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「怒り」「心の内」「子どものこころの薬」を理解する。児童精神科医・岡田俊先生が選ぶ3冊【発達ナビ・あの人の本棚から】

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「怒り」「心の内」「子どものこころの薬」を理解する。児童精神科医・岡田俊先生が選ぶ3冊【発達ナビ・あの人の本棚から】

岡田俊先生が選ぶ3冊は?

奈良県立医科大学精神医学講座教授として、また児童精神科医として数多くの子どもたちの心の診療に携わってこられた岡田俊先生。子どもたちの感情や行動の背景にある複雑な心の動きを理解し、適切な支援につなげるための豊富な経験をお持ちです。

先生は「かいじゅうとドクターと取り組む」シリーズの監修者の一人としても知られており、子どもたちにも分かりやすく伝える取り組みを続けていらっしゃいます。

今回、そんな岡田先生に、発達ナビの連載企画として「保護者の方へ」「支援に携わる方へ」「著者ご自身の作品」という3つの視点から、心からおすすめしたい書籍を選んでいただきました。

岡田俊先生が選ぶ!保護者の方におすすめの1冊:『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(新井洋行著・岡田俊監修)

『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』は、「絵本作家とドクターでつくる、これからを生きる子どもたちのための絵本」シリーズの第2弾。本作は“怒り”がテーマです。

自分の気持ちと向き合い、バクハツせずに上手に怒りとつきあう方法「アンガーマネジメント」を、ユーモアあふれる絵本を通じて、子どもにも分かりやすく伝えることができる一冊です。

おこりんぼのかいじゅう・ポポリの視点で、「怒り」を捉え言語化する過程を描いています。子ども自身が、怒りを冷静かつフラットに捉えられるようになる「おこりんぼさんの毎日が楽になる処方せん」のようなこの絵本です。

本作の監修をされている岡田俊先生にお勧めポイントをお聞きしました。

怒りは、私たちのさまざまな気持ちの中でもっとも抑えつけられている感情です。その抑え込んだ気持ちが、知らず知らずに心や身体をむしばんだり、態度に出て、人間関係をこわしてしまうこともあります。でも、怒りに目を向け、その向こうにある本当の気持ちを言葉にしてみると、うまくいくこともたくさんあるかもしれません。子どもだって、親御さんだって、怒りのコントロールは難しい。だって、昨日も……⁉
この本に、何歳向け、なんてことはありません。それぞれの年齢だからこそ感じられる思いはあるでしょう。大切なことは、保護者といっしょに読むことです。「怒りのりゆうのカタログ」は、とってもすばらしい。だれもが自分の怒ってしまう理由を見つけられるでしょう。お子さんの怒りの「わけ」もきっと見つかるはずです。
怒りのコントロールのこつをつかもうと、ポポリもあれこれ工夫……うまくいくかな……ついつい応援!ポポリとともに成長できる一冊です。

支援者の方におすすめの1冊:『やっぱり おおかみ』(ささき まき作)

1977年の発売から長く愛され続けている名作絵本である本作。ひとりぼっちのおおかみが、「おれににたこはいないかな」と思いながら仲間をさがして町をさまようお話です。うさぎ、やぎ、ぶた、しか……いろいろな動物がたくさんいる町を歩き回りますが、どこへ行っても仲間に入りたいようで、入りたくないという複雑な気持ちを抱えているようです。

1977年の発売から長く愛され続けている名作絵本である本作は、おおかみから見た世界を印象的な絵で描いていきます。言葉にならない心の内を受け入れることを、シンプルで深い表現で伝える珠玉の一冊です。

このお話は、よのなかに1匹だけ生き残ったおおかみのおはなしです。なかまをさがしても、自分に似た子を探してもどこにもいません。おおかみは、このほんを通して、たったひとことしか発しないのです……「け」。そして「やっぱりおれはおおかみだもんな。おおかみとしていきるしかないよ」とさとります。空を呼び、飛行船に向かって一言……「け」。「そうおもうとなんだかふしぎにゆかいなきもちになってきました」というところで、物語はおわります。おおかみの心のうちやその変化を的確な言葉で言い表したとしても、かえって本質を損なってしまうのではないかと感じられる世界観。そして、「け」という言葉にもならない言葉にこそ表れた思い。おおかみの力強さにエールを送りつつも、どこかに哀愁がただよいます。

おおかみはシルエットだけで描かれています。そこに発達障害のある子どもたちの姿や思いを重ねることもあるでしょう。しかし、気づいてみると、支援者であるご自身の姿や思いが投影されているはずです。そう、誰もがみな自分自身として生きていくしかないのが定めなのです。この物語を通して、自分自身が、しか、ぶた、しか、うしのなかの「誰か」になりたいでしょうか……きっとそうでないはず。しかし、私たちは、本当は「おおかみ」なのになかまといる動物たちのようなふりをして、困っている誰かに気づいていなかったりするのです。
自分らしくしか生きられない、しかし、それが自分なんだ、そのことを大切にしたくなる一冊です。

発達ナビユーザーへおすすめの自著1冊:『親の疑問に答える 子どものこころの薬ガイド』(岡田俊著)

『親の疑問に答える 子どものこころの薬ガイド』は、子どものこころの薬について知りたいと思うすべての親御さんに向けて、そのメリットもデメリットも率直にわかりやすく解説した一冊です。

「うちの子になぜ薬が薦められたのでしょうか?」「副作用が現れていないかが心配です」「薬は一度はじめたらやめられないと聞きました」など、薬物療法に対する親御さんの素朴な疑問から専門的な質問まで、40のQ&Aで丁寧に答えています。

ADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)への薬物療法、うつ病や強迫性障害(強迫症)といったこころの病気の治療まで幅広くカバー。児童精神科医として長年の経験を持つ著者が、医学的根拠に基づいて親御さんの不安や疑問に寄り添いながら解説した実用的なガイドブックです。

私は、自分で書いた本を診察の中で紹介することはありません。ご家族の思いは、それぞれなので、いずれかの本が「万能のバイブル」になる、なんてことはありませんし、アドバイスすべきことは、日々の診察の中で、状況に合わせてお話しすべきことだからです。しかし、あるとき、こんなことがありました。ある本をお持ちになって「ずっと子どもの発達のことが気になっていたのだけれど、この本に出会って、背中を押されて本日受診できました」というのです。そして、その本を見せていただくと、実は私が書いた本だったのですが、お母さんはお話になっている瞬間も著者が目の前にいることはお気づきではありませんでした。事実を知ってびっくり、となったわけですが、それはうれしかったですね。いま発達障害に関する書籍は山のようにあるわけですが、本当に支えになる書籍になれたら、そういう思いです。ちなみに、そのときの本は「もしかして、うちの子、発達障害かも⁉」(PHP研究所)で、今回とは別の本です……あしからず。

診察の中で、子どもが飲むお薬については、実にいろいろな質問を受けます。だって、子どもが薬を服用するのは一大事ですから、疑問をできるだけ解決しておきたいのです。そんなよくある質問の一つひとつに、可能な限り正確を期して、できるだけ偏りがないように丁寧に答えています。薬を飲んだほうが、ゼッタイいい、とか、ゼッタイだめ、などというような(私的な)指針は書いてありません。なぜなら、そこは主治医と子どもと保護者が一緒になって決めることだからです。この本を通して安心して治療を受けられ、主治医と率直な意見交換ができることを願っています。

まとめ

感情のコントロールから孤独感への理解、そして薬物療法への正しい知識まで、子どもたちの心の世界に寄り添い続けてきた岡田先生ならではの温かく的確な眼差しが込められた、貴重な道標となる3冊。子どもたちの健やかな成長を願うすべての方にとって、心強い味方となってくれます。これらの書籍との出会いが、新たな気づきと希望をもたらしてくれるはずです。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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