フランス伝統料理2品のコンクール開催 〜人気のパテ・クルートと新顔シュー・ファルシ
フランスのガストロノミーを強く感じさせる食べ物に、ご存知、シャルキュトリーがあります。日本には専門の協会があり、この豊かな食文化をさらに広く知ってもらうべく、9年前からはパテ・クルート、今年は新しくシュー・ファルシのコンクールを開催。2つのコンクールを取材しました。
今回取材したパテ・クルート(さまざまな肉で作るパテをクルート(パイ生地)で包んで焼く料理)とシュー・ファルシ(肉の詰め物を、丸のままのキャベツの形を生かすように包んだ料理)、両コンクールは「日本シャルキュトリ協会」の運営で開催されています。この協会は、フランスが誇る肉の加工品文化である“シャルキュトリー”をより多くの方に知ってほしいと、2013年7月、フランス大使館の協力を得て発足しました。
以来、シャルキュトリーの認知を広め、日本人の食生活をより充実させる願いのもとさまざまな活動を行っていますが、その一つがコンクールです。9年前からパテ・クルートのコンクールを開催してきましたが、今年2024年から新たにシュー・ファルシが加わりました。
いずれもアジアまたは日本エリアとしてのコンクールで、勝者はこれから開催される世界大会へと進みます。それぞれ、今年2024年の日本のコンクールがどのようなものだったか、お伝えします。
パテ・クルート世界選手権アジア大会、9月に開催
©日本シャルキュトリ協会
日本シャルキュトリ協会が主催し、9年前から行っているのが「パテ・クルート世界選手権アジア大会」です。パテをクルート(パイ生地)で包んだパテ・クルートは古典的であり、ガストロノミックであり、フランスの食文化を語る上で欠かせないシェルキュトリです。
世界大会決勝への出場権を賭けた戦いが行われたのは、9月10日。12人のファイナリストが出場し、下記の方々が上位3位に選ばれたました。
優勝 真野大貴(帝国ホテル東京 レ セゾン)
2位 石本省吾(フランス料理 ル・クール)
3位 小林嵩明(湯本富士屋ホテル)
(敬称略)
優勝、準優勝の二人は12月2日、フランス・リヨンにて開催される世界選手権決勝に出場する予定です。
注目の新しい大会、シュー・ファルシの世界大会に向けて
シュー・ファルシコンクール世界大会日本地区決勝大会 審査員のシェフたち
そして、今年始まった注目のシェルキュトリーの大会が「シュー・ファルシ世界大会」。古典回帰、伝統へのリスペクトが高まる中での開催です。なおコンクールはフランス・リモージュの磁器メーカー、ベルナルド社主催で開催されます。
シュー・ファルシは、フランス中南部に位置するオーベルニュ地方の郷土料理であると同時に、ビストロ料理としても愛されています。時代とともにレシピや調理の秘訣が進化しましたが、現在の標準を端的に言うと「ソーセージの肉と、余り肉を混ぜたもの」がキャベツの詰め物となっています。
このシュー・ファルシのコンクールは、これまで本国フランスでは大会が行われていましたが、今年からはその枠を大きく広げ、ヨーロッパ/アフリカ/中東、アメリカ、アジア、日本でのエリア大会がまず行われ、それぞれの最優秀者5名が世界大会に挑みます。
エントリーできるのは、ビジネスオーナー、マネージャー、シェフ、民間料理関係会社の従業員など、すべてのプロの職人、シャルキュティエ、料理人。今年は初めての大会にもかかわらず日本では24人もの応募があり、書類審査を経た7名日本地区予選の決勝を戦いました。
©日本シャルキュトリ協会
会場となったのは、東京の服部栄養専門学校。3時間30分の制限時間の中で、
・キャベツ
・豚肉(赤身、胸肉、のど肉)および/または仔牛肉1%以上。豚肉および/または仔牛肉が1%以上 含まれていれば、その他の肉や野菜や魚介類をベースにした詰め物でも可
を主材料とし、温かいまま食する完成品1.2〜1.6kg、ソースまたはジュ(寒天、ゼラチン、卵白粉などの接着艶出し成分、風味調味料、人工香料、人工着色料、市販のスパイスミックス、市販のソースおよびジュは使用禁止)を添えて完成させます。
審査員は、「ガストロノミー“ジョエル・ロブション”」関谷健一朗総料理長率いる15名の審査チーム。フランス人7名、日本人8名という構成で、トップシェフやシャルキュトリーに造詣の深い専門家など、錚々たる顔ぶれです。
そのせいか、会場は、静かな情熱に包まれ、ピッと背をただしたくなる厳かともいえる空気感。上のフロアで作られたシュー・ファルシは時間になると地階の審査会場に運ばれ、でき上がりを審査員がチェック。その後、切り分け、断面を確認し、実食審査が行われます。
©日本シャルキュトリ協会
7人の選手による7つのシュー・ファルシは、大きなキャベツの塊を想起させる様子こそ同じものの、そのフォルム(ころんと丸いか、やや平べったいか)や色、ソースやデコレーションなどが異なり、断面から見える構成もさまざま。シンプルに見えて多彩な、シュー・ファルシの世界が広がります。
コンクールの当日の順番は、
三浦孝司(フレンチレストランMORI)
三宅功恭(ホテルニューオータニ トゥールダルジャン東京)
浦崎洸佑(帝国ホテル東京 レ セゾン)
藤田隼右(帝国ホテル東京 宴会)
佐藤慶汰(帝国ホテル東京 レ セゾン)
左近陽平(沖縄プリンスホテル オーシャンビューぎのわん)
中嶋五大(東京會舘)
(敬称略)
審査が終わると、ようやく会場は写真を撮ったり、雑談したり、とこれまでの緊張感とは一転して、和やかな空気感。そしていざ、結果発表です。
チャンピオンに輝いたのは、佐藤慶汰さん。
写真提供 ベルナルドジャパン株式会社
シュー・ファルシのコンクールに挑んだ思いを、このように語ってくれました。
「シュー・ファルシはフランス料理の古典であり伝統的な一品なので、ぜひ挑戦したいと思いました。勝つことが第一義ではなかったのですが、それでも前例がないので、自分のシュー・ファルシをどういう風に作ればいいのか迷いました。シュー・ファルシの持つ背景や技法伝にリスペクトを払い軸としつつ、私が考えるおいしいものにしようと考えました。関連性のある副材料を選び、試行錯誤して作ったものが、こうして評価につながって、とても嬉しいです」。
帝国ホテル東京 レ セゾンの佐藤慶汰さん
本大会決勝戦である世界大会は、11 月 18 日にフランス・リモージュで開催されました。
5名のファイナリストによる競技の結果、佐藤選手は残念ながら優勝はならず。世界チャンピオンは唯一の女性の選手、シンガポールから出場したアジア地区代表のベルナデット・ロザリオさんに決まりました。
12月2日に開催されるパテ・クルートの世界大会の模様は、日本シャルキュトリ協会のウェブサイトで随時アップされる予定です。
日本シャルキュトリ協会
https://charcuterie.jp/
Text:羽根則子