「船を転覆させてしまうことも」海に潜む知られざる危険『あびき』とは何か
海で発生する自然現象の中には危険なものが少なくありませんが、その一つ「あびき」は一般的にはあまり知られていないようです。
奄美で「あびき」が発生
2月上旬、鹿児島県南部の島嶼部である奄美地方で、とある海の自然現象が発生しニュースとなりました。その現象とは「あびき」。
あびきが発生したのは、屋久島と奄美大島の間にあるトカラ列島の「中之島」です。発生時、中之島の漁港において、潮位が5分ほどの間に1mほど上下したといいます。
中之島では今月13日にもあびきが発生しており、このときも同様に短い時間で潮位が80cmほど上下したといいます。
なぜ発生するの?
あびきは漢字で「網引」と書き、「海流で網が流されてしまう」ことが名前の由来とされています。主に冬から春先にかけて九州西方の沿岸で発生し、あびきももともと長崎の言葉だそうです。学術的には「副振動」と呼ばれています。
一般的な潮の満ち引きは月の引力によって海水が引っ張られることで発生し、基本的には1日に満潮と干潮が2回ずつ訪れます。満潮と干潮の潮位差は最大で数mに及びますが、干潮から満潮までは6時間ほどかかります。
それに対し、あびきは海上沖合の気圧の急変によって発生した波が沿岸に押し寄せ、海岸地形などによって増幅することで発生します。波が起こす潮位変動なので、数分という短い間で数十cmほど潮位が上下することが特徴です。過去に観測された最大のあびきは潮位差が278cmに達したそうです。
どんな危険性が?
あびきが起こると、急激に潮位が上下するために強い潮流が発生します。その流れは日々の潮の満ち引きによって起こる潮流よりも遥かに強く、結果として船を係留するロープが切れたり、船を大きく揺らして転覆させてしまうことがあります。
また、あびきの発生が満潮の時間と重なったり、低気圧による高潮が発生しているタイミングと重なると、潮位が異常に高くなり、結果として床上浸水などの被害を引き起こします。漁業者や釣り人が沖合に流されたり、海岸に取り残されるという事故も過去には発生しています。
あびきは毎年2~3月に多く発生し、特に3月は潮位差が大きなものが発生する率が高くなるといいます。あびきの危険性が高まると気象庁が注意報を発令するので、標高の低い土地に住んでいる人、海岸近くで活動することが多い人はこの現象のことを知っておくべきでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>