観客に大きな衝撃を与えた『不可能の限りにおいて』をリーディング公演として上演 生田みゆき演出、南沢奈央、岡本圭人ら14名が出演
2025年8月8日(金)~11日(月・祝)シアタートラムにて、あたらしい国際交流プログラム リーディング公演『不可能の限りにおいて』が上演されることが決定した。
世田谷パブリックシアターでは、これまでも国際共同制作や海外招聘公演を積極的に実施してきたが、この度、新たに国内の若手クリエイターを育成し、国際的に発信していくことを目的とした「あたらしい国際交流プログラム」を始動する。その先陣を切る作品として、文化庁の支援(※)を受け、ティアゴ・ロドリゲス作『不可能の限りにおいて』を生田みゆきの演出により、実力と個性を兼ね備えたフレッシュなキャスト陣でリーディング公演として上演する。
本作は、ポルトガル出身の作家であり、アヴィニョン演劇祭のディレクターであるティアゴ・ロドリゲスが、国際赤十字社と国境なき医師団の約30人の職員へのインタビューをもとに、戦争や災害の現場における葛藤や矛盾を描き出した画期的な戯曲。2022年、コメディ・ドゥ・ジュネーヴで初演された後、翌年アヴィニョン演劇祭でも上演され、観客に大きな衝撃を与えた。善悪の単純な構図を超え、「可能」と「不可能」の狭間で揺れる人間の姿をリアルに描き出し、観客に「人道とは何か?」という問いを突きつけた、演劇の枠を越えていく意欲作。翻訳を担当する藤井慎太郎は、今年4月に静岡芸術劇場で上演されたオリジナルプロダクション(招聘公演)でも日本語字幕を手がけており、本作への理解も深い存在。日本語で初めて全編を上演する今回の創作においても、適切な示唆を随所に与えてくれる。
演出を手がける生田みゆきは、2022年シアタートラムで上演した二人芝居『建築家とアッシリア皇帝』において、出演者の岡本健一・成河と共に縦横無尽に創作のプロセスを駆け抜け、エネルギーに満ちた舞台を創出。その演出力が高く評価された。さらに翌年演出した『占領の囚人たち』『海戦 2023』『屠殺人ブッチャー』では読売演劇大賞の優秀演出家賞も受賞し、まさに次世代を担う演出者の一人として大きな注目を集めている。今年はすでに『これが戦争だ』『燃える花嫁』という 2本の話題作を手がけ、演出家としての手腕をさらに印象づけている。とりわけ『これが戦争だ』では、アフガニスタン戦線の中でも最も危険とされる地域に駐留したカナダ軍兵士たちの苛酷な日常と複雑な心象を繊細かつ力強く描き出し、高い評価を得た。今回の公演でも、戦闘地域の最前線で活動する人々の心の揺らぎを、緊迫感をもって浮かび上がらせてくれる。
今回、リーディング公演に向けて、今年3月世田谷パブリックシアター稽古場にて演出の生田みゆきによるワークショップオーディションを実施。140名を超える応募者の中から書類選考を通過した51名の俳優と5日間にわたるワークショップを行った。出自の異なる多くの俳優たちとのワークショップから刺激を受けた生田は、オリジナルプロダクションでは4名の俳優で演じられた本作を14名で上演する演出プランを打ち出した。
本公演に出演するのは、オーディションで選ばれた11名の出演者に加えて、俳優としての確かな演技力に加え、ラジオパーソナリティーや執筆活動など、表現の幅を多方面に広げマルチな才能を発揮する南沢奈央、昨年第59回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞し、以降も話題作への出演相次ぐ岡本圭人、俳優活動と並行しながら近年はその英語力を活かし翻訳者としても活躍する万里紗の出演が決定。総勢14名の出演者は、7名ずつの2チーム(Aチーム/Bチーム)に分かれ、2通りの配役によるリーディング公演を行う。各公演では、一方のチームがメインキャストとして作品を演じ、もう一方のチームがサポートキャストとして参加する。Aチームがメインを務める回にはBチームがサポートに、Bチームがメインを務める回にはAチームがサポートにまわり、双方の個性が響き合う2つのバージョンを見ることができる。
作中で〈不可能〉と呼ばれる地域で活動する人道支援者たちの証言をもとにつくられた本作では、場所も個人も特定されないまま世界のどこかで起きている危機的状況や不条理な現実、そしてその真っ只中で活動する人々の思いが俳優の身体を通して語られる。シアタートラムの緊密な空間で、「言葉」にフォーカスした本作をリーディング公演というシンプルな上演形式で立ち上げる今回の挑戦は、観客に演劇の本質的な体験をもたらす。オリジナルプロダクションではフランス語、英語、ポルトガル語の3か国語で上演された本作だが、本公演では初めて全編を通して日本語で上演する。
演出の生田みゆきと14名の個性豊かな俳優たちが、〈不可能〉の世界を言葉で立ち上げるリーディング公演『不可能の限りにおいて』を楽しみにしよう。
※「文化施設による高付加価値化機能強化支援事業」について
世田谷パブリックシアターは、令和6年度より文化芸術活動基盤強化基金「文化施設による高付加価値化機能強化支援事業」に採択された。この事業では劇場の資源を最大限活用し、次代を担う若手クリエイター、アーティスト、スタッフ等の育成を目的としたワークショップや公演を行い、その成果を国内外に向けて発信する。リーディング公演『不可能の限りにおいて』はその一環として行われる最初の公演であり、演出者の生田みゆきは世田谷パブリックシアターの育成対象のクリエイターの一人として、本作の演出に臨む。
≫演出家・出演者コメント
演出:生田みゆき コメント
「あたらしい国際交流プログラム」の一環としてこの作品を取り上げるにあたり、俳優の皆様と共に1週間近くかけて丁寧なワークショップを行いました。ワークショップでは、ドキュメンタリー色の強い本作をリーディングという形で取り上げることを意識し、試しに「役」になるということをなるべく排除して言葉を紡いでいただきました。すると、様々なフィールドで活躍している俳優の皆さんが、普段どういうことを考えていて、何に心動かされているのか、或いは何が分からなくて戸惑っているのかが自然と見えてきて、とても密度の高いコミュニケーションが取れました。得難い出会いをたくさんいただいたと思っております。
ハードな作品ではありますが、「この作品に描かれていることは、今もこの世界で起きているのだ」、ということを客席とシェアするための、心強い仲間が揃いました。私たちも全力で取り組みますので、劇場に是非お越しください。
出演者コメント
Aチーム(五十音順)
■清島千楓
私にとって、初めてのリーディング公演。喜びと共に色んな感情が入り混じっています。
ワークショップオーディションの場で触れさせていただいた、紛争地域で人道支援をされる人たちのお話に衝撃を受けました。
演技経験の少ない私が今回の機会をいただけたのは、生まれ育った沖縄で見てきた平和への想いも併せて届けるためかもしれない、と思っています。
この作品が、今この瞬間も戦禍で苦しむ人たちがいる事実に気付くきっかけになれるよう、精一杯努めます。
■萩原亮介
「そもそもリーディングってなんだ?」から始まったワークショップは、スタートから参加者の皆様の持つ様々な経験や想像力が惜しみなく持ち寄られる光景が印象的でした。
そんな中「初見で感じたことを胸に留めておいて」という言葉と共に手渡された今回の戯曲。冒頭から引き込まれていった感覚、次の行へ進むのを躊躇(ためら)いただ息を整えた瞬間。
彼らの言葉をどのように届けることができるのか、精一杯探したいと思います。
■前東美菜子
オーディションのとき「これを声に出して読んだら泣いちゃうかもな」と思いながら練習して、やっぱり泣いてしまいました。でも同時に、これを読んで泣いている自分が、耐えられないほど傲慢だとも思いました。
今は快適な部屋で、暖かいお茶を飲みながら、テキストに向き合っています。まだどうすればいいのか私一人ではわかりません。みんなで考えたら、何か形になるかもしれません!
■南沢奈央
国際赤十字社と国境なき医師団の方々へのインタビューをもとに作られた本作品。語られるのは、なかなか想像も及ばない、あまりに過酷な世界で、でもそれは現実だということが突きつけられます。その生々しい言葉の数々を、今回は演じるのではなく、"リーディング"で伝えていくことになります。作品の内容はもちろん、リーディング公演である意義も考えながら、これまで多くの作品で戦争と向き合ってこられた生田さんとともに、リスペクトを持って築いていきたいと思っています。
■薬丸翔
オーディションの情報を頂いた時に、凄く心が躍ったのを今でも覚えています。が、オーディションに参加して自分の想像力が足りなかったことを感じたことも覚えています。自分がこの作品に参加する意味をオーディションの5日間で考えさせられ、考えれば考えるほど、怖さを感じました。でもその怖さと比例して、作品に参加する意義も増長していきました。今必要なのは覚悟だと。あくまで真摯に、誠意を持って稽古、本番に臨みます。
■山本圭祐
紛争地域に従事されている方々のインタビュー。それはドキュメンタリーです。生の言葉で、それを俳優がリーディングする。
めっちゃ難しい。どうすればいいんだろうか。
頼もしい生田さん、共演者の皆さんと話し合いながら意見をぶつけ合いながら、作れるのを楽しみにしています。
劇場でお待ちしています。
■渡邊りょう
ワークショップで印象に残ったのが「当事者として演じる資格があるのだろうか」という問いです。紛争地へ赴いた方の経験から語られるこの戯曲は、日本人の自分の経験からは遠く、役者としてパッと演じようもんなら途端に厚かましくなってしまいます。役者としての演じる欲求から離れ、語られた言葉を自分として伝えていくことで事実とフィクションがシームレスに繋がって、その瞬間の真実を生み出していくような挑戦でした。
Bチーム(五十音順)
■市川理矩
今回のワークショップに参加し、楽しく、濃厚な時間を過ごしました。
生田さんの演出は的確で、ユーモアがあり、自分もそれに応えたいと強く思い、ワークショップに挑みました。この熱量を忘れず、キャストの皆さんから刺激を貰い、与え、毎日切磋琢磨し『不可能の限りにおいて』をより良い作品にできるよう稽古に励みます。
■岡本圭人
『不可能の限りにおいて』は、国境なき医師団と国際赤十字社の人道支援者の証言をもとに書かれた演劇作品です。SHIZUOKA せかい演劇祭 2025でオリジナル版の演出を拝見いたしましたが、とても感銘を受け、この作品こそ1人でも多くの方々に届けるべきだと心から思いました。ワークショップオーディションを受け、作品に参加できることを光栄に思っています。私たちには何が「可能」で、何が「不可能」なのか……
答えを出すのは難しい問いではありますが、皆様にお話を知っていただけることで、少しでも可能性を広げていただけることを願っています。
■川辺邦弘
リーディング公演は過去に2回程出演したことがありますが、今回、ワークショップを受けてみて今までのリーディング公演とは一味違う感覚を覚え、とても刺激を受けました。俳優とは役に寄り添い演じるわけですが、今回のリーディングは役になるという感覚ではなく(私自身が感じるものを表現するというか)上手く言葉に出来ないですが、俳優として初めての試みのような気がしています。
■小林春世
ワークショップオーディションで1番印象的だったのは、演出の生田さんから参加者に提示された、「当事者になることなんてできるのだろうか」という問いでした。それを考えながら台本と向き合った数日後、リーディングという形での上演に、意味や、おもしろさがあると感じました。今はお稽古開始前ですが、ワークショップを通して、既に仲間のような気持ちを感じている共演者の方々との再会が楽しみです。ご期待ください。
■小山萌子
この作品のワークショップオーディションに参加した時に演出家の生田さんが「間(あわい)でやって欲しい」と言った言葉が忘れられない。
直ぐに役を演じようとせずに、自分と役をグラデーションみたいにして演ずるという意味合いだと思っています。
今回チャレンジする、この『間(あわい)』が稽古を通してどのような花をひらくのか、本番でこの『間(あわい)』が観客の皆様にどう届くのか、今から楽しみで仕方がない!
■万里紗
この作品の言葉達を前に、私自身に属した思いや願いを口にすることができません。しかし、この名前も知らない誰かが語った言葉を、名前も知らない誰かに手渡したいと、ただ駆り立てられています。この作品の時間を劇場で共有した人々が、重い足を引きずるように帰路につくのか、或いは背負い続けてきた苦悩を下ろすことのできる場所を見つけるのか。予想もつかないうねりを真摯に覚悟して、皆様と作って参りたいと思います。
■森準人
ワークショップで演出の生田さんから提示されたアプローチはこれまで試したことのないもので好奇心と面食らった気持ちとが混ざり合った状態でしたが、いざそれで本を読んでみると「そういうことかー!!」と。
今回は演者ですが、出来上がった作品をお客さんとしても前から見てみたいなあと言う気持ちにさせてくれる言葉を持っている生田さんとの稽古場をとても楽しみにしています。