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熱中症の救急搬送、4割は室内で発生・ヒートショック死は交通事故の4倍!? 命を守る「温度差のない家」の重要性|建築家・松尾和也

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熱中症の救急搬送、4割は室内で発生・ヒートショック死は交通事故の4倍!? 命を守る「温度差のない家」の重要性|建築家・松尾和也

省エネ住宅義務化の背景と松尾さんの原点

島原万丈(以下、島原):2025年4月からすべての新築住宅で省エネルギー基準への適合が義務化されます。もともとは2020年から予定されていたものの、一転棚上げされた経緯を考えると、ようやくという印象ですが、松尾さんはそのはるか以前から高気密高断熱住宅に取り組んでいらっしゃいました。

松尾和也(以下松尾):目覚めたのは34年前、16歳の時です。ボロボロの県営住宅から父親が設計した大手住宅メーカーの新築住宅に引っ越し、周りからは「よくなったな」と羨ましがられたのですが、これがめちゃめちゃ暑くて、寒い。

これはどういうことだと思っていた時に新聞に出ていたOMソーラー(屋根で太陽熱を集め、暖かい空気は上昇するという熱の特性を活かして家全体を暖める仕組み)の一面広告で住戸内の温度を一定にし、健康的に暮らすというやり方があることを知って感動、こんなんやりたいと思ったことを覚えています。

そこで大学は九州大学工学部建築学科の環境工学の研究室に入り、2003年に父の後を継いだ時にはその瞬間から高気密高断熱の住宅を作ろうと決意。まだ大手住宅メーカーもWebサイトを作っていない時代にhtmlを勉強してWebサイトを制作しました。2~3カ月後にお客さんからの問い合わせが入り、その1棟目の住宅が2005年にSB05Tokyo記念サステナブル建築・住宅賞(現SDGs住宅賞)の住宅部門で財団法人建築環境・省エネルギー機構理事長賞を受賞。それが新聞、雑誌などに掲載されて評判になり、以降、その路線を貫いてきました。

国交省と消費者の意識変化:住宅性能向上への追い風

島原万丈
愛媛県宇和島市出身。1989年株式会社リクルート入社、株式会社リクルートリサーチ出向配属。以降、クライアント企業のマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略のプランニングに携わる。2004年結婚情報誌「ゼクシィ」シリーズのマーケティング担当を経て、2005年よりリクルート住宅総研。2013年3月リクルートを退社、同年7月株式会社ネクスト(現株式会社LIFULL)HOME'S総研所長に就任。ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事している。

島原:20年以上断熱性能にこだわり続けてきた松尾さんから見て、住宅業界、消費者の空気が変わってきた印象はありますか?

松尾:まず、この1年で国土交通省が大きく変わったと感じています。GX(グリーントランスフォーメーション)志向型住宅の一次エネルギー消費量削減目標として省エネ削減率35%を打ちだすなど非常に前向きに取組みはじめており、本気度が感じられます。

そのため、性能向上のための工事に対する補助金も手厚く用意されています。先進的窓リノベ事業では工事費用の約半分が助成されますから、中古住宅を購入した人なら使わない手はありません。

もうひとつ、一般消費者の変化も感じます。私は毎日昼休みに、昼ご飯の前後でプールに泳ぎに行っているのですが、平日の昼に泳ぎに来ている人は大体が高齢者。そうした普通の60代、70代の人達が「ヒートショック※に気をつけんとあかんねんぞ」という話をされています。日常会話にヒートショックという言葉が出てくるなんて10年前には考えられませんでした。

それに伴い、価格を売りにするハウスメーカーでも住宅の性能を謳うようになりました。世界全体で見るとアメリカのトランプ大統領の影響で環境政策への取組みが一時中断しているように見えますが、任期はあと3年。環境重視の流れは今後も続くでしょう。

※ヒートショックとは:家の中の急激な温度差によって血圧が大きく変動し、失神したり、心筋梗塞や脳梗塞などの深刻な病気を引き起こしたりする、身体への悪影響のことです。特に高齢者は注意が必要。

最適な住宅性能は?HEAT20 G2が実現する快適な暮らしと経済性

島原:そんな中、これから住宅を選ぶとしたら何を選べばよいのでしょう。

一般的には国交省が定めた「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づいた7段階の等級※3が知られており、等級5だったら良しという声も聞きます。一方、松尾さんは国交省の基準より高い断熱性能の、一般社団法人20年を見据えた日本の高断熱住宅研究会(HEAT20)が設けた3段階の基準のうち、中間のG2を推奨されています。

※3参照:国土交通省 建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度

一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会 各地域区分の代表都市における外皮性能水準G1・G2・G3を満たすUA値

松尾:性能と建築費、その後住み続けている間にかかる光熱費などのトータルバランスで考えるとG2が最もコストパフォーマンスが良いからです。

光熱費についてはマンションから一戸建てに引っ越したら非常に光熱費が嵩むようになって驚いたという声をよく聞きます。それは一戸建ての場合、平均的な広さがマンションの1.5倍くらいあること、一戸建てのほうが外気にさらされている部分が多いためです。

その分、断熱性能に意味があります。G1でも、極論を言えば既存住宅でも暖房を入れれば室温はコントロールできますが、冬場に21度に設定、床暖房などをフル活用しても足元は17度くらい。なんとなくすうすうします。しかも一般家庭には辛いくらい電気代が嵩む。

それをG2にすれば足元まで21度、あるいは22度で気持ちよく過ごせ、電気代もそれほどかかりません。一方、G3はCO2削減には貢献しますが、今後、これまで以上にハイペースで電気代が上がり続けた場合、あるいは50年以上住み続けた場合にしかペイしません。

島原:土地、建築費に加え、電気代も2022年年末くらいから急上昇しています。イニシャルコストを抑えるためにも住宅の高性能化は大事ですね。

松尾:ただ、だからといって性能基準の数値要件を満たすことを優先、窓の小さな暗い家を作るのは違います。このところ、よくそうした家を見かけますが、私たちの仕事は健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現すること。性能と快適な暮らし、コストを高いレベルでバランスさせることがプロの仕事のはずです。

失敗しない家選びの秘訣:体感と健康指標、そして信頼できる事業者

島原:そうした住宅を選ぶためにはどうすれば良いでしょう?

松尾:快適さではなく、健康という視点で考えることが大事です。快適さには個人差があり、同じ気温でも寒い人、寒くない人がいますが、健康という視点は世界共通。WHOでは18度以上を家の中の最低推奨温度※としていますし、国その他で変わるとしても18~21度くらいが目安。誰にも分かりやすい指標です。

※WHO Housing and Health Guidelines. Chapter4.1. Guideline recommendations

島原:家を買いたいという人たちの調査をすると、新築を買いたい人がまだ多いものの、中古の戸建てを買ってリノベーションしたいというニーズが高まっている※ことを感じます。

※LIFULL HOME'S総研『STOCK & RENOVATION 2024』-住宅購入とリノベーションに関する調査2024-

松尾:実際、現場でもこの2~3年、中古を買って手を入れたいという相談は急増しています。そもそも、日本の中古一戸建ては掘り出しもの。アメリカに2軒不動産を所有していますが、あちらでは立地とサイズ、状態などが同じであれば築年が違っていても価格はほぼ同じです。

ところが日本では立地その他が同じでも上に立つ住宅においては中古となるととたんに安くなり、時にはただみたいな価格になっていることも。耐震性などの高い2000年代の建物ならお買い得でしょう。

ただ、中古一戸建ては非常に個別性が高く、工法、基礎も違えば、どんな人が住んでいたかで傷み方も異なるので、きちんと見る目が必要。手を入れるにしても物件に合わせた判断が必要になり、新築よりも改修ができる人が減り、難易度が上がります。

島原:中古住宅を購入するとしたら注意すべき点はどこでしょう。

松尾:キッチン、風呂その他手を入れたいところはいろいろあるでしょうが、大事なのは断熱性能、耐震性能ともにきちんと手を入れること。弱い住宅に住んでる人がそれを強くすることは社会的責任でもあるし、自分もしくは自分の家族を守ることでもあります。でも、今、そうした報道、教育はほとんどなく、広く認知されていません。今でも職人不足ですが、これから事態はもっと悪くなります。被災後に、地震保険でお金はあるからなんとかしてくれといっても、修理をする「人」がいなければなんともなりません。

何かあったときの備えである地震保険は金融の保険ですが、それ以上に役立つのは耐震補強と備蓄。これがリアルな保険です。同様に家族が健康で長生きするためには断熱改修が必須です。

島原:予算が限られている人はどこから断熱リノベーションをすると良いでしょう。優先順位を教えてください。

松尾:結論から言えば、命と健康、そして経済性をトータルで考えた場合、何を差し置いても優先すべきは『窓の高断熱化』と『天井(屋根)断熱補強』、そして『床断熱補強』です。この3つが、室内の温熱環境を根本から改善し、ヒートショックや熱中症のリスクを大きく下げる「リアルな保険」になるからです。

「健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現する」という観点から、それぞれの項目についてお話しします。

1. 窓の高断熱化
窓は家の中で最も熱の出入りが大きい「穴」のようなもの。夏は外の熱気がガンガン入ってきますし、冬はせっかく暖めた熱がどんどん逃げていきます。

効果: 冷暖房効率が劇的に向上し、光熱費の削減効果も非常に高いです。何より、窓際がひんやりしたり、じりじりと暑くなったりする不快感が解消され、家の中全体で温度ムラが少なくなります。特に先進的窓リノベ事業のような補助金も手厚く、費用対効果は抜群です。中古住宅を買った人なら使わない手はありません。

2. 天井あるいは屋根断熱補強
窓の次に、天井や屋根の断熱は非常に重要です。特に夏の暑さ対策には絶大な効果を発揮します。

効果: 熱気は上へ上へと昇るので、屋根からの日射熱や最上階の天井からの熱侵入を防ぐことで、夏の室温上昇を大きく抑えられます。冬も暖気が上に逃げるのを防ぐため、冷暖房効率が向上します。体感温度も大きく変わります。

注意点: 吹き抜けがある場合は、その部分の暖房方式は床暖房、床下エアコン暖房等にしておかないと足元が暖まりにくいです。

3. 床断熱補強
冬場の足元の冷えは、非常に不快なだけでなく、健康にも直結します。

効果:床下からの冷気の侵入を防ぎ、足元の温度を安定させます。これにより、冬場のヒートショックのリスクを低減し、快適性が格段に向上します。床暖房を導入しなくても、足元から暖かさを感じられるようになります。

注意点: 床下の湿気対策や、シロアリ対策も同時に検討することが肝要です。

進化する住宅業界と家づくりの未来、そしてプロを見極める視点

島原:これからの住宅業界はどうなっていくでしょう。AIの活用などは進むのでしょうか。

松尾:少し前に僕の頭の中に入っていることをAIに生成させられないかということで8時間ほどAIの専門家に話を聞いてもらったのですが、松尾さんのやっていることは6面のルービックキューブみたいなもので、現時点のAIには無理と言われました。住宅設計はまだ人間にしかできない仕事なのかもしれません。

その点で将来のためにやるべきことは後進を育てること。僕はこの仕事はくみ取り屋だと言っているのですが、それはお客様が口にしたことを漏れなくやるのは最低限で、口に出していないことをくみ取って実現するというのが上手な設計士の役割という意味。ところが、そこまでできる人が少ない。良いものを作りたいという若い人たちを育てられれば。今のところ、35歳以上は育てられているのですが……。

住宅業界全体でいえば子育て世帯向けという暗黙の了解が通じなくなっており、単身世帯、2人世帯、高齢者と多様な住み手がいます。国も今、その点を真剣に考えているようですし、今後、シフトしていくことになるのだろうと考えています。

もうひとつ、住宅事業者が考えなくてはいけない点としてはデザイン、性能、経営という3つがあると思っているのですが、この3点には相反するところもあり、バランスよく共存するのは難しいもの。それをどう共存させていくか。企画化なども含めて考えています。

島原:最後にこれから家づくりを考える読者の方にアドバイスをお願いします。家づくりはお金がかかりますから、失敗しないためにやったほうが良い、そんな点を教えてください。

松尾:YouTubeでも繰り返し言っていますが、どこの事業者を選ぶかが9割。そこを間違えなければ家づくりはもうほとんど成功したようなもの。そのためには必死で調べて勉強して。そして、この事業者と決めたら、その先はモードを変えて全幅の信頼を置く。そこを間違えてはいけません。

というのは気を抜いたらこの事業者は手を抜くんじゃないかといった疑いモードで対するタイプの人がけっこう多いのですが、それは逆効果。設計担当者も、監督も関わる人はみんな人間。相手に信用されていない、疑われていると思うと最低限のやりとりしかしたくなくなります。そして意思疎通が疎かになってトラブルに繋がりやすくなります。

それよりも顔を合わせた時には挨拶をするなどで現場で働く人達や関係者が気持ちよく働けるようにしてあげるのがお客さんの仕事。人間同士、この人のためにと思ってもらうことが良い結果に繋がることもあるはずです。そうすれば標準業務以上に頑張ってくれたり、こうしたらもっとよくなるだろうと気を配ってくれる。人間ですから。

もうひとつ、日本にはタダほど高いモノはないという格言がありますが、それを意識してください。

島原:そこをもう少し具体的に教えてください。

松尾:営業マンと話をする時にはひとつ、決めていることがありまして、それは「その根拠はなんですか?」と聞くこと。「上司に言われたから」「そんなもんですよ」といった適当な言葉で濁す人、会社はやはりまずいと思います。

もうひとつ、その人が本当にプロ、専門家かどうかを意識するのも大事。YouTubeなどによく「住宅業界30年のプロが語る」などといったタイトルがあり、見るとその人が構造について語るという。でも、その人の経歴を確認して、住宅営業を30年していたとしたらそれは住宅営業のプロであり、構造についてのプロではありません。

専門家というのであればその分野でちゃんと一目置かれているかどうか。今、隣の分野のことを大きな声で言う人がいますが、それは専門家ではない。眼科医は内科のプロではないし、その逆も同様。そう考えると、誰の話を聞くべきかが分かってきます。

島原:最後にひとつ、私から付け加えるとしたら家づくりで失敗しないためには松尾さんのYouTubeを見てくださいということでしょうか。兵庫県の会社さんなので、仕事の依頼は難しいとしても事業者の選び方、考え方はよく分かるようになると思います。分かりやすい話をありがとうございました。

執筆 中川寛子

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