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深刻なカキ殻問題 未来の資源へ

TBSラジオ

今日は、冬の味覚「牡蠣」の話題です。

全国の養殖の牡蠣は例年10月1日に水揚げが始まりますが、今年は猛暑の影響で、解禁が20日ごろにずれ込むことになりました。解禁の遅れは今年で2年連続です。

冬の味覚、「牡蠣」に異変!?

猛暑だと、身が大きくなりにくいだけでなく、死んでしまう牡蠣も増えてしまうんです。そのせいで、牡蠣の生産量トップの広島県では、困ったことが起きています。広島かき生産対策協議会の米田輝隆さんのお話です。

広島県漁業協同組合連合会・代表理事会長(広島かき生産対策協議会・会長)米田輝隆さん

やはり、気温水温が高いですから、産卵を何回も繰り返すような感じなんですよ。産卵すれば人間と同じで体力がなくなるんですよ。で、高水温で食べるプランクトンがないというので、やはり体力が落ちて死んでしまうという・・・。変死して死んだ「殻」が12月、1月に増えるでしょうけど、広島県では約13万トンくらいは出ております。深刻ですね。二次堆積場を海の中で作っておりますので、そこはちょっと満杯になりそうなんですよね。12月、1月、2月頃になるとちょっと危なかしいかもわかりませんね。

牡蠣の殻、すごい量ですよね・・・。

牡蠣殻は年間10~13万トン:流域圏環境再生センター提供

13万トンの牡蠣殻というのは、広島県で出る年間の殻の量。(ちなみに身は1.6万トンなんだそう)1シーズンでこれだけ殻が出るので、牡蠣殻の保管場所は限界に近づいているんです。殻の排出量を抑えるために、漁獲期間を短縮せざるを得ない生産者も出ていて大量の牡蠣殻が大問題になっています。

牡蠣殻の再利用先、意外な場所にも!

この大変な厄介者を広島ではどう処理しているのか?流域圏環境再生センターの山本民次所長に伺いました。

流域圏環境再生センター・山本民次所長

広島県内に2つ会社があってですね、牡蠣殻を引き取って加工するということをしてます。砕いて熱風乾燥して、サイズ分けなんかをして製品化してると。製品は何に使われるかというと、鶏の飼料、小さくして、餌に混ぜて牡蠣殻を食べさせてます。そうすると卵の殻が強くなるとか言われてます。それからもう一つは畑の土質改善。畑で作物を作ると泥のPHが酸性化していってしまうので、それを中和するために、牡蠣殻とか使われてますね。

ニワトリのエサに牡蠣の殻を混ぜているとは!

普段は砂などを食べて胃の中の餌をすり潰して消化しやすくしているんですが、その役割を牡蠣殻が担っているようです。牡蠣殻はミネラル豊富で、鶏にも卵にもプラスになるので、広く再利用されてきたわけです。ところが、最近は鳥インフルエンザの影響でニワトリを大量に処分してしまい、牡蠣殻の餌の需要も減ってしまい、急にピンチに・・・!

流域圏環境再生センター提供

広島県内の自治体や企業は、牡蠣殻の新たな活用を模索していて、例えば、下水が通っていない地域でのトイレの浄化装置として使用されたり、広島が本社の「洋服の青山」ではなんと牡蠣殻を使ったスーツまで・・・!活用の幅が広い!

瀬戸内海が「ヘドロ」でピンチ、牡蠣殻が救世主?

そんな中でいま注目されているのが、「ヘドロ化」してしまった瀬戸内海の干潟に、細かく砕いて熱風乾燥させた牡蠣殻をまいて再生させるプロジェクト。なぜ、瀬戸内海のヘドロに牡蠣殻がいいのか。再び山本所長のお話です。

流域圏環境再生センター・山本民次所長

ヘドロっていうのは、実は広島湾の奥だとか、東広島の方にも非常に多いんですよ。そういうところはもう生物も住めないような状態になってるんですね。生物が住めない一番の原因は「硫化水素」なんですね。それが一つ大きな原因で、実は漁獲量が下がっているんです。瀬戸内海なんかもうピーク時の漁獲量の10分の1以下でしょ。もう今後、我々本当に水産物食べれなくなってしまうのが心配ですね。だから泥を良くしないといけない。で、その一番悪い元となっている硫化水素を牡蠣殻がどういうふうに抑えるかというと、一つは吸着です。牡蠣殻の表面ってデコボコしているので、硫化水素があるとどんどん表面にくっついくんですよね。だけどそれで終わりじゃないんですよ。毒性もなくなってしまう。においの成分も全部牡蠣殻が吸着してくれると思いますね。

牡蠣殻問題も深刻ですが、瀬戸内海がこんなに深刻な状況だときいて驚きました。そんな瀬戸内海を牡蠣殻が救ってくれるかもしれないんです!

カキ殻を細かく砕いて熱風乾燥させると、表面に酸素をまとう状態になります。それが悪さの元である「硫化水素」を吸着します。さらに、このプロジェクトは干潟で行われているため、干潮で牡蠣殻が空気に触れると、また同じ働きを繰り返すメリットもあります。

このプロジェクト、すでに第一段階でまいた場所では、においの改善や生物の確認ができたそうです。今年から始まったエリアでは、10年間で5000トンを目安に2.8ヘクタールの規模でまいていく予定です。

流域圏環境再生センター提供

13万トンのカキ殻に対して「10年間で5000トン」というのは少ないのでは?と感じる方もいると思いますが、県民からは「匂いがなくなり大いに助かっている」という声が。

今後、この取り組みが瀬戸内海のあちこちに広がれば、さらに多くの牡蠣殻が処分でき、海の環境も再生するかも、と期待されています。水産資源を守るための一歩としても、牡蠣殻の活躍に期待したいですね。

(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:糸山仁恵)

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