2025年の年末調整が複雑化 「160万円の壁」など改正対応、準備できている担当者は3割だけ
2025年度(令和7年度)の税制改正により、年末調整業務が複雑化する。
「103万円の壁」が「160万円の壁」へと引き上げられ、学生アルバイトを対象とした新たな控除制度も創設。しかし、フリー(東京都品川区)が7月16日に発表した調査報告によれば、こうした制度変更を理解し、実務対応の準備ができている担当者は約3割にとどまっている。
改正内容の理解度と準備状況「把握・対応済み」は3割前後に
調査によると、今回の税制改正の目玉である「年収の壁」の引き上げについて、「制度を理解し、実務対応も準備済み」と回答したのは31.8%だった。
一方で、「なんとなく知っているが詳細は理解していない」が63.2%にのぼり、多くの担当者が制度の詳細理解に苦慮している実態が浮かび上がった。
新設される「特定親族特別控除」についても同様で、対応準備ができている担当者は31.2%にとどまる。「詳細は理解していない」が58.0%、「制度自体を知らない」とする回答も10.8%あった。
煩雑化が予想される中、情報収集は例年どおり9月から
2025年の税制改正により、年末調整業務の煩雑化が予想されるにもかかわらず、情報収集の時期に変化は見られなかった。
情報収集は9月から始まり、10月がピークという傾向は例年と同様で、調査では「10月に情報収集を開始する」と回答した担当者が約5割を占めた。
通常、税制改正の法案は3月末までに国会で可決され、4月1日から施行される。また、税制改正の基本方針は前年末に「税制改正大綱」として大枠が示されるが、実務対応に必要な詳細情報の公開は夏以降が中心となる。たとえば、国税庁による具体的な手続きマニュアルや年末調整書類の様式変更などは、8月から9月頃にかけて順次明らかになる。
そのため、企業の年末調整担当者による情報収集は、例年9月から10月にかけて本格化し、11月末までに対応を完了させるケースが多い。
制度が複雑化する2025年においても、こうした情報収集のスケジュールに大きな変化は見られず、従来どおり秋口から対応を進める傾向が続いていることが調査から明らかになった。
2025年の年末調整での不安は従業員へのコミュニケーションに関連する内容が上位に
年末調整における不安要素として、従業員とのコミュニケーション面での懸念が目立った。
最も多かったのは「従業員に対して正しく年末調整の案内を行えるか」で、次いで「制度の内容を正しく理解できるか」「従業員からの問い合わせに正しく答えられるか」が上位に挙がった。
これらの結果は、税制改正の複雑さが従業員への説明や問い合わせ対応の難しさにつながっていることを示している。
2025年度の税制改正の概要
令和7年度の税制改正の基本方針は、物価上昇時の税負担調整と就業調整への対応だ。主な変更点は4つある。
基礎控除の見直し
基礎控除額が恒久的措置と時限的措置の組み合わせで見直された。これまでより細かい所得区分に応じた申告が求められるようになる。
給与所得控除の見直し
給与所得の最低保障額が現行の55万円から65万円に引き上げられる。基礎控除と合わせた所得税非課税ラインは160万円(95万円+65万円)で、いわゆる「103万円の壁」が「160万円の壁」に変わる。
特定親族特別控除の創設
若年層の就業支援を強化する目的で新設された。対象は19歳以上23歳未満の親族で、合計所得金額が58万円超123万円以下の人だ。
扶養親族等の所得要件の改正
基礎控除の見直しに伴い、扶養対象扶養親族などの所得要件が変更される。これらの改正は令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適用される。
年末調整の詳細な事務内容については、国税庁が8月末頃から順次情報を公開する予定だ。
調査データの詳細は公式リリースより、税制改正による年末調整業務の変化は国税庁のパンフレットより確認できる。