「性に奔放」という偏見も…誰でも感染するからこそ必要な検診と知識を発信するワケ【防げるがんの現在地②】
がんで亡くなる人は4人に1人。でも、予防のワクチンがあり「防げるがん」とされているものがあります。
「子宮頸がん」です。
前編では、予防のワクチン接種の現在地をお伝えしました。
▼「ただの不正出血だと」双子の娘はまだ4歳…手術決断も残る予防ワクチンへの後悔【防げるがんの現在地①】
20代や30代でもかかる子宮頸がん。
予防のワクチンと一緒に考えたいのが、「検診」とどう向き合うかです。もうひとつの「現在地」を取材しました。
連載「じぶんごとニュース」
気づいたときには「がん」の一歩手前
「本当にびっくりしすぎて受け入れられなくて」
そう話し始めた、タレントの休井美郷さん(33)。
恋愛リアリティショーに出演したことをきっかけに、いまはモデルを中心に活躍しています。
実は去年、まったく自覚症状がないうちに「がんの一歩手前」の状態だったことがわかりました。
YouTubeの企画で受けた6年ぶりの子宮頸がん検診で異常が見つかったのです。
医師からは、「あと半年遅ければ子宮頸がんに進行していたかも」と告げられました。
実は非常に身近なウイルス
子宮頸がんは、主に性交渉から感染するHPV=ヒトパピローマウイルスによって発症する「進行性のがん」です。
このウイルスは、男性も女性も感染します。
海外では集団免疫を獲得するため、男性にもHPVウイルスワクチンの接種が推奨されている国もあります。
感染のきっかけが「性交渉であることがほとんど」と言われているため、“性に奔放な人がかかるがん”だとして、いまだに発症した人に対する偏見の目が向けられることもあります。
でも、実態はまったく違います。
北海道対がん協会細胞診センターの岡元一平所長によると、「基本的に8割の女性がかかるウイルス。非常に身近なウイルスで、かかることは決して恥ずかしいことでも悪いことでもない」といいます。
ウイルスは若い世代を中心に免疫などで自然に排出される一方、一部では感染が続き、がんになります。
がんの前段階の状態であっても、自然と消えることも多くあります。
しかし、子宮頸がんの注意すべき特徴の1つは、症状が進行するまで自覚症状が現れないことが多いという点。
不正出血などの症状が現れ、受診をしたときにはもう手遅れなほどがんが進行していたという30代や40代の患者にも、岡元所長は向き合ってきました。
「感染した状態が、がんに近づいていないか」。
その兆候を見逃さないために大切なのが「検診」なのです。
ワクチンだけでは防ぎきれないワケ
子宮頸がんの検診は子宮頸部の細胞をこすり取って行います。
自治体からの助成もあり、短時間で済む検査です。
国が接種をすすめるワクチンは、200種類以上あるHPVウイルスのうち、がんを起こしやすい型に効果があるとされています。
最もがんになりやすいのは16型・18型で、その他にも10種類ほどリスクが高い型があると言われています。
子宮頸がんの予防効果があると言われているHPVワクチンは、そのうち2種類の型に効果があるとされる2価(接種開始当初のワクチン)、4価、9価の3種類があります。
そのため、接種の前に感染していたウイルスやワクチンの対象になっていないウイルスは防ぎきれていないのです。
だからこそ検診が重要になってきます。
日本では、HPVウイルスへの感染は20歳前後が多く、5年から10年かけてがんの発症率が上がります。
北海道対がん協会細胞診センターの岡元一平所長は「25歳を超えたころから2年に1回検診を受けてほしい」と話します。
「大体感度が70%の検査だから2回受けてもらうと9割の病変を発見できるので繰り返し受けることが重要」
「一歩手前」だから持てた選択肢
2023年、がんの一歩手前と診断されたタレントの休井美郷さん(33)。
休井さんのような診断を受けると、手術が必要となる場合があります。
手術には、子宮頸部の一部を切り取る「円錐切除術」と、変化している箇所をレーザーで焼く「レーザー蒸散術」があります。
切除術は早産のリスクを高める可能性もある一方で、再発のリスクは抑えられます。
レーザーは早産のリスクは高くありませんが、切除する場合と比べて再発のリスクがあるといわれています。
休井さんは、将来子どもをもつことをのぞんでいるため、早産のリスクを避けるレーザーの手術を選択しました。
誤った知識から、まだ偏見の目で見られることも少なくない子宮頸がん。
休井さん自身も、「一歩手前」の状態であったことを公表したとき、「自業自得」「経験人数が多いんだろう」という言葉に傷ついたといいます。
しかしいまでも、休井さんは啓発イベントに参加するなど、子宮頸がんの予防に対し精力的に活動しています。それには、理由があります。
それは、手術を受ける前…病院で診察を受けていたある日のこと。
医師の机のカレンダーの日付のほとんどすべてに“青い印”がついていることに気が付きました。
「『この印は何か』と先生に聞いたら、『子宮頸がんの手術がある日だ』と言われて。私と同じように悩んでいる女性がこんなにいるんだと思って」
「マザー・キラー」を食い止めるために
インスタグラムのフォロワーなど、休井さんを応援している人の多くは女性。その人たちのためにも、自分の経験を発信しようと決意したといいます。
「産婦人科はちょっと怖いと私も思っていたから気持ちもすごくわかる」と話しながらも、「早期発見のために病院に行ってほしい」と力をこめます。
北海道対がん協会の岡元一平所長は、情報を正しく持ち、伝えていくことの重要性を語ります。
「子宮頸がんは女性の人生を変えてしまう。お母さん世代がきっちり理解していれば娘さんに正しい情報を伝えて、娘さんから子どもに伝わっていく」
30代から40代の発症率が高いことから、「マザー・キラー」と呼ばれる子宮頸がん。
「防げるがん」と呼ばれる所以は、ワクチンと検診の「予防の両輪」があってこそです。
ワクチンの接種の有効性だけでなく、100%の予防にはならないことを含めてそのリスクも知ること。
そのうえで、早期発見や、がんが発症していないことを確認するために、定期的な検診を受けること。
命を守るため、知識とともに多くの選択肢を持っておくことも必要です。
"防げるがん"、子宮頸がんと、どう向きあうのか。
それを考えるためにも、十分な必要な情報に触れる環境を作っていくことが、身を守るためのカギになるのではないでしょうか。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部 泉優紀子・貴田岡結衣
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2024年9月20日)に基づき、一部情報を更新しています。