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「それは私の仕事じゃない」が通用しない時代へ。FigmaのVPoPが見据える、全職種“オールラウンダー化”の未来

エンジニアtype

「それは私の仕事じゃない」が通用しない時代へ。FigmaのVPoPが見据える、全職種“オールラウンダー化”の未来

生成AIの爆発的な進化により、「エンジニアのコーディング業務は不要になるのか」「デザイナーのクリエイティビティーはAIに代替されるのか」といった議論が後を絶たない。多くのビジネスパーソンが、自身の磨いてきた専門性が無価値になる未来を恐れている。

しかし、シリコンバレーの最前線、デザインプラットフォームのデファクトスタンダードである「Figma」でVPoP(プロダクト最高責任者)を務めるSho Kuwamotoさんは、現場で起きている「全く別の現象」に着目している。

彼が見ているのは、エンジニアがデザインを語り、プロダクトマネジャーが自らコードを書くようになる「Role Blending(役割の融合)」という未来だ。Figma創業期から製品開発を率いてきたSho Kuwamotoさんの言葉から、これからの時代のプロダクト開発について紐解いていこう。

Figma
VPoP
Sho Kuwamoto(@skuwamoto)

同社の創業期の初期メンバーの一人として入社し、技術チームの構築や2016年のFigma DesignのVersion1のリリースに貢献。過去にはMedium、Adobe、Macromediaでプロダクトリーダーシップの役職を歴任。顧客中心主義の考え方と、人々の創造を支援することへの情熱で知られる

(※)本記事は、日本CPO協会主催イベント「Product Leaders AI 2025」のセッション「Figma創業期からAI時代まで支えた視点に学ぶ、プロダクト戦略の本質」の内容を抜粋・編集して作成しています

目次

AIが、デザインの「つくり方」を塗り替え始めた職種の境界線が薄れる「Role Blending」時代の到来最高のチームとは、己の役割に固執しない集団デザインの本質は「正しい方向」を決めることプロダクトの北極星を見失いかけた時は、顧客を見ろ

AIが、デザインの「つくり方」を塗り替え始めた

AIの登場は、デザインの現場に単なる効率化以上の変化をもたらしている。その一つが「デザインを探求する新たなプロセス」の登場だ。

「今、多くのデザイナーが『自分のアイデアをどう表現するか』を見直し始めています。ここで言うデザインとは、アイデアを出し、深く考え、他人と協力して見せ合い、最終的にUIであれビジュアルであれ、最良のアイデアに到達するプロセスのことです。

従来、そのプロセスを最速で回す方法は「描くこと」でした。SketchやFigma、Illustratorなどを使ってインターフェースの絵を描き、それについて話し合う形ですね。しかし今では、AIに指示を出してコードを生成し、そのコードを使ってアイデアを表現することが、絵を描くのとほぼ同じくらい速くなりつつあります」

「絵を描く」と「コードを書く」のが同じ速度で行えるなら、デザイナーとエンジニアを隔てていた壁は意味をなさなくなる。Sho Kuwamotoさんは、これからの理想的なワークフローは「境界を自由に行き来すること」だと語る。

「人々はいずれ、AIを使うこと、手動でタイピングしてコードを書くこと、そしてマウスを使って手でデザインを変更すること、これら全てを流動的に行えるようになっていくべきです。

例えば、『●●と●●を行うアプリを作って』とAIに伝えてプロトタイプを作らせる。次に、コードを少しいじって修正する。デザインの一部が気に入らないなら、マウスで配置を変えたり色を変えたりする。そしてまたプロンプトで『今度はこうして』と指示する。

このように、AIとデザインとコーディングとの間を『行ったり来たりできるワークフロー』こそが理想的だと、私たちは考えています」

職種の境界線が薄れる「Role Blending」時代の到来

「デザイン」と「コーディング」の間を自由に行き来できるようになったとき、人々の働き方はどのように変化するのだろうか。

その見立てについてSho Kuwamotoさんは、AIツールの普及初期に見られた動きを例に挙げて次のように語る。

「当初、エンジニアたちはVibe Codingツールよりも『デザインを助けてくれるツール』の方に興奮していました。一方でデザイナーたちは、デザイン支援ツールよりも『コードを書くのを助けてくれるツール』に興奮していました。

現在はツールの進化に伴い、多くのエンジニアがコーディングツールを活用していますが、最初に最も興味を示したのは『非エンジニア』だったと思います。そのことを踏まえると、将来的には、誰もがAIの助けを借りることで、あらゆる領域を一人で担当する働き方になっていくでしょう」

エンジニアはデザインを、デザイナーはコードを。互いが互いの領域に踏み込むこの現象を、Sho Kuwamotoさんは「Role Blending(役割の融合)」と呼ぶ。

そしてこの波は、プロダクトマネジャーという職種にも劇的な変化を突きつけている。

「プロダクトマネジャーに関して言えば、これからはPRD(製品要求仕様書)を書くだけでなく、コードを使って『動くプロトタイプ』を自ら作ることが求められます。

もはや今は、CursorやFigma Makeを使えば誰でもプロトタイプを作成できる。これからはPM自身が、自分のアイデアを動く形で提示する時代になるのです」

一つの職能に縛られる時代は終わり、職種の壁を越えて全員が「作り手」となる。そんな「Role Blending」の時代が到来しつつある。

最高のチームとは、己の役割に固執しない集団

一人一人の役割に変化が生まれるのであれば、当然「チームの在り方」にも変化が生まれるはずだ。Sho Kuwamotoさんは、自身のキャリアの中で見てきた「最高のチーム」には、ある共通点があったと振り返る。

「企業文化やソフトウエアの種類によって適切な方法は異なりますが、私が経験した最高のチームでは、エンジニア、デザイナー、プロダクトマネジャーが非常に流動的に連携していました。『それは私の仕事ではない』と言う人はいません。

例えば、エンジニアが『いいアイデアがあるんだけど』とデザインの提案をすることもありますし、PMが『処理速度を上げるためにデータをキャッシュしたらどうか』と技術的な提案をすることもあります。

エンジニアがデザインのアイデアを持ち、デザイナーがプロダクトのアイデアを持つ。誰もが自分の役割に固執せず、アイデアベースで貢献し合う働き方が、これからのチームには必要です」

そして、特にFigmaのようなデザインとエンジニアリングが密接に絡み合う複雑なプロダクトにおいては、この「越境」こそが開発の要になる。

「新しい機能を考える際、例えば『新しい変数を追加して、これとあれを変更できるようにしたら……』と思考を巡らせるには、デザイナーであってもエンジニアのように考える必要があります。システム全体を見通し、『これがプロダクトのこの部分にどう影響し、あっちの部分にはどう影響するのか?』と考えなければならない。

それは、ほとんどソフトウエアアーキテクチャのような思考です。だからこそ、職能を超えて全員がシステム全体を理解し、共に考える姿勢が不可欠なのです」

デザインの本質は「正しい方向」を決めること

AIによって開発のハードルが下がり、誰もがエンジニアリングやデザインに越境できるようになった。それは素晴らしいことだが、同時にSho Kuwamotoさんは、これから訪れる「大競争時代」についても示唆している。

「ソフトウエアを書くコストが下がり続ける、5年後や10年後の未来を想像してください。かつて、ワープロソフトを作れる会社は数社しかありませんでした。しかし、誰もが簡単にソフトウエアを書けるようになれば、10個、20個、あるいは100個の競合製品が生まれるかもしれません」

「どう作るか」の参入障壁がなくなり、市場に似たような製品が溢れかえる世界。そのとき、勝敗を分ける決定的な差は何になるのだろうか。

「サービスが溢れかえる世界では、『何を作るべきか』を正しく見極めることが最も重要になるでしょう。誰もがソフトウエアを書けるようになるからこそ、『正しいソフトウエア』を作らなければなりません。

誰もが車を運転できるようになったとしても、重要なのは『正しい目的地に向かって運転すること』ですよね。私の考えでは、それこそが『デザイン』の本質です。

もし世界最高のサービスを作るとしたら、それは一体どういうものなのか。そもそも解決したい課題とは何か。それを問い続け、答えを見つけ出そうとすることがデザインであり、これからの世界でより重要性を増していきます」

プロダクトの北極星を見失いかけた時は、顧客を見ろ

だが、激しい競争社会の中にあっては、ついつい短期的な目標に追われてしまいがちだ。いわゆる“北極星”(長期的なビジョンや全体像)を見失わないためには、何を意識し、どのようなプロセスを踏めばいいのだろうか。

「まずは、適切な高度の目標を掲げること」と前置きした上で、Sho Kuwamotoさんは「社内ではなく社外に目を向けること」の大切さをアドバイスしてくれた。

「会社が大きくなると、顧客と話すのをやめてしまいがちです。『リサーチチームがいるから彼らが話してくれる』『セールスチームが話すだろう』『カスタマーサポートが話すだろう』と、他の人たちについ任せてしまう。

しかし、もしあなたが常に顧客と話していれば、自分のプロダクトのどこがうまくいっていて、どこがダメなのかが非常に明白になります。どんなプロダクトのアイデアであれ、顧客と話してみると、半分のアイデアは『さらに良い』と思えるようになり、残りの半分は『ひどいアイデアだ』と気付くものです。

私にとっては、実際のユーザーと話すことこそが、物事がうまくいくかどうかの判断において、最も地に足がついた方法だと思います」

職種の壁が壊れ、誰もが作り手となれるAI時代。AIが手を動かし、人間が「北極星」を見定める。その航海において、羅針盤となるのはいつだって目の前の「顧客」なのだろう。

文・編集/今中康達(編集部)

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