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世界遺産・高野山に駆け上っていた南海「ズームカー」が観光列車「次郎右衛門」に生まれ変わって銚電に降臨(千葉県銚子市)【コラム】

鉄道チャンネル

南海の新旧塗装が千葉によみがえります(右側が今回デビューの「次郎右衛門」)。本サイトでも紹介の通り、南海22000系(2200系)の一般車両は2025年春に引退。それだけに銚電の2編成は貴重です(筆者撮影)

2024年春、南海からの譲受車22000系(2200系)の営業運転開始をきっかけに、いい意味で何かとファンをザワつかせる千葉県の銚子電気鉄道(銚電)。今度は新しい観光列車の登場です。車両は前車と同じ南海生まれながら、車内には展望席やボックスシート、物販・バーカウンターもあって楽しさにあふれます。

列車名は、いささか古風に「次郎右衛門(じろうえもん)」。江戸時代初期の1600年代、紀州(和歌山)から銚電終点の外川に流れ着いて漁港を築き、銚子発展の基礎をつくった漁師・崎山次郎右衛門に由来します。

次郎右衛門デビューは2025年4月1日。1ヵ月前の3月1日には、車両基地のある仲ノ町駅で地元関係者らへのお披露目を兼ねた出発式が開かれました。竹本勝紀社長は、「新しい電車は、当社のフラッグシップ(旗艦)トレイン。多くの方にワクワク感をお届けできるはず」と自信をのぞかせました。

「次郎右衛門」の出発を力強く宣言する竹本銚電社長、越川信一銚子市長、梶谷知志南海電気鉄道取締役・常務執行役員鉄道事業本部長、ユーチューバー・リンリンさん=写真右から=(筆者撮影)

クラファンに1200万円!

銚電は発信上手。前回の南海車譲受時、ファンは「どんな車両が入るのか」と、さまざまに想像を膨らませました。そこに飛び込んできたのが、「南海からの第2編成は観光列車」の想定外情報でした。

銚電は本サイトでも告知の通り、2024年12月~2025年1月にクラウドファンディングで資金集め。寄せられた1201万569円を改造費に充てました。銚電とともに、筆者からも応援いただいた皆さまにお礼申し上げます。

銚電の観光列車は、1980年代に貨車改造で活躍した「澪つくし号」以来とか。しかし、用途は観光だけにあらず。通常は一般車両、ツアー客乗車時や貸切運行時は観光列車に早変わりする、文字通りの「二刀流」です。

4編成に増備、ダイヤ増発も

前回、1編成目の導入目的は老朽車両の置き換え。その点、今回はもう少し積極的な意味合いがあります。

「銚電には電車が3編成ありますが、余裕ある車両運用には4編成必要。インバウンドで観光のお客さまが増えており、新しい編成は観光列車兼用にしました」。竹本社長は話します。銚電は2013年以降減便ダイヤが続いてきましたが、「10数年ぶりに増便」のニュースが近々発信されるかもしれません。

銚電の現役車両は元南海の22000形(2024年デビュー)のほか、元京王の3000形(四国の伊予鉄道を経て2016年デビュー)と2000形(同じく伊予鉄道経由で2015年デビュー)。次郎右衛門の加入で、南海、京王が各2編成ずつになります。

長く「鉄道会社なのに自転車操業」(竹本社長)と自虐フレーズがジョークにならなかった銚電ですが、ようやく上昇気流に乗りつつあるようです。

「天空」にインスピレーション

次郎右衛門をめぐる余話で、竹本社長に観光列車をヒラめかせたのが南海の観光電車「天空」。銚電への譲渡車両と同形(南海にとっては自社車両ですが)で、2009年から南海高野線の山岳線区間橋本~極楽橋間に運行される観光列車です。

竹本社長は、和歌山の現地を訪れて「天空」に乗車。「こんな列車を銚子にも走らせたい」のインスピレーションを受けました。

1度の銚子紀行で2度のシャッターチャンス!?

ここで、あらためて元車・南海22000系を深掘り。デビューは1969年で、高野線山岳直通用車両です。南海の山岳線用車両は通称「ズームカー」。

大阪の難波から、和歌山県の世界遺産・高野山(最寄り駅は極楽橋)に一直線。南海本線や高野線の平地区間は全長20メートル車片側4ドアですが、22000形は18メートル、2ドアのコンパクトサイズ。4ドアの大型車に比べ銚電に似合います。

外装は、初期はオリエンタルグリーンの基調色にエメラルドグリーンの帯、その後は白地に青とオレンジ帯の現行色に塗り替えられました(出発式で南海の方に聞いたところ、カラーの呼び名は特にないそうです)。

銚電の1編成目はオリジナルカラー、2編成目の次郎右衛門は現行カラーで、〝1粒で2度おいしい〟。車両運用にもよりますが、1回の銚子紀行で2度のシャッターチャンス……を期待できるかもしれません。

車内は、ドア間は一般的なロングシートですが、外川方先頭車はクロスシートを前方に向けた展望席、連結部分はボックスシートと物販・バーカウンター。遊び心満点に列車の旅を楽しく演出します。

車内はご覧の通りロングシートで広々した印象を与えます。写真の銚子方車両はシートの背ずり部分にヒマワリがプリントされます。ネコを模した右端のつり革にもご注目!(筆者撮影)
これぞ観光列車。連結部分のボックスシートにはテーブルも(筆者撮影)
運転席はオーソドックスな2ハンドル式。京王重機整備によると大きな改造は加えていないそうです(筆者撮影)

車両改造を担当したのは、前車に続き京王グルーブの京王重機整備。銚電と京王重機は連携協定を結んでいます。

サカナとヒマワリ

次郎右衛門には、さまざま仕掛けが凝らされます。詳細はぜひ乗車して体験いただきたいと思いますが、〝ネタバレ〟にならない範囲でのエッセンス。

車内デザインコンセプトは外川方車両がサカナ、銚子方がヒマワリ。行きと帰りで違った雰囲気が味わえます。
ヒマワリの中心部には銚電名物のぬれ煎餅が描かれる花があるそうなので、ぜひ探してみてください。

台湾ユーチューバーが情報発信

出発式の特別ゲストが台湾のユーチューバー・リンリンさん(ハンドルネーム)。銚電が目指すインバウンド客誘致で、台湾向けインフルエンサーとして情報発信します。

台湾での日本の駅弁イベントに銚電が出展、ぬれ煎餅などを販売したのが縁で交流が生まれました。リンリンさんは、日本に留学して近畿大学で舞台芸術を学習。銚子の魅力を、「誰もが気軽に話しかけてくれる」と話しました。

竹本社長(右)からアンバサダーの委嘱状を受けるリンリンさん(左)(筆者撮影)

次郎右衛門の出発式コラムはここまで。江戸時代の崎山次郎右衛門、銚子にイワシ漁を伝え、地域に繁栄をもたらしました。400年余を経た〝銚電の後輩〟が再び、地域のレジェンドになることに期待したいと思います。

終点の外川駅には早咲きの河津桜が満開。「電車とサクラで一句」……。俳句バラエティ番組の兼題写真になりそうなワンシーンです(筆者撮影)

記事:上里夏生

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