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発達障害の特性のある子どもの“きょうだい児”4つのタイプとストレス〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説

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発達障害の特性のある子を兄弟姉妹に持つ子ども(きょうだい児)への支援について、言語聴覚士・社会福祉士の原哲也先生が解説。

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発達障害や発達特性のあるお子さんと保護者の方の関わりについて、言語聴覚士・社会福祉士であり、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表として、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってきた原哲也先生が解説します。

発達障害の特性のある子の「きょうだい児」への支援‐前編

発達障害の特性のある子の家族への支援は、多くの場合、母親を対象とした支援に重点が置かれており、父親や発達障害の特性のある子の兄弟姉妹、祖父母は、支援の対象として強く認識されることが少ないように思います。

その中で前2回は「父親」への支援についてお話をしましたが、今回から2回に分けて、発達障害の特性のある子を兄弟姉妹に持つ子ども(以下、「きょうだい児」)への支援についてお話しします。

発達障害の特性のある子のきょうだい児の状況

きょうだい児は、発達障害の特性のある子に対して否定的であったり、ストレスを抱えて生活しているといわれることがありますが、実際はどうなのでしょう。

私自身が臨床や相談現場で保護者から聞いたことやきょうだい児へのインタビューをした研究の中で語られた彼らの生の声を見てみましょう。

◆発達障害の特性のある兄弟姉妹と生活する中でのストレス

・僕は悪くないのに、僕が悪いって怒るんだよね
・こだわりが強くて、思ったとおりじゃないと騒ぐ、うるさいの
・いろいろ知って、それで、私の家族は普通じゃないんだって感じましたね。それに気づいたのが、小学校のころでした
・僕のものを壊したり、勝手に持っていったりする
・いじわるばかりするので嫌い
・花火の音が嫌いで、外から音が聞こえると「ぎゃー」と大きな声を出すから、私もびっくりしちゃう
・パニックやこだわりが強いとき、どうしてあげたらいいかわからない
・発達障害の特性のある子の兄弟姉妹として一緒にいて変な目で見られないかなって感じがする
・友だちに発達障害の特性のある子のことでからかわれた。「へん」「きも」などの心ない言葉を言われた
・発達障害の特性のある兄弟姉妹がいじめられるのを何も言えずに黙って見ていることしかできなかった

◆両親との関係

・(発達障害の特性のある兄弟姉妹が)イライラしていると、お父さんもお母さんもイライラしちゃって、家が嫌な雰囲気になることもたくさんある
・お母さんは発達障害の特性のある兄弟姉妹のことで忙しそう。いつも、癇癪(かんしゃく)を起こさないように気を使っているので、自分は甘えたりできないなと思う
・発達障害の特性のある兄弟姉妹が大変だから、自分は、“いい子”でいなくちゃいけないって思ったのは小学校のときかもしれない
・発達障害の特性のある兄弟姉妹に期待できないこと(勉学や将来等)に対し、その分、あんたはがんばれみたいなプレッシャーは感じる
・自分は弟なのに、お兄ちゃんの面倒見てねと親に言われる。大きくなっても面倒見るのかな

◆きょうだい児として暮らす中での良いこと

・母親が発達障害の特性のある兄弟姉妹と一生懸命かかわる様子を見て、すごいと思ったし、真似してかかわってみたりした
・発達障害の特性のある兄弟姉妹のきょうだい児としてずっと生活して、少しずつ発達障害の特性のある兄弟姉妹のいいところがわかるようになった

参考
「自閉性障害児・者のきょうだいに対する家庭での支援のあり方」2005
柳澤亜希子 家族心理学研究 第19巻第2号 P91~104
「葛藤経験のある発達障害児・者のきょうだいに関する探索的研究─周囲を意識するために生じる心理的変化のプロセスに注目してー」2020 井上あかり 白百合女子大学 発達臨床センター紀要 No.23 P109-122
「発達障害のある人のきょうだいに対する支援の実態と要望」2018 小林宏明・本間沙穂 金沢大学人間社会研究域学校教育系紀要

親が発達障害の特性のある兄弟姉妹の対応に必死になる中で、きょうだい児も孤独、混乱、イラ立ちや不安などの気持ちの浮き沈みを抱えながら生活しています。

そして、成長するにつれて、発達障害の特性のある兄弟姉妹の良いところや暮らしの中で自分自身が役に立っていることを実感することもあるようです。

研究によると、一般的に中学生の時期は自尊心が低下する傾向にありますが、きょうだい児は、自分が発達障害の特性のある兄弟姉妹をサポートすることで自尊感情を得られることから、学業以外の価値によって自分自身の自尊心を保つことができる、ともいわれています。

「障害児を同胞に持つきょうだいの適応に関する質問紙調査」 原幸一・西村辨作 1998 特殊教育学研究、36(1)、1-11

きょうだい児の4つのタイプ

私の印象では、相談や臨床現場に同席するきょうだい児は、素直で、前向きで、やさしい子が多いです。実際、国内外の報告でも、「年長のきょうだい児は、早熟化の傾向」があるといわれています。

発達障害の特性のある兄弟姉妹がいるという環境の中で、きょうだい児はさまざまな気質や行動の特徴を示すようになります。

ここではきょうだい児の代表的な4つのタイプをご紹介します。

1.『親代わりをする子』
発達障害の特性のある兄弟姉妹に対して親の役割を担い、兄弟姉妹の面倒を見る、援助する度合いが高いです。たとえ正当な怒りであっても自分の怒りを表に出さず、自己中心的な子ども時代を経ることなく人に尽くすという、子どもらしくない思考や行動を積み重ねて早熟化していきます。とても良い子に見えますが、とても辛い思いをしています。

2.『優等生になる子』
このタイプも基本はいい子です。不安や葛藤のはけ口を家庭に求めるのではなく、勉強とかスポーツなどの家庭外の活動に見出しています。

障害を持っている兄弟姉妹のできないことを自分が肩代わりしてあげなくてはいけない、といつも心のどこかで思っています。しかし、ずっと背伸びをして生きているので、とても危うい状態にあることが多いです。そして、親はそれに気がつかないことがあります。

3.『退却する子』
家族と気持ちの上で距離を置き、障害を持っている兄弟姉妹のことはできるだけ気にしないようにしています。家族内でのストレスを感じたくないので、できる限り家族との活動にはかかわりたくないという気持ちが強く、家族での外出等は嫌います。
親はきょうだい児がそうする理由がわかるので、それを黙認する傾向があります。

4.『行動化する子』
自分の怒りなどを行動で表す子どもです。兄弟姉妹のために自分がストレスを抱えたり、甘えられないでいることを親に気づかせるために、いわゆる「悪いこと」をして親の注意を自分に向けようとします。そして敵意や憤りの感情を行動で表します。親が「悪いこと」をする理由を理解できないと、ずっと「悪いこと」をし続けるか、行動がエスカレートしてしまうこともあります。

参考
「障害児のきょうだい達の心の健康~きょうだい達をどう健やかに育てるか~」西村辨作

最後に

きょうだい児の4つのタイプのうち、1、2はいい子のように見え、3、4は「親にとって」悩ましく困った子のように見えるかもしれません。しかし、どのタイプの子も、ストレスや不安を感じています。きょうだい児は、周囲の気づきや理解や配慮を必要とする子どもなのです。

私たち大人は、そのことを理解する必要があります。

特に1、2の子は自分中心であることが自然な子ども時代を、本当の自分を出せずに通り過ぎ、結果、本当の自分を生きることができないまま、大人になることもあります。

いい子に見える、そこには、いつかガタガタっと崩れ落ちる危うさがあることに十分に注意をしたいのです。

次回は、このような状況にあるきょうだい児への支援について考えていきます。

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今回は「発達障害の特性のある子どもを育てる家族への支援」の中から、発達障害の特性のある子をきょうだいに持つ子ども、「きょうだい児」の生の声とタイプについて原哲也先生に解説していただきました。

次回(第17回)では、「きょうだい児」の支援について、具体的に教えていただきます。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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