られています。この問題に対処するため、自治体や交通事業者は、コミュニティバスや乗合タクシーの運行支援を拡充しています。

成功事例の1つが、東京都武蔵野市で1995年に運行を開始した「ムーバス」です。

武蔵野市に住む高齢者から遠くのバス停まで歩くのが困難だという要望を受け、バリアフリーに対応したノンステップ小型バスを採用し、住宅街の中にも入り込むルートでの運行をスタートしました。歩行距離が少なくてすむよう、バス停は200m間隔に設定されています。

現在、7路線9ルートで1日50便以上を運行し、運賃は100円(未就学児は無料)に設定。車内にコミュニティボード(伝言版)や貸出用傘、車いす収納スペースを設置するなど、多くの人が気軽に、かつ安全に外出できるように配慮されています。

運行開始当初は不採算が予想されましたが、客足は予想を大きく上回る結果となり、運行から3年ほどで黒字化を達成。2020年に累計利用者が5000万人を突破するまでになりました。

都市部においても、高齢者の移動支援は課題です。

東京都では、シニア向けの割引制度「シルバーパス」を導入し、高齢者の公共交通機関の利用を促進しています。

「シルバーパス」は、都内に住民登録のある70歳以上の方を対象とした割引制度です。1000円で購入することができ、都営地下鉄、都営バス、都電荒川線、日暮里・舎人ライナー、多摩都市モノレールなどの都営交通機関で、1乗車100円で利用できます。さらに、民営バスや一部の鉄道でも、「シルバーパス」の提示で割引が受けられます。

また、神奈川県横浜市では、「敬老特別乗車証」という制度を設けています。この制度は、横浜市在住の70歳以上の方を対象としており、市内の路線バスや地下鉄、市営バス、金沢シーサイドラインなどで利用できます。敬老特別乗車証には、利用できる交通機関や割引内容に応じて、1乗車100円で乗車できる「敬老特別乗車証100円」と、1日に1回まで無料で乗車できる「敬老特別乗車券無料」の2種類があります。利用者は、自身のライフスタイルや予算に合わせて選択することができます。

「敬老特別乗車証」は、高齢者の外出を支援するだけでなく、バス運転手や他の乗客とのコミュニケーションを通じて、高齢者の社会参加や生きがいづくりにも貢献しています。また、バス事業者にとっても、高齢者の利用増加による収益改善や、地域社会への貢献といったメリットがあります。

全国17万人が利用する移動スーパー「とくし丸」

また、交通インフラの整備と並行して、買い物弱者を直接支援するサービスの展開も必要になってきます。

その成功例が移動スーパー「とくし丸」です。

とくし丸は2023年6月時点で全国1100台以上が稼働し、約17万人が利用しているサービスです。

とくし丸は週に2回決まったコースを巡回し、依頼のあったお宅の前まで出向きます。軽トラックにはお肉や野菜、果物、パンなどの食料品からトイレットペーパー、ティッシュなどの日用品まで積んでいるため、スーパーの店頭に並んでいる商品を購入することが可能です。

さらに、とくし丸は全国の自治体と「見守り協定」を結んでいます。3日に1度顔を合わせることで関係性を築きやすい点を活かし、いつもと様子が異なる場合、異変を感じた場合などに必要な方を地域包括支援センターやケアマネージャー、民生委員とつなげる役目も果たしているのです。

ネットスーパーや買い物代行サービスを利用するのも手

また、もし居住地がサービス提供エリア内であればネットスーパーや買い物代行サービスを利用するのも手です。

例えば、コープデリは、特に高齢者や障害者を対象にした「おうちコープ」という宅配サービスを提供しています。このサービスは、食品や日用品だけでなく、医薬品や生活雑貨なども取り扱っており、地域のニーズに応じた商品を届けます。利用者は週に1回、定期的に商品を注文することができ、商品は自宅の玄関まで届けられます。

保険適用外となる介護サービスを提供する「クラウドケア」では「買い物お助けサービス」を提供しており、食料品や日用品、趣味の買い物まで、ニーズに合わせて代行を依頼することが可能です。

要介護認定を受けている場合は介護保険の買い物支援を受けられる

要介護認定を受けている方であれば訪問介護サービスのひとつである買い物支援を受けることも可能です。

買い物支援では、ケアマネの作成したケアプランに沿って決定された買い物代行の日に、訪問介護員(ヘルパー)が利用者の自宅を訪問します。買い物リストと代金を預けると、買い物を代行してもらえるという仕組みです。

買い物についての困りごとを解消できることはもちろんですが、訪問介護員が定期的に訪問して利用者の様子を把握しているため、万が一認知機能や身体機能に異変があった場合には適切な関係機関とつなげてもらうことも可能になります。特に孤立しがちな一人暮らしの高齢者の場合、定期的な見守りをしてもらえるのはメリットといえるでしょう。

ただし、介護保険による買い物代行で依頼できるのは食料品や薬、ティッシュペーパーやマスクなどの日用品などの生活必需品に限られており、タバコやお酒などの嗜好品は対象外です。また、もし遠方の店での買い物は依頼できない点にも注意しておきましょう。

民間の知恵と行政の後押しで、買い物難民をゼロに

このように、買い物難民問題は高齢化と店舗撤退により全国的に深刻化しています。特に過疎地や中山間地域では深刻ですが、都市部でも増加傾向にあります。

この問題の解決には、コミュニティバスや乗合タクシーによる移動支援、移動販売車の活用、ネットスーパーや買い物代行サービスの充実など、民間事業者の創意工夫も不可欠です。

同時に、もちろんのことですが自治体による支援や規制緩和などの後押しも重要です。

官民が連携し、地域の実情に合わせた多様な取り組みを推進することで、すべての人々の"買い物の権利"を守っていくことが求められます。買い物難民をゼロにするために、社会全体で知恵を出し合い、行動していく必要があるでしょう。

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