「涙なしで見られない」「ティッシュが必要」「バンド名ほど“シンプル”じゃない」ポップ・パンクの伝説を追うドキュメンタリー
多様な変遷を遂げた音楽ジャンル
自宅の地下室で練習していたバンドが1000万枚ものCDを売上げ、プライベートジェットでツアーする人気バンドに……。そんな夢のようなキャリアを築いても、すぐに忘れ去られてしまう。ポップ・パンク激動期とも言える2000年代前後は、そんな時代だった。
90年代のグランジ・ムーブメントと交差しつつ入れ替わるような形で爆発的に盛り上がった、いわゆるメロディック・パンクと呼ばれる音楽シーン。日本でも多くのバンドが全国各地から登場し、のちにメロコア・バブルなどと揶揄されるほどのムーブメントとなったが、それは今では考えられない規模の熱狂だった。
バンド始動時は人気バンドと共に大規模なツアーに出ても、内情は手弁当。まだCDがメイン媒体の時代だから、レコードショップで一喜一憂し、手売りするためのドサ回りもした。そうして苦労の末に“売れた”と実感したら、待っていたのは「あいつらはパンクじゃない」という容赦のない“反発”だった。同じような経験をした先輩アーティストや、地道に長く活動を続けるパンクの大御所たちが登場し、彼らの不満や苦しみに理解を示す。
最初の頃はバンドキッズ同士のつばぜり合いで済んだとしても、やがて大金を稼ぎ大量のスタッフを雇用するようになれば、同じようにはいかない。はからずもSNS時代の波を乗りこなしたことで“パンクの精神”とは決別することになったかもしれないが、それが彼らのキャリアを救ったのも事実。そしてメンバーの不祥事という、顔を覆いたくなるような事件からも目を背けるわけにはいかない。
いつの時代もバンドを支えるのは、“現場”に足を運ぶファンの存在
なんだかんだ20年以上にわたって活動を維持してきた彼らの言葉には、音楽ファンでなくとも耳を傾ける価値がある。かけがえのないメンバーの存在、常に支えてくれた家族の存在、そして何より、いつどこでも自分たちの音楽を待っていてくれたファンの存在――。
当初はジャンクと呼ばれていたグランジを含め、パンク~ハードコアの思想から派生した数々の音楽ジャンルは、どれも一度は時代から消えた。その渦中にいたバンドの中には、数十年を経てから“伝説”としてリバイバルヒットを果たす者もいる。しかも、本人たちは意識していなかった“後付けのジャンル”の先駆者として(ミッドウェスト・エモのムーブメントが良い例か)。とはいえそれがアーティストを経済的に救うことは確かであり、リアルタイムで聴いていたファンとしても歓迎すべきことではあるだろう。
“バンドというカルチャー”は、資本主義的なビジネスゲームに完全に飲み込まれた瞬間に、その本質は失われてしまう。本作はそう思わされると同時に、どんなくだらない映像でも残しておくものだな……と痛感させられる、とてつもなく楽しいドキュメンタリーだ。
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