謎多い水深200m以深の生態系を解明? 深海の水から頭足類DNAを検出する画期的な手法が開発される
水深200メートル以深の領域は「深海」と呼ばれ、極限の環境が広がっています。この環境に適応した生物の生態は未だに謎が多く、特に無脊椎動物の調査は発展途上だそうです。
そんななか、神戸大学大学院人間発達環境学研究科の邬倩倩(う・せいせい)学術研究員と源利文教授を中心とした研究グループは、頭足類(主にイカやタコの仲間)のDNAを深海の水から検出する革新的な手法を開発。水深200~2000メートルの深海域に生息する多種多様な頭足類DNAの検出に成功しました。
この研究成果は学術誌『Marine Environmental Research』に掲載されています(論部タイトル:Development of universal PCR primers for the environmental DNA metabarcoding of cephalopod (Mollusca) diversity)。
謎が多い深海頭足類の生態系
水深200メートル以深の領域は深海と呼ばれ、光がほとんど届かない低温・高圧の極限環境が広がっています。
深海は地球の大部分を占めているにもかかわらず、調査が難しいことから謎が多く、特に頭足類の多様性調査は依然として遅れているようです。
新たな環境DNA解析技術の開発
従来の調査では潜水調査や無人探査機を用いた手法が用いられてきましたが、今回の研究では環境DNAメタバーコーディング分析法に着目。この手法は水中に残された生物由来の微量なDNAを使用し、特定の分類群に特化した検出系を用いることで簡便に生物相を把握することが可能です。
しかし、これまで魚類などの環境DNA解析技術がほぼ確立されてきた一方、頭足類については頭足類を対象とした検出系が開発されているものの、分類学的な解像度の低さなどの課題がありました。
そこで、これまでの問題を克服するため、十腕形目(イカ類)と八腕形目(タコ類)を対象とした2種類の頭足類特異的検出系を開発。その分類学的特異性、分解能、カバー率を評価したほか、異なる水深で採集された環境DNAサンプルを用いて、開発された検出系の有用性の検証が行われました。
多種多様な頭足類の検出
この研究で開発された検出系が野外でも適用可能であるかを調査するために、太平洋の西七島海嶺沖合海底自然環境保全地域を含む調査地の表層及び深層の水を採水し、環境DNAの検出が試されました。
その結果、海水試料からイカ類54種とタコ類6種の計60種の頭足類のDNAを検出。表層のサンプルからは5科7属10種のイカ類を検出したほか、中深層(水深200~1000メートル)のサンプルからは15科27属34種のイカ類、漸深層(1000~2000メートル)のサンプルからは深海イカ類と6種のタコ類の配列が検出されました。
中深層や漸深層のサンプルから検出されたイカ類の代表例として、ダイオウイカやソデイカ、トビイカ、ユウレイイカ、ホタルイカモドキ属の1種などが挙げられており、水深200メートル以深では小型のイカ類からダイオウイカのような大型種まで多様な頭足類のDNAが検出可能であることが示されています。
深海頭足類の多様性の解明
今回、新たに開発された革新的な手法は従来の調査手法と比較して高感度かつ高効率であることが特徴とのこと。今後、深海性頭足類の多様性の解明に向け重要な役割を果たすことが期待されています。
一方、イカ類と比較して、タコ類は環境DNA検出率が低いといった課題も残っているようです。
これはタコ類は群れを形成せず単独でいることに加え、多くが底生性であることに起因する可能性が指摘されています。より多くの種のDNAを検出するために今度も研究、調査が望まれているでしょう。
(サカナト編集部)