【共生社会と日本語】社会の新たな担い手として期待される外国人。日本語教育の現状は?迎え入れる側の「やさしい日本語」も重要だ!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「共生社会と日本語」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年12月17日放送)
(川内)今回のテーマは「共生社会と日本語」です。最近街を歩いていても、外国人の方が増えたなと実感しませんか。
(山田)この前信号待ちしていたら、僕以外、全員外国の方でした。
(川内)そういうことも珍しくないかもしれません。国籍や民族が異なる人たちが地域社会の構成員として共に生きていく「多文化共生」の鍵としての日本語がいまどういう状況か、勉強したいと思います。
増加する在留外国人
(山田)日本に住む外国人数の推移などを教えてください。
(川内)今年6月末時点で、約358万人で前年同月比5・2パーセント増。静岡県内では約12万人で同9パーセント増で、いずれも過去最多を更新しました。2000年に比べて2倍以上に増えています。日本の総人口に対する割合は、1月1日時点で2・66パーセント、静岡県はそれより高い3・1パーセントです。
労働力不足を補うため、企業が積極的に受け入れているのが主な理由で、日本の治安の良さなどもあります。少子高齢化で縮小する日本社会の新たな担い手として外国人への期待は高まっていて、政府は労働力不足を補うため「受け入れ拡大」を掲げています。
(山田)さらに増やそうとしているわけですね。
新たに始まる「育成就労」の制度
(川内)その柱が現在の「技能実習」に代わって2027年までに始まる「育成就労」という制度です。技能実習が「国際貢献」を掲げたのに対し、育成就労は「外国人材の育成・確保」が目的。かいつまんで言うと、即戦力水準まで育成し、一定の技能と日本語の能力が認められれば家族の帯同や事実上の永住が可能になります。
国際的に人材獲得競争が激しさを増す中、外国人に「選ばれる国」になるにはどうすれば良いかを考える時、安心して暮らし、働けるための環境づくりとして「日本語教育」や、迎え入れる側が理解しやすい「やさしい日本語」を心がけることはとても大切だということです。
(山田)外国人労働者が増えることは、われわれにとっていいことなんですか。
(川内)現状として、日本人だけでは必要な労働力が補えず、国としての成長や競争力にも影響します。税収増による社会保障制度の維持にもつながります。
(山田)回っていかないということか。
学校現場の日本語教育は追いついていない
(川内)まず日本語教育という点から見ます。文部科学省の昨年度調査で、公立の小中高校や特別支援学校に在籍し、「日本語指導が必要な子ども」は外国籍と日本国籍合わせて6万9000人に上り、過去最高でした。
(山田)日本語指導が必要?
(川内)これは日本語で十分会話できなかったり、読み書きが苦手だったりして支援が必要と学校が判断した児童生徒の数です。日本国籍でも海外生活が長く日本語を十分話せない子どももいます。
多くは外国籍で、増加する外国人の子どもに学校現場の支援が追いついていない現状が明らかになりました。このうち1割程度は指導する教員の不足などから、日本語の補習などを受けられていませんでした。
(山田)教育現場の多忙も関係しているかもしれない。
(川内)日本語指導が必要な子どもは高校や大学への進学率が低いです。さらに中退率や卒業後の非正規労働への就職率、進学も就職もしていない割合が、高校生全体を大きく上回りました。日本語能力の不十分さが、学業や学校生活の困難さに直結しているとみられます。
(山田)影響は大きい。子どもへの日本語教育は重要だ。
(川内)静岡県の日本語指導が必要な子どもは4804人で、全国5番目の多さでした。県教委は各学校に相談員や日本語指導コーディネーターを派遣するなどしていますが、外国人の居住地が「散在」しているため、網羅できない現状もあるとのことです。
日本語教育への対応は、財政力などによる地域間格差もあります。日本語能力は進学や就職などの節目で自己実現を後押しし、後から話しますが、防災面でも重要です。国を挙げて教育基盤を整える必要があるのではないでしょうか。
(山田)県内にもたくさんいるんだな。
日本語教室も空白地域が
(川内)誰もが通える「日本語教室」というのも重要です。日常生活で使う日本語のほか、食事のマナーやごみ出しの分別など生活ルールを学べる場にもなっていて、日本社会に溶け込むことを後押しする存在です。
(山田)言葉だけでないというのが心強い。
(川内)この日本語教室がない自治体というのが、2023年11月時点、全国で737市区町村あり、全市区町村の約4割に上るとのことです。空白地域に住む外国人も14万人います。静岡県は教室のない市区町の割合は約14パーセントで、比較的整備されていると言えます。
約3万人の外国人が住む浜松市は本年度、無償の日本語教室を開設しました。日本語教室は国際交流協会やNPOなどが開設していて、こうした団体への支援拡充も欠かせません。
(山田)しっかり支えてほしい。
やさしい日本語は「はさみの法則」で
(川内)迎え入れる側の姿勢として大切なのが外国人に対し「やさしい日本語」を使うということです。ひらがなで「やさしい」と書きますが、漢字にすると「易しい」だけでなく、「優しい」という意味も込められています。分かりやすく、相手の立場にたった日本語です。
1995年の阪神大震災の発災時、外国人への情報伝達が不十分だったという教訓から日本語研究者が提唱し、活用が進んでいます。
(山田)以前番組に来てくださった、多文化共生イベントをやっているペルー出身の方が、「英語で話しかけられるよりも、分かりやすい日本語で、ゆっくり話してくれるとありがたい」と言っていました。
(川内)まさにそのことです。やさしい日本語のポイントは「はっきり」「さいごまで」「みじかく」で、頭文字を取って「はさみの法則」と呼ばれています。リスナーの方にも、ぜひ覚えていただきたいです。
(山田)「はさみ」ですね。
(川内)「できないことはありません」といった二重否定も分かりにくく、「できる」「できない」と言い切る方が理解しやすい。災害時では「速やかに高台に避難して」を「早く高いところに逃げて」と言い換えることが代表例です。
(山田)確かに二重否定は分かりにくい。われわれも気をつけなければいけない。最近、テレビなどでも災害時には「逃げて」と短く、はっきり言い切っています。
(川内)山田さんは本番中に大規模地震などが発生して、緊急避難を呼びかける可能性もありますね。
労災を防ぐためにも重要
(山田)防災以外での広がりは。
(川内)「やさしい日本語」は、行政の情報発信や窓口対応全般、医療、観光などで普及が進みます。お医者さんが使う言葉は「安静に」「食間に服用」「経過観察」とか難しいですよね。
(山田)医療は日本人でも分かりにくい。以前、外国人の方が「ちくちく」など、おなかが痛い状況の説明が難しいと言っていたな。
(川内)先ほど話した労働力の確保という点とも関連して重要だと考えられているのが、労働災害(労災)を防ぐための活用です。外国人労働者の労災の発生率は日本人より高いことが分かっています。ここ10年間で、働く人の増加割合より労災の増加割合が上回ってもいます。
その理由の一つが言葉の問題です。現場で日本語による指示や安全確保のためのポイントなどが、しっかり伝わっていないことなど考えられます。
(山田)そうか。仕事の進め方や「これをやったら危険」というようなことが、十分理解されていないケースもありそうだ。
日本語は生活を支える基礎
(川内)外国人への情報発信と聞くと、日本語を外国語に翻訳すればよいと思うかもしれませんが、在留外国人の国籍は多様化していて、広範な情報を多くの言語に翻訳する難しさがあります。
特に災害情報のように迅速さが求められるものはなおさらではないでしょうか。やはり日本語が生活を支える基礎であり、本人の日本語能力とともに、迎え入れる側の「やさしい日本語」の使用は大切です。
(山田)コミュニケーションを深めるために、何が重要かということですね。
(川内)話し言葉だけではなく、書き言葉でも、難しい言葉を言い換えたり、一文を短くする、箇条書きにしたりする配慮が求められます。漢字にルビを振るのも一つの方法です。日本に住む外国人の8割はひらがなを読めるという調査結果もあるようです。
日常生活の中で外国人が困った様子でいる時や、大規模災害時などの緊急時には、分かりやすい日本語を意識して、話しかけたり、メモ書きしたりしてあげませんか。
(山田)これからはさまざまな場面で、外国人の方と接する機会が増えそうですね。「はさみの法則」を心がけたいと思います。今日の勉強はこれでおしまい!