映画『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』アンパンマン役・戸田恵子さん&チャポン役・蒼井優さんインタビュー|アンパンマンたちの日常が描かれる作品。「本当の優しさやあたたかさというものが身に染みると思います」
映画『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』が、6月27日(金)より公開中です。
1988年10月から、『それいけ!アンパンマン』のタイトルでTVアニメがスタートし、昭和、平成、令和と3つの時代を通じて、世界中に「愛と勇気」を届け、今なお子どもたちや大人たちに絶大な人気を博する国民的人気作品です。
2024年に公開された映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』は、子どもから大人まで幅広い層に支持され、興行収入7.3億円を超える映画アンパンマンシリーズ史上No.1大ヒットを記録しました。
そしてシリーズ36作目となる今作では、アンパンマンがお兄ちゃんに!?ヒーローを夢見る男の子・チャポンとアンパンマンの絆が描かれる「愛と勇気」の物語となっています。タイトルにもある“ヒーロー”という題材を描きながら 「アンパンマンのマーチ」の一節である“なんのために生まれて、なにをして生きるのか”がテーマとして問われる作品であり、アンパンマンの原点とも言える作品になっている本作。
アニメイトタイムズでは、映画の公開を記念して、アンパンマン役・戸田恵子さん、チャポン役・蒼井優さんの対談を実施。今作の見どころからアンパンマンの思い出まで、素敵なお話をたくさんしていただきました。
【写真】戸田恵子&蒼井優が『アンパンマン』の日常の温かさを語る【インタビュー】
大人の心にもささる物語
ーー今作の脚本を読んだ際の印象や映画を観た感想をお聞かせください。
アンパンマン役・戸田恵子さん(以下、戸田):映画のメッセージは毎回普遍的なもので、「今作だから」という特別なことは何もないです。一方で毎回ゲストは違いますから、「ゲストの思いに合わせて、ストーリー展開していく」ということだと思っています。
今回の作品で(蒼井)優ちゃんが演じてくれたチャポンは、アンパンマンに憧れていて、「自分もアンパンマンのようなかっこいいヒーローになりたい」と思っているキャラクター。
「本当のヒーローって何なんだ?」ということをアンパンマンやジャムおじさんやいろいろな人たちから教わって、チャポンが成長する物語だと思うんです。「かっこいいだけがヒーローじゃない。悪者をやっつけるだけがヒーローじゃない」ということをチャポンがアンパンマンたちから学んでいく。そこが一番大きなテーマだと思っています。
チャポン役・蒼井優さん(以下、蒼井):「大人にとっても、心にささるお話だな」と思いました。私は平和というものがすごく尊いものだということをニュースで見るようになったタイミングで子どもを産んだんです。線引きされる世界というのをすごく痛感しました。
そういった現代に生きていて、「どこで生まれた」「何のために」というものが問われる時代に、この物語に出会えて良かったと思っています。チャポンって、最終的にばいきんまんたちも助けようとするんですよね。勝ち負けではなく、チャポンが行きつく世界というものが「なんて素晴らしいんだろう」と感じました。
ーー作品の中で、特に見てほしいシーンや大人の方に注目してほしいポイントをお聞かせください。
戸田:今回の作品では、チャポンと一緒に暮らす日常が描かれています。それはお子さんやお母さんなど、今のみなさんの生活と同じように暮らしている姿です。アンパンマンが絵本の読み聞かせをチャポンにしてあげたり、お風呂上りにタオルでチャポンの髪をふいてあげたり。アンパンマンがチャポンに葉っぱの傘を差し出すシーンは特に好きですね。私は葉っぱの傘というのが大好きで、実際は「ビシャーッ」と濡れてしまうので、できない話なんですけど(笑)。アニメの中に登場すると、「なんて素敵なんだろう!」と思います。
アンパンマンもチャポンも、決して特別な人ではないんです。だからこそ、みんなと同じような暮らしの中でいろいろなものを発見していく、成長していくということが描かれている。お兄ちゃんがほしいと思っているチャポンに対して、まんざらでもないアンパンマンが一生懸命お世話をしてあげるというところがいつもとは少し違うところかなと。
ーーアンパンマンの日常生活を見ると、より身近に感じますよね。
戸田:レギュラー放送の中でも、そういった日常生活が垣間見える時は、ちょっと微笑ましいですよね。「みんな“おはよう”って言いながら、起きるんだ」とか、マントが破れたらバタコさんが縫ってくれるとか。そんな中にチャポンが入っていくので、新鮮に観ていただけると思います。
ーー昨年の映画でお話を伺った際、アンパンマンたちの何気ない日々の生活や優しさを大切にしているとお話されていました。
戸田:そうなんです。一度でいいから、(戦いのない)日常だけのお話をやってほしいと思うくらい。
蒼井:観てみたいです!
戸田:そんなところも観たいと思うくらい、みんな普通に暮らしているんですよね。その生活の中で、毎回ばいきんまんが悪さをするので、出かけることになるんですけど、そういう部分が見えると、特別じゃないんだという感じがしてホッとします。
蒼井:今の現代、私たちの日常生活とリンクするところは、大人の方々が見たら感じると思います。その中で、アンパンマンたちの本当の優しさやあたたかさというものが身に染みると思います。
アフレコは幸せな時間
ーーところでTVシリーズの収録前には、レギュラーキャストのみなさんでラジオ体操をやっているとか。
戸田:コロナ(新型コロナウイルス感染症)の間はやっていなかったんですけど、老若男女みんなでやっています。強制ではないですけど、ゲストの方も「よかったら、ご参加ください」という感じで(笑)。
みんな高齢になってきましたけど、収録ではいきなり「ハ~ヒフ~ヘホ~」とか「アンパンチ」とか声を出さなくてはいけないし、身体をほぐした方が声も出ていいでしょうと。ある時から「やった方がいいんじゃないか」という声が上がっていたんです。
蒼井:誰が言い始めたんですか?
戸田:みんな自分なりに身体をほぐしている中で、ラジオ体操の話になり、誰からともなく「じゃあ、やりますか」という流れだったと思います。
ーー長年やっていると生活の一部になってきますよね。
戸田:本当にそうですね。レギュラー収録のスケジュールはなかなか変えられないので、37年前から同じ場所でやっています。
蒼井:収録をバラバラにするということはないんですか?
戸田:コロナの時はバラバラに収録していました。今思えば、やりづらかったですね。やっぱり相手の声を聞いた方がやりやすいというのはあります。時間的には1人で収録した方が速いんですけど……。
蒼井:確かに。
戸田:みんなで収録すると、かぶっているところは別録りしなくてはいけないし、テクニカル的な問題もいろいろありますから。それでも、みんなで会って、一週間のどうでもいい話をして、収録する方が良いですね。
ーー蒼井さんは今作でチャポンを演じてみて、いかがでしたか?
蒼井:収録中は本当に幸せでした。すごく緊張したんですけど、アンパンマンとチャポンが日常生活を送る。チーズとお風呂に入ったり……そういうシーンが嬉しすぎて、「こんなに幸せなことがあるんだな」って。アンパンマンのぬくもりをちゃんと感じられました。
ーースタッフからのディレクションはありましたか。
蒼井:今回の作品は、チャポンの成長物語でもあるので、一歩踏み出すシーンのセリフは、「今までのキャラクターを一度無視して、アンパンマンの背中(アンパンマンの背中を追いかけている)に向かって言ってみてください」と言われました。
そういったディレクションがあったくらい、今までのチャポンのキャラクターと思い切り変わる瞬間があるんです。スタッフの皆さんの『アンパンマン』に対する思いに触れられて、収録中はずっと幸せでした。
アンパンマンがくれた“大切な宝物”
ーー『アンパンマン』という作品に参加する中で、印象的な思い出をお聞かせください。
戸田:TVシリーズが始まった当初は、キャストの誰もこんなに長くやるとは思っていなくて。1年、5年……とやっていくうちに、だんだん私たちも作品の重みを知るわけです。私自身、子ども番組のキャラクターを演じるのは、アンパンマン役が初めてで。それまでは高学年が見るような作品への出演が多かったから、「大丈夫かな?」と思いつつ、やっていくうちに世の中に『アンパンマン』というものが広がっていきました。今では街中に『アンパンマン』が溢れていて、本当に特別なところを私たちが担っていると感じます。
戸田:いつかは卒業するとしても、お子さんたちのほとんどが『アンパンマン』を通ってくれる。全てのおもちゃや着ぐるみショー、デパートの乗り物にも声を入れているんです。その全てを私たちがやらせていただいているということに(放送開始から)5年経って、ようやく気づきました。とても“大切な宝物”を与えていただいたと思っています。私たちはどんどん年をとっていきますが、新しい子どもたちもどんどん入ってきますから、「頑張らないとね」という気持ちでラジオ体操をやっています(笑)。
蒼井:私の子どもも、私自身も『アンパンマン』に、戸田さんに育てていただいたところがあります。常に『アンパンマン』がいてくれることで、お母さんたちも安心できるんですよね。声が聞こえると、優しい気持ちや勇気を思い出させてくれます。
戸田:「うるさい!」というくらい私の声が聞こえていると思います(笑)。
蒼井:全然うるさくないです(笑)。家の中で、毎日アンパンマンの声が聞こえているなんて、よく考えるとすごいことですよね。そんな脈々と受け継がれてきた『アンパンマン』という世界の一部に、今回は自分が入らせていただきました。末永く続いて、うちの子の子どもが生まれた時にも、『アンパンマン』が続いていてほしいと心から思います。
[インタビュー/宋莉淑 撮影/藤本厚]