生成AIを使い倒すための本質、シン”AI”仕事術【トップビジネスパーソンに聞く】
初の一般向け生成AIアプリケーションである「ChatGPT」の登場から約2年。
最近では、生成AI関連のニュースが毎日のように飛び込んできています。
しかしその一方で、生成AIを毎日のように利用している人はそれほど多くないという報道も多数あります。
これは、まだ多くの人々がその活用方法を十分に理解しきれていない、あるいは日常業務にどのように組み込むべきかを模索している段階だからでしょう。
しかし、生成AIを効果的に活用している人にとってみれば、現在の状況は「人と差をつける」にはうってつけの状況です。
というのも生成AIは、人類史上初の「ホワイトカラーの機械化」を可能にするツールだからです。
ピンとこない人もいらっしゃるかもしれませんので、詳しく説明します。
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今回は、12年間経営コンサルティングに従事し、WEBメディアの運営支援、記事執筆などを行うティネクト株式会社の代表、安達裕哉さんに、「AI時代の仕事術」について伺いました。
生成AIがもたらす影響
かつて人類は、工場における肉体労働を機械化することにより、生産性を飛躍的に向上させました。
その結果、誰もが大量生産品の恩恵を受け、生活は豊かになりました。
しかしその一方で、新しく出現した「頭を使う仕事」、ホワイトカラーの仕事は非効率なまま温存されてきました。
つまりアイデア出し、アルゴリズム生成、デザイン、交渉、企画、プロジェクトマネジメントなどです。
これらの仕事は従来の機械には任せることができず、「人間の仕事」として残されました。
もちろん、PCをはじめとする情報処理機器の登場もありました。
しかし、皆様がご存知の通り、PCはほんとうの意味で人間の代替にはなりません。
企画をしてくれません。
メールを書いてくれません。
デザインもしてくれません。
営業資料をつくってくれません。
PCがやってくれるのは、実は
「図を書く肉体労働」
「ペンで手紙を書く肉体労働」
「電卓を使う肉体労働」
「書類を届ける肉体労働」
を置換するだけ。その本質は工場労働の機械化と何ら変わりはないのです。
しかし生成AIは、PCなどのこれまでの情報処理機器とはまったく異なる動作をします。
つまり「思考」を機械化できる。
「企画ができる」
「メールが書ける」
「デザインができる」
「営業資料が作れる」
思考そのものを任せることができる のです。この違いは非常に大きい。
つまり、これから生成AIを使えない、ということは、パソコンを使えない、ということよりも遥かに大きなデメリットがある可能性が高いのです。
機械化を果たした工場と、職人がハンドメイドでモノづくりをしている工場。
職人芸・ハンドメイドは、技術としては素晴らしいですし、職人のモノづくり好きな方も多いでしょう。
が、どちらのほうが生産性が高いかは歴然としていますし、現在の社会を支えているのは前者の生産性です。
それと同じです。生成AIを利用しているオフィスと、利用していないオフィスとは、とんでもない生産性の差がある。
そう考えれば、生成AIを利用しないことがいかにリスクの高いことであるか、容易に想像がつくでしょう。
したがって、 生成AIがもたらす影響は、単なる効率化にとどまらず、仕事の質そのものを変革する 可能性を秘めています。
生成AIを使いこなすための能力とは
したがってこれからは「生成AIを使いこなす能力」が、強く問われる世の中になります。
では、「生成AIを使いこなす人」と、「使いこなせない人」。
その能力における、最も大きなちがいは、一体なんでしょうか?
プロンプトの技術でしょうか。
生成AIに対する理解度や知識でしょうか。
新しいことを覚えるスピードでしょうか。
いえ、重要ではないとは言いませんが、どれも本質ではありません。
もっと重要な要素があります。
最も重要な要素、 それは「任せる技術」です 。
「任せる技術」というと、管理職の技術というイメージがあるかもしれません。
実際、今まではそうでした。部下のいない人は、頼まれたら自分でやるしかなかったですからね。
でもこれからは、どんな人にも「任せる相手」つまり、生成AIがついています。
「生成AIに任せること」が上手ければ、生産性を大きく改善できます。
逆に、生成AIに任せるのが下手だと、いつまで経っても自分で仕事をやらねばならなくなります。
では「任せる」ために必要なことは何でしょう。
部下に仕事を任せるときのことを想像してください。
何が重要だったと思いますか?
やり方を逐一指示することでしょうか?
成果品のイメージを示すこと?
それとも中間での確認?
もちろんこれらも大事です。
しかし、私が生成AIを使ってみて、強く思うのは、これらではありません。
実は、生成AIに指示を出すときに最も重要なのは「何をインプットにするか」なのです。
詳しく説明しましょう。
従来は成果品、すなわち「アウトプット」がどのようなものかを考えることがホワイトカラーの仕事の中心でした。
それに対して、 生成AIの登場からは「アウトプットがどのようなものか」ではなく「どのようなインプットを与えれば、生成AIがちゃんと仕事をするようになるか」を考えるのが、ホワイトカラーの仕事の中心になります 。
これは一見似ていますが、大きく異なります。
例えば、こんなシーンを考えてみましょう。
ある人が、「お客様にご招待いただいた、飲み会のお礼メール」を書きたいと考えたとします。
まず単純に生成AIに
「昨日の飲み会のお礼メールを書いて」
と指示を出すと、次のような文例が返ってきます。
件名:先日の飲み会のお礼
〇〇部 △△様
お疲れ様です。□□部の□□(自分の名前)です。
先日は、〇〇機能プロジェクトの飲み会にご招待いただき、誠にありがとうございました。
おかげさまで、普段業務ではなかなか伺うことができないお話や、他部署の皆様と交流を深めることができ、大変有意義な時間を過ごすことができました。特に、△△様から伺った〇〇に関するお話はとても参考になり、私自身の業務のヒントになりそうです。
今後も、お互いに協力しながらプロジェクトをスムーズに進めていきたいと思っております。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
改めまして、楽しい機会を設けていただきありがとうございました。
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署名(氏名/部署/会社名/電話番号など)
これでも別に悪くありませんが、そのまま送るわけには行きません。
あくまでも、「テンプレート」に過ぎない感じがします。
では、その時の状況をもう少し詳しく記述し、インプットを工夫した、以下のような形で、生成AIに投げるとどうでしょうか。
昨日、一緒に飲みに行った、顧客の部長に、お礼のメールを書いてください。
その際には、以下の背景を考慮すること。
#背景
部長さんは、以前プロジェクトで知り合った方 ごちそうになった焼き鳥は大変おいしかった 今度本部長に昇進するとのこと 信頼していた部下が転職を考えており、がっかりしている 部長さんは高級過ぎない店が好きで、あちこち開拓して回っている また飲みに行こう、と誘われたので、今度はこちらから声掛けしようと思っている
すると、次のようなメールを生成AIは出力してくれます。
件名:昨夜のお礼
〇〇部長
いつも大変お世話になっております。昨日はお忙しい中、お誘いいただきありがとうございました。
以前ご一緒したプロジェクト以来、久しぶりにお話しできてとても楽しかったです。また、大変おいしい焼き鳥をごちそうになり、誠にありがとうございました。〇〇部長がお気に入りのお店は、どこも高級すぎず居心地が良く、さすがだなと感心いたしました。
近々、本部長にご昇進されるとうかがい、心よりお祝い申し上げます。さらにご活躍の場が広がるかと思うと、私もとても嬉しく存じます。一方で、信頼していた部下の方が転職を考えておられるとのこと、〇〇部長としては残念なお気持ちでしょうが、部長のリーダーシップできっとチームをさらに盛り上げていかれることと思います。
また「次回も一緒に飲みに行こう」とお声がけいただき、ありがとうございます。今度はぜひ私のほうからお誘いさせていただければ幸いです。部長がお喜びになるようなお店をリサーチしておきますので、また日程が決まりましたら、ご連絡いたします。
それでは、寒い日が続きますので、くれぐれもお身体にはお気をつけてお過ごしください。今後とも引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
このメールは、なんの手を加えることもなく、直接送ることができるでしょう。
インプットの質をちょっと変えるだけで、生成AIのアウトプットの質が劇的に変わります 。
もちろん、命令に条件をつける、といった「プロンプトの技術」は必要です。
しかし、そんなことを知っていても、「メールに含めるべき、昨日の状況」をちゃんとインプットの中に含めなければ、大した仕事はしてくれません。
参加していない部下に「昨日の飲み会の御礼のメールを書いておいてよ!」と指示をしても、大したメールを書けないのと同じです。
したがって、 人を使うのが下手な人は、生成AIを使うのも下手です 。
極端な話、プロンプトは誰か生成AIの専門家に組んでもらえばいい。
我々が本当にやるべき仕事は、「どんな情報を与えたら、部下はちゃんと仕事をするだろうか?」と同じように、 「何をインプットしたら、AIはまともな仕事をするだろうか?」 なのです。
だから現在は「プロンプト不要」の生成AIサービスが、結構出てきています。
例えば、私たちが作った「Automagic」は、プロンプト不要でビジネス文書を作成できます。
スライドを作成したいなら、「Gamma」、挿絵だけ作成したいなら「napkin」など、いずれも適切なインプットさえ与えれば、プロンプト不要で結果を返してくれます。
2025年の生成AI関連サービスは、「プロンプト不要」そして次世代の生成AIである「何をインプットすればAIがうまく機能するか」すら考えてくれる、AIエージェントに注目が集まるでしょう。
なかなか楽しみな1年になりそうです。
プロフィール
安達裕哉
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。 品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。 大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。
現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」および生成AIコンサルティング会社「ワークワンダース」 の代表として、コンサルティング、webメディアの運営、記事執筆などを行う。
代表著書
『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること(日本実業出版社)』
『頭のいい人が話す前に考えていること(ダイヤモンド社)』
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安達裕哉