【常磐線各駅停車】北松戸・馬橋・新松戸・北小金さんぽのおすすめ8スポット。古今東西のカルチャーがゆる~く溶けあう
松戸と柏に挟まれた、北松戸~北小金の常磐線各駅停車4駅。住民が「目立たない」と笑うほど、住宅地特有ののんびり感なれど、歩いてみて驚いた。多様な文化がゆるゆる入り混じって、牧歌的な常磐線文化を醸成していたのだ。
【北松戸】さりげなく、クリエイティブ
足を運ぶたび、ワクワクの宝探し『FUJIYA』
「心がワクワク、楽しくなる空間を」と斉藤さん夫妻。ベテランスタッフのユニフォームも季節替わりで、毎月店のどこか一角に新テーマが誕生する。POPもディスプレイも手作りで、ゲームイベントを催すことも。海外の蚤の市で見つけたアンティークや国内のクラフト作家の雑貨など、一点もの多数。さらに「松戸市内の制服は全部あります」。
10:00~19:00、火休(3月は無休)。
☎047-364-7458
有名メーカーの家具や雑貨が破格!『ネイルウッド』
無垢材の上質な家具やキュートなインテリア雑貨の格安さに驚きが止まらない。「松戸は家具店がないから」と、店主の吉田耕二郎さんは展示品や在庫品、試作品を買い取り。家具メーカー勤務の経験を基に「長く使ってもらいたい」と、三郷に構える工房できっちり修繕する。椅子の張り替えなど、布ものは妻・美智子さんの担当だ。自宅近くで週2営業。
水・土の13:00~18:00営業。
☎090-2739-5262
【馬橋】のんびり発信のカルチャー基地、続々
心地いい音に包まれるひととき『Gallery& 音楽室 千鈴舎(ちりんしゃ)』
音楽活動するD.D.氏と紺エリコさん夫妻が、木造一軒家のレコーディングスタジオに併設したのはギャラリー&カフェ。看板犬のくるみちゃんの歓待を受け、空間を漂う温かな音色を耳に、ハンドドリップコーヒー500円、自家製パンナコッタ600円を味わえば、ほっこりした心地になれる。土はライブもあり。
第2~4土の12:00~18:00ごろ、月・水休(会期中)。
☎なし
ボーダーレスでアットホーム『SunBeam Terrace』
南アフリカ出身のレスリーさんと妻の未佳さんが自らDIYした店は、南ア・エッセンスが満載だ。スパイシーなミートローフの家庭料理ボボティープレート1050円、赤ワイン650円に、輸入代理業も務めるカラフル食器や素朴な人形も加わる。「月替わりのアート展もしていますよ」。初見の客同士でも話が弾む地域のコミュニティー的存在だ。
18:00~23:00(木~日は12:00~16:00も営業)、月休。
☎090-7702-3339
【新松戸】大らかさが生む新たな名物
松戸新名物でビタミンチャージ!『M+(エムプラス)』
『鵜殿(うどの)シトラスファーム』が営む、自家栽培レモン・ライムのドリンクスタンド。日向夏と交配した璃の香レモネード500円は甘さっぱり。オレンジと交配したマイヤーの皮も種も用いたレモンミルク600円はヨーグルト風味。果樹園端のベンチで味わえば気分爽快だ。レモンタルト500円、松戸レモンケーキ380円もあり。
10:00~17:00、月・火・祝翌平日休(不定休あり)。
☎なし
自分好みの帽子を仕立てる『warmheart』
お直しの店で腕を磨いた後、店主の増永麻理さんが2007年に独立。店頭に無地の帽子パターンを並べ、「生地違いや、5mm寸法を変えるだけでも形が変わるんですよ」とセミオーダーをも受け付け。古着を活用したハンチングなど、「お客さんに幅を広げてもらってます」。帽子セミオーダーは8000円~、制作期間は1カ月~。欧州アンティークボタンも揃える。
10:00~16:00、水・祝休。
☎047-346-6663
【北小金】歴史ある風土にそよぐ新風
農家ならばこそのアイデアに注目!『黒門家』
代々農家だが「4代前の本土寺の貫主(かんじゅ)に勧められて」参道みやげ店を開業。自家栽培大根の漬物、松戸名物のアジサイネギなど、鮮度抜群の朝採れ野菜が人気だ。注目はご当地ビール。2代目店主の谷口誠一さん自慢の枝豆が採用され、後味は確かな枝豆の香り。GWのひまわり祭り、変わりおにぎり、6月から旬の枝豆モンブランなど、季節のお楽しみも満載だ。
10:00~17:00、無休。
☎047-341-7603
黄門様が通った由緒ある花寺「本土寺」
あじさい寺、紅葉の名所として名をはせる古寺で700年の歴史を誇る。境内には、徳川家康公の側室となった武田家家臣の娘・秋山夫人が眠り、甥の徳川光圀公が寄進。慶安4年(1651)建立の本堂、珍しき五重塔、赤い橋などが点在し、梅を皮切りに、桜、フジ、花菖蒲、アジサイと、四季を通じて花木が色香を添える。
5:00~17:00(有料参拝期間〈アジサイ・紅葉〉は9:00~16:00受付、参拝料500円)。
☎047-346-2121
育まれる4駅ならではの文化
松戸駅を過ぎると途端に車内はのんびりムード。次の駅、北松戸で降りると、駅西口は巨大な工場団地だった。「昔はね、競輪開催の日は線路を渡って大勢の人が東口に繰り出してにぎやかでした」と懐かしむのは『FUJIYA』2代目の斉藤さんだ。商店が少なくなったと嘆くが「楽しさで街を盛り上げたい」と、プチテーマパークさながらに店を彩る。
街道筋の『ネイルウッド』では家具の値段の破格さにのけぞるが、「SDGsの観点で」と店主の吉田さんは廃材でおもちゃを自作し、子供たちに配っている。どちらも「喜ばせたい」「楽しませたい」の一念。訪れた人が魅了されるのも納得だ。
馬橋では秘密基地にしたい店を見つけた。アンビエントな音に包まれる『千鈴舎』はおこもり感が心地よく、アートが壁をにぎわす『SunBeam Terrace』は、人も動物もウエルカムな店主夫妻のホスピタリティに胸を射抜かれる。どちらもまたすぐに訪れたくなる中毒性だ。界隈(かいわい)には他にも、庭先で営む自家焙煎のコーヒー屋台など、世代、地元の枠を超えた井戸端会議的スポットが点在し、つい話し込んでしまう不思議さだ。
武蔵野線・流鉄流山線とのターミナル駅でもある新松戸では新名物が誕生していた。もともとナシの産地だが、そこにレモンが名乗りを上げた。『鵜殿シトラスファーム』の鵜殿さんは「温暖化の影響」と笑いながらも、品種違いでレシピを変え、香味を満喫できるドリンクスタンド『M+』を始めて人気を呼んでいる。
街を見渡せば、近年ベトナムの人や店が増えていて「かわいらしいですよね」と『warmheart』店主の増永さん。「ここはほどよいバランス感のある街。出身も国境も関係なく、みんなこの街にゆっくりなじんでいくんです」と目を細めた。
北小金は一転、葵の御紋の使用を水戸徳川家より許された本土寺など、由緒ある古寺が点在し、歴史が香る。その中で、参道の『黒門家』店主の谷口さんは「鮮度のいい農産物を使って他にはない味を」とアイデアをひねって、新たな風を吹かせていた。
住宅地といえど、アップダウンのある丘陵地には森と見紛う巨樹も、異国文化も、歴史スポットも、ゆるやかになじみ、ミックスされている。そのおおらかな気風(きっぷ)がこの4駅ならではの文化を育んでいる。
取材・文=林さゆり 撮影=井上洋平
『散歩の達人』2025年3月号より