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JR東海の「水素動力車両」開発はどこまで進んでいるのか 小牧研究施設で行われた水素エンジン性能評価試験の様子をお届け!

鉄道チャンネル

JR東海の「HC85系」。本形式のハイブリッドシステムをベースに水素動力車両の開発が進められている

JR東海は2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの一環として、水素動力車両の開発を進めている。もし非電化区間を走行するディーゼルカーを水素動力車両で置き換えられるなら、走行時のCO2排出量はほぼゼロに抑えられる。

同社が開発しているのは燃料電池車と水素エンジン車の2種類で、燃料電池は低~中負荷域での効率の高さが特徴だ。水素エンジンは耐久性と出力密度、高負荷域での効率に優れる。触媒反応ではなく燃焼反応を利用する関係から、燃料電池より低い水素純度でも運転できるメリットがある。

燃料電池車に関してはすでにJR東日本がFV-E991系「HYBARI」という試験車両を開発しているが、水素エンジン車は実現すれば鉄道業界初となる。

JR東海の場合、特急「ひだ」や「南紀」で活躍する「HC85系」のディーゼルエンジンハイブリッドシステムをベースに燃料電池車と水素エンジン車の開発を進めている。現時点では燃料電池ハイブリッドシステムが先行し、2023年度から模擬走行試験が始まっている。一方の水素エンジンについては、2024年11月に「水素エンジンハイブリッドシステムの試作機が完成した」と発表があったばかり。

HC85系をベースとした水素動力車両のハイブリッドシステム(資料:JR東海)
HC85系のディーゼルエンジン

その性能評価試験が今月12日、愛知県小牧市の研究施設で報道公開された。試験装置はi Labo株式会社が開発した水素エンジンに車両制御装置などを組み合わせたもので、下に構成図を示す。

水素エンジンハイブリッドシステムの試験装置構成(資料:JR東海)

高圧水素タンクに貯蔵された水素は、いったん減圧装置を通してから、水素エンジン発電ユニットに送り込まれる。こうして供給された水素と空気中の酸素を取り込んで燃焼し、水素エンジンが回転力を生み出す。その回転力を発電機が電気に変換し、モーターを模擬した抵抗負荷で熱として消費する。水素エンジン発電ユニットへの発電指令や車両制御装置内部の蓄電池への充放電指令は負荷設定スイッチから行う。

カードルと呼ばれる水素タンクユニット(左)。気体の状態で貯蔵された水素は銀色のチューブを通り減圧装置(右)に供給される
およそ1.5両分の抵抗負荷。廃車部品を活用している
水素エンジン発電ユニット
負荷設定スイッチ

性能評価試験の位置付けは、「水素エンジンの出力や蓄電池の充放電を任意に制御し、水素エンジンハイブリッドシステムの基本検証を行う」こと。検証項目は「水素エンジン最大出力検証」「ハイブリッド動作検証」「蓄電池出力検証」の3点。実験中の動きは全て動作モニタに表示され、可視化される。

実際の試験の様子を説明した方が分かりやすいだろう。まずは負荷設定スイッチから起動指令を入れ、水素エンジンのみ動かす。その後ノッチを上げていき、抵抗負荷が50キロワット消費、水素エンジンの出力も50キロワットに達するという状態に持っていった(水素エンジン最大出力検証)。

続いて、抵抗負荷への出力をさらに大きくする。ノッチを上げると、水素エンジンの出力は50キロワットのままだが、蓄電池(バッテリ)からも10キロワット放電され、抵抗負荷へ60キロワット供給された。水素エンジンと蓄電池のハイブリッドで動作している状態だ(ハイブリッド動作検証)。

その後、抵抗負荷の消費電力を下げ、アイドリングストップ機能を用いて水素エンジンを一時停止する。エンジン音が消え、蓄電池のみで消費電力を抵抗負荷へ供給する状態になった(蓄電池出力検証)。

出力結果をディスプレイで表示

現在の水素エンジンの最大出力は50キロワットで、目標とする性能(JR東海の一般形気動車相当)には遠い。同社の気動車なら330キロワット程度の出力が求められるという。足りない出力を蓄電池から補うとしても、まだまだ出力向上のための開発を進めていく必要がある。

CO2の削減に資する技術開発

JR東海は政府による2050年カーボンニュートラルを前提に、2030年度にCO2排出量46%削減(2013年度比)、2050年にCO2排出量実質ゼロを目指す。同社のCO2排出量は、2023年度時点で129万トン。このうち直接排出にあたるものが7万トン(約5%)で、間接排出が122万トン(約95%)だ。

直接排出は軽油などを燃やしたときに生じるもので、ディーゼルカーの運行で生じるCO2などがこれにあたる。先日公開された「ペロブスカイト太陽電池付きの防音壁」は間接排出を、水素エンジンは直接排出を抑えるための取り組みである。

CO2削減の手段は他にもある。たとえば次世代バイオディーゼル燃料を使うというのも手だろう。JR東海は2022年にバイオマス由来の原料から製造されたユーグレナ社の燃料を使って「HC85系」を走行させる試験を行っている。もちろんこの方法にもコスト面など様々な課題があり、実用化できるかどうかは分からない。水素エンジンもそうしたアイデアの一つで、水素の供給方法などエンジン開発以外の課題も多い。

【参考】新型特急「HC85系」が次世代バイオディーゼル燃料で動いた JR東海が実用性検証試験公開 ユーグレナ社の燃料に着目した理由は(※2022年2月10日掲載)
https://tetsudo-ch.com/12168558.html

実現は遠い。しかし、足踏みをしているわけではない。水素エンジンハイブリッドシステムは、現時点で性能評価試験を行う段階に到達している。来年度以降には模擬走行試験に入る。実現すれば鉄道では世界初となる試みだけに、今後の更なる技術開発に期待がかかる。

記事:一橋正浩

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