【駿府博物館の「歌鳥風月のものがたり~森でよむ短歌 生きものと語らう~」展】 板谷房の屋根瓦の線を見よ
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の駿府博物館 で10月26日に開幕した企画展「駿府博物館の「歌鳥風月のものがたり~森でよむ短歌 生きものと語らう~」から。
奈良時代に編まれ「万葉集」。およそ4500首を集めた日本最古の歌集が成立する前の時代、神代の昔からこの国の森に暮らし続けるフクロウがいる。2024年の秋、長老フクロウは森やそこに生きる者たちを描いた和歌、そこに寄り添う絵画を集めた展覧会を開いた-。
ここまでが、本展の背景にあるストーリー。ファンタジックな設定だが展示はカチッとしている。日本画、洋画を見せながら、そこに静岡市出身の田中章義さんセレクトの和歌が添えられている。山上憶良に下村観山や橋本関雪、在原業平に業平本人を描いた長野草風「業平」、斎藤茂吉に歌川広重を組み合わせるなど、マッチングを楽しみたい。
個別の作品で言うなら、静岡大で教えた長岡宏(1935~1981年)の、草むらの奥に潜む水辺をシンメトリーに描いた「雑草」がいい。描かれた現場は全く違うが、作品の主役は共通する田中さんの歌も味わい深い。
駿府博物館のコレクションの中でも重要な位置を占める板谷房(1923~1971年)の「ベルンにて習作(教会の見える風景)」は、2021年の同館50周年記念展以来の出品。清水市立第四中(現静岡市立清水第四中)で教えた後、1953年に単身フランスに渡り、現地で高い評価を勝ち取った板谷の作品は、画面奥まで細かく書き込んでいる。一瞬遠近感が失われるような、不思議な作品だ。
無数に広がる家々の屋根瓦の線を執拗に描き込んでいて、この作家が欧州で評価を得るまでの艱難辛苦の時代を、ある種の一徹さで乗り切ったことがうかがえる。(は)
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■駿府博物館
住所:静岡市駿河区登呂3-1-1 静岡 新聞放送会館別館2階
開館:午前10時~午後5時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
企画展料金(当日):600円、中学生以下と障害者手帳提示の方は無料
会期:10月26日~12月22日、2025年1月4~13日