第12回学校図書館向け優良図書展示会(2024年8月1日開催) ~ 出版社・教育現場職員・行政が、子どもたちにとってより良い学校図書館環境を求め続けるブックマルシェ
学校図書館は、学校図書館法ですべての小・中・高等学校及び特別支援学校に設置義務のある施設のひとつです。学校図書館には、読書センターとしての機能のほかに学習センターや情報センターとしての機能が求められており、倉敷市内の小学校では学校図書館司書という専門職が学校図書館を運営しています。
夏休みは子どもたちが学校に登校しないので、学校図書館司書をはじめとする教育現場職員は研修や備品の整理など、日ごろの学校運営を円滑にするための準備期間です。
倉敷市では毎年夏に、全国一版元(出版社)が多く集まる展示会「学校図書館向け優良展示会」を開催しています。前職で学校図書館司書教諭をしていた私がイベントに参加してきたので、そのようすをレポートします。
第12回学校図書館向け優良図書展示会とは
第12回学校図書館向け優良図書展示会は、岡山県内の学校図書館司書及び教育現場職員と出版社の交流や学校や図書館に必要な図書を紹介する場を設け、読書推進と地域文化に貢献することを目的として開催されたイベントです。
主催者は、同じ倉敷市で長年学校をサポートしてきた書店が協力し、「子どもたちに良い本を届け続ける」という使命のもと、さまざまな企画をおこなったり連携をしたりしている倉敷市書店事業協同組合。
書店ならではのネットワークで2024年度も45の出版社が集結し、全国一版元の多い展示会として、倉敷市観光交流スクエア 水島愛あいサロン【東棟】コミュニティホールで開催されました。
会場のようす
午後1時頃に会場に到着すると、会場中にブースが出展されていて、多くの絵本や児童書が並んでいます。
どのブースも出版社の担当者が立っているので、気になるブースで出版社の担当者と学校図書館司書が直接やりとりができます。
担当者によると、今回は開場の10時前から開場前に行列ができていたのだとか。
参加対象者は学校図書館司書などの教育現場関係者のみですが、他県からの参加もあり、注目イベントであることが伺えます。
私もさっそく、各ブースをまわってみました。
学校図書館司書のスキルアップ・情報収集の場
倉敷市の図書館司書は、ひとつの学校につき一人。ほかの自治体では、数校の学校図書館司書を兼務している人も少なくありません。学校図書館に関わる教育現場職員が情報共有できる環境は、大変貴重です。
私が会場を訪れたタイミングでは、紙芝居で有名な出版社「童心社」が、紙芝居講習会をしていました。紙芝居は、紙芝居を入れる舞台とよばれる木枠の使い方ひとつでその魅力の伝わりかたが大きく変わります。
会場では、出版社のかたが自ら舞台の使いかたや紙芝居のめくりかたをレクチャーしていて、どの参加者もメモを取ったり実際に舞台を触ってみたりしていました。
出版社と図書館司書・教育現場職員が、直接やり取りできる場
ブースに掲示されている図書の多くが、小説などの読み物図書だったことにも驚きました。
私が働いていた学校では、夏休み中と冬休み前に新しい本を購入するために選書していました。ほかの学校も、夏休み中に選書する学校が多いと聞きます。
選書と言ってもどこかに出向いて本を購入するのではなく、学校に届いたカタログのなかから注文することがほとんど。参考にしていたのは、教科書に出てくるおすすめの本や参考図書です。
教科書は文部科学省の認定を受けた、その学年の子どもたちにとって必要な情報ばかり。教科学習に関連する図書は学習センターとして、図鑑のような調べ学習の手掛かりとなる図書は情報センターとして、学校図書館になくてはならない存在です。
また、教科書に掲載される図書の多くは、何年も読み継がれている定番本や図鑑のような家庭で購入するには高額な本も多くあるため、学校図書館として購入に踏み切りやすい印象があります。
一方で、今の子どもたちに刺さる読み物としての図書の選定には、毎年頭を抱えていました。
しかし、今回の展示会では比較的近年に出版された読み物図書が多く展示されていました。
実際に書籍を手に取っていると、出版社のかたが「この本は、子どもたちにより委員会活動を楽しんでもらいたいと思って出版したんです。お仕事紹介だけれどもストーリー性があるので、おすすめですよ」などと、具体的に説明してくれます。
自分の学校にある委員会を伝えると、活動で使える調べもの用の図書も次々と提示してくれるので、その図書を使う子どもたちの姿をイメージしながら図書を選べます。
学校図書館で購入する本のなかには、一般の書店ではあまり目にしない類の本もあるので、新刊図書の情報を出版社から直接教えてもらえるのはありがたいと思いました。
今回のような形式の展示会には、出版社側にもメリットがあるようです。出版社は本を作って取次(本の問屋)に販売するところまでがお仕事。そのため、学校現場でその図書がどのように使われているのか、子どもたちがどのような本を好むのかを実際に見る機会はほとんどありません。
しかし、今回のように司書教諭や教育現場職員が直接ブースを訪れることで「うちの学校ではこの図書が人気ですよ」「この図書でこんな学習ができました」のような現場の生の声を知れるきっかけになっているとのこと。
このように学校現場と出版社が直接やりとりできるイベントは全国的にも大変珍しく、このイベントのために首都圏から担当者が来ている出版社も多くあるそうですよ。
行政と参加者がつながる場
会場には、伊東香織倉敷市長も訪問。
参加者への挨拶では、平成30年7月豪雨の際に学校図書館が全損した倉敷市立箭田小学校をはじめ、市内真備地区の倉敷市立全学校へこのイベントの参加出版社から善意で図書の寄付(総額650万円分)があったことへの感謝が述べられました。
また、小学校図書室に新1年生専用の図書コーナー「1年生わくわく文庫」の紹介もありました。
伊東市長は非常に熱心な読書家で、この「1年生わくわく文庫」についても大変知見が高いのだとか。
挨拶後は一つひとつのブースをじっくりとまわりながら、積極的に出版社と交流していましたよ。
おわりに
このような展示会が長く続いていたり倉敷市独自の読書事業が展開されていたりする背景には、行政が子どもの読書教育に積極的なことも影響しているのでしょう。
2024年度も107校132名の参加者が集い、大盛況に終わったブックマルシェ。
学校図書館は、どの学校にも必ず設置せねばならない、学校教育にとって重要な要素のひとつです。これからも、学校図書館の質の向上や子どもたちの豊かな読書活動のために続いていってほしいイベントです。