【自閉症息子の大学生活奮闘記】連絡を見落とし、授業や研究室で大失敗!対策と支援課への相談
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
どこに連絡が来ているか分からない問題
ASD(自閉スペクトラム症)のタケルが大学生になって1番困った問題は、「大事な連絡を見落としてしまう」ことでした。
メールやLINE、大学の電子掲示板など、現代の大学生活ではさまざまな連絡手段で連絡が入って来ます。時には先輩からの伝言という形で知らないアドレスから届いたりもするので、警戒心の強いタケルには、すべての連絡を受け取ることはなかなか難しかったです。
おかしいな?と思いつつも知らない授業を受ける
ある日、先生から「今日の授業は〇〇キャンパスであります」といったお知らせが電子掲示板に出ていたのですが、タケルはそれに気づかず、いつも通りのキャンパスに向かいました。
そして教室に入ると、そこには誰もいません。「おかしいな?」と思いながらもしばし待っていると、人がいっぱい入って来たので「今日は公開授業だったのかも?」と、思いながら普通に授業を受けて帰って来ました。
それが自分の受けるべき授業ではなかったことに、タケルが気がついたのは、翌週の授業の発表の時でした。
新人なのに掃除をサボる
また4年生になって研究室に所属するようになってから、先輩からのLINEを見落としてしまったこともありました。
「明日は何もない日だから」と夜通し自分の研究をまとめたりゲームをしたりして過ごし、朝になって寝たタケル。ですが、寝た直後ぐらいに「研究室の掃除をします。夕方授業が終わったら研究室に集合」と連絡が入っていたのです。
タケルはそのメッセージに気づかず、いつも通りのんびり夕方からの授業に出て、夜は家でご飯を食べていました。
すると、突然スマートフォンが鳴り、「まだ来られないの?」と先輩からのメッセージが……!その頃にはすでに掃除は終わりかけ。研究室では1番下っ端であるタケル、絶対に行かなければならない掃除だったのです。「最初からやらかしてしまった……!」と、見て分かるぐらいショックを受けていました。
即レスが苦手
大学に入ってしばらくは、タケルも連絡を見逃すのが怖くて、ずっと通知をつけっぱなしにしていたのです。しかし、そうすると緊急性の低いメーリングリストなどの通知音が鳴り続け、勉強や睡眠を妨げられてしまいます。聴覚にも過敏さのあるタケルは「うるさいんだが!」と切ってしまいました。
とはいえ、本当に連絡を受けないわけには行かないので、朝の9時頃と夜の9時頃にリマインダを入れてメールや掲示板を確認することに決めました。また、周りの人にも、この時に見て対応できないような緊急の連絡は電話でもらえるように(できる限り)お願いしました。
先生や先輩は自分が1番使いやすい連絡手段を常に使いたいですから、必ず常にこちらの都合に合わせてくれるというわけではないのですが、タケルが特性もあって、そういうことに対応することが大変苦手であると伝えたことで、連絡を返さなくても怒られるようなことはなくなり精神的に落ち着くことができました。
欠席してしまった授業は…支援課へ!
連絡を受け損ねて、授業を欠席してしまった場合は、支援課に連絡して救済措置をお願いしたこともあります。
タケルは毎年、年度の初めに大学の支援課を通じて学生支援センターに障害学生の申請をしています。そのため、支援課を通じて個別の事例での支援を受けられるようになっているのです。
さすがに受けていない授業を受けたことにはならないのですが、支援課のスタッフに間に入ってもらって交渉した結果、全部の科目ではないですが、欠席した授業の資料をもらってレポートを書くことが許され、単位を取ることができました。支援課に相談してみてよかったです。
連絡系統が1つだと助かる
そんなタケルも大学院生になり、以前より連絡ミスが確実に減っていきました。
しかし、実のところそれはタケルが成長したとか、工夫したからとかではありません。
院生になると指導教官が付いたので、すべての授業と研究に関する連絡がその指導教官を通してメールと電話のみで来ることになったからなのです!
連絡の絶対数が減ったわけではないのですが、見なければならないアプリが減ったので、タケルが連絡を見落とすことはほとんどなくなりました。
執筆/寺島ヒロ
(監修:新美先生より)
大学生の連絡管理について、具体的に教えていただきありがとうございます。
連絡事項、提出物の管理やスケジュール管理などが致命的に苦手な人がいます。保護者がサポートできるうちはなんとかなっていても、大学などで保護者のサポートが届かなくなり、非常に苦労するということはよくあります。特に大学の最初の1、2年生は、科目ごとに教官が異なるので指示される内容も多岐にわたり、授業場所も1コマごとに違い、提出物の管理なども分かりにくく、混乱してしまいやすいです。
記事にもあったように、連絡が来る手段のチェック方法をルーティン化する、アラームやリマインダーを活用するなどのやり方は、初めにしっかり身につけておきたいですね。多くの大学は、発達特性のある学生のサポートする部門があるので、こういったことがとても苦手な場合、しっかり相談してみましょう。本人ができる管理の仕方をいっしょに考えてくれたり、単位に関わる連絡を確認してくれたりなどといった、学生支援が受けられることも多いです。
また、学年が上がっていくと、授業も専門化して関わる教官が減ったり、また就職するときは職場によっては、伝達体型がシンプルな職場もあるので、意外となんとかなっていくということもあります。学生時代は必要なサポートを受けながら卒業まではどうにかこうにか頑張っていき、こうしたことで混乱しやすいと実感された場合は、職場選びの重要ポイントの一つとしてとらえて、自分に合った進路選択をしていくとよいと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。