自閉症小4息子、突然の転校!母も大慌てで準備…初めて知った特別支援学級の地域差
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
転勤が決定!怒涛の1ヶ月がスタート
マイワールド全開の長男けんとは現在、小学4年生。特別支援学級の情緒クラスに在籍しています。3歳の時にASD(自閉スペクトラム症)と診断を受けました。構音障害があり、集団行動が苦手で不注意。数字に関することが大好きな男の子です。
わが家は夫の仕事の柄、転勤族です。今年の3月に入る頃、1ヶ月後の4月に転勤することが決定しました。予め引っ越しをする可能性があることを子どもたちに伝えてはいたのですが、決定後に改めてけんとに伝えると、すんなり受け入れている様子。
数年かけて築きあげてきた、私たち家族を取り巻く全ての支援者の方たちのサポートに満足していた私は、また一から探してつくっていかないといけないという現実に、正直、落ち込みました。
しかも今回の引っ越し先は初体験の雪国!引っ越しに向けて考えることは山積みです。慣れない雪道を歩いて通学するので、小学校と中学校が近くにある物件を探しました。ほかの条件も含めてピッタリのところを探すのは大変でしたが、無事決定!続いては転校に必要な手続きなどを聞くために、市役所と校区の小学校に電話をしました。
学校内の見学を希望させていただくことに……
けんとは引き続き特別支援学級を希望することにしました。その場合、新しい小学校で転校の手続きをする前に、市の施設で教育相談と知能検査をする必要があるとのこと。4年前にけんとは知能検査を受けたことがあったのですが、有効期限が過ぎているとのことで、改めて検査を受けることになりました(地域によって必要な手続きは違うようです)。
小学校に電話をして話を伺いました。今まで通っていた小学校は、全校生徒の人数がとても少なくのんびりした学校だったのですが、新しい学校はマンモス校!学校ならではのルール、地域性も違うように感じました。
手続きする日程を決める時、合わせてけんとの学校内の見学を希望させていただきました。けんとは、学校のつくりがどうなっているのか、階段や教室、どこに何があるのか……など、すごく気にする子どもです。見学をしないと、授業中でも一人で勝手に校内を見て回ってしまう可能性があります。学校の先生に相談をすると見学を了解してくださり、私が手続きをしている間に、特別支援学級の担任の先生が校内を案内してくださることになりました。
通い出して判明!地域によっての制度の違い
怒涛の1ヶ月が過ぎ、遂に4月!引っ越しをしました。教育相談と知能検査を終え、転校手続きに学校へ。その時に特別支援学級の先生と面談があったので、けんとの性格や特性をお伝えしました。
そして始業式!けんとに感想を聞いてみると「思っていたよりも人が多かったです~」とのこと。人が多い集会や式に出席するのが苦手なのですが、最後まで参加したことに成長を感じました。
実際に通ってみると同じ特別支援学級といっても、前の学校と新しい学校とでいろいろなところが違いました。
前の学校では、知的クラスと情緒クラスは教室が分かれていました。知的クラスは1人ひとりの勉強ペースに合わせて進めていました。情緒クラスでは、国語と算数は特別支援学級の教室で通常学級の子どもたちと同じペース・内容を授業形式で行い、ほかの教科は交流学級へ行き、授業を受けていました(サポートで先生がついてきてくださっていました)。
新しい学校の特別支援学級では、知的クラスと情緒クラスの教室が同じで、学年ごとに分かれて勉強します。生徒それぞれの勉強のペースがあるのでプリント学習がメインです。そして「トレーニング」という授業があります。ランニングや筋肉トレーニングを行います。
けんとは体を動かすのが苦手なので、ついていけるのか心配しましたが、見学に行くと、嫌がらず頑張っている様子でした。図工の授業も多く、週明けには休日に何をして過ごしたのかを発表する授業があります。今までなかった授業内容やスタイルに、少しずつ慣れていっているようです(地域によって制度がさまざまなようです)。
しばらくの間、サポートをしに学校へ……
けんとは、見た目が苦手な食べ物を見ると、嘔吐してしまったり、しそうになってしまいます。ほかの人が給食を食べている様子が見えてしまうのが怖いので、それを先生にお伝えしたところ、教室の一角にあるレールカーテンで仕切れる場所をけんとの給食スペースとして利用させてくださることになりました。
けんとは構音障害があり、言葉が不明瞭なうえ、自分の思いを上手く伝えることが苦手です。けんとが学校に慣れるまで、そして先生がなんとなくけんとに慣れてくださるまで(4月いっぱいくらいまでの間)、朝、給食の時間、帰りの時間帯に私も学校へ行き、通訳が必要そうな時は先生に伝えるなどサポートをしました。
5月中旬頃になって、私も子どもたちも生活が落ち着いてきたように感じます。けんとが新しい環境について何かを言ってきた訳ではありませんが、不安からなのか落ち着きのない様子が多かったり、自己刺激行動、チックが多くなっているように感じます。まだ始まったばかりの新地での生活。けんとが安心して過ごせる環境づくりができるよう、支えてくださる周りの方々と連携をとりながら、少しずつ関係を築いていけたらと思っています。
執筆/ゆきみ
(監修:新美先生より)
転勤に伴う急な転居・転校のエピソードを聞かせていただきありがとうございます。転勤の辞令が直前に出るお仕事をされている方のご家族は、ただでさえ大変なのに、環境変化が苦手なタイプのお子さんにとっては試練です。また、これまで築いてきた支援の体制が途切れてしまう不安もありますよね。それでもやり遂げてこられたこと、すごいです。
転勤が決まる前から、引っ越す可能性があることを「予告」しておくのは大事ですね。決まってしまったらどんどん動くしかないので、そういうことがありうることを事前に伝えて予定の範囲にしておくことで、受け入れがスムーズになりますね。
学校の体制、特に特別支援の運用のしかたなどは、かなりの地域差があります。以前いた学校の生活とは全然違ってしまって戸惑うこともあります。どのように変わったかを具体的に説明することが大事なお子さんもいると思いますし、なんとなくなじんでしまうお子さんもいますね。お子さんによって、気にするポイント、こだわるポイントがまちまちなので、お子さんに合わせて必要な支援はお願いしましょう。けんと君の場合は、校内の場所を把握しておくことが重要とのことで、事前に校内見学をさせてもらったのはよかったですね。
また、給食がネックになるお子さんもいます。慣れない環境だとより過敏になるお子さんもいるし、一度嫌な体験(嘔吐など)をしてしまうと、拒否になってしまうことも起こりうるので、そのような心配をしっかり初めから伝えて、初めから、食べる場所の工夫や、慣れるまでの付き添いなどをしたのはとても良かったのではないかと思います。学校によっては、以前の学校で起きたことがあっても、「とりあえずは普通にやって様子を見て必要なら考えましょう」などと言われてしまうこともありますが、嫌な体験を経験してしまってからでは取り返しがつかなくなることもあるので、心配な点はしっかり学校側に必要な合理的配慮を伝えて初めから対応してもらうことが重要だと思います。ゆきみさんはその点、転校の最初からしっかり支援体制を組んでいけるパワーが素晴らしいと思いました。新しい学校にも慣れつつあるとのこと、何よりです。大変だと思いますが、ゆきみさんのパワーで新天地でよい関係づくりができそうですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。