発売67年 ”変えない”戦略で超ロングセラーの「炒飯の素」──あみ印食品工業・神山栄里子さんの【あの人のチャーハン】
昭和33(1958)年に発売されるや、「憧れのチャーハンを家庭で手軽に食べられる」とあってあみ印食品工業の「炒飯の素」は品切れ続出の大ヒットとなりました。約70年を経た現在も販売され、3世代にわたるヘビーユーザーも。「超ロングセラーの理由」を事業戦略室の神山栄里子さんに聞きました。
NHK出版公式note「本がひらく」連載「あの人のチャーハン」よりご紹介。(※本記事用に一部を編集しています)
「炒飯の素御殿」が建つヒット
─あみ印の「炒飯の素」は1958 (昭和33)年に発売され、今年で67年。超ロングセラー商品ですよね。どのようにして生まれたのですか?
家庭向けのチャーハンの素は、あみ印が最初といわれています。昭和33年は日本が高度経済成長に入り始めた時期で、インスタントラーメンもこの年に生まれました。
この頃、チャーハンはまだ中華料理店でしか食べられないごちそうで。それを家庭で手軽に食べられるようにできないかと創業者の池田春雄は考えました。
前身の会社で粉末ジュースを製造販売していたので、その粉末配合技術を応用して昭和32年に「中華たれの素」を発売しました。ところが、最初は鳴かず飛ばずで……。
──で、どうしたんですか?
「商品名をもっとわかりやすくした方がいい」との新聞社の方のアドバイスを受け、翌年「炒飯の素」に改名しました。すると途端に飛ぶように売れたんです。
発売1か月前から「ゴオォ~ン。あっ、あみ印の鐘だ、鐘は上野か浅草か、あみ印炒飯の素」というラジオCMを流したところ店に問い合わせが相次ぎ、でもまだ店頭に商品はない状況で。「すぐ納品してほしい」と問屋からお叱りを受けたそうです。
実際に販売を開始すると連日品切れになるほどのヒットで、親しい問屋様からは、「あみさんの‘炒飯の素’のおかげで、炒飯御殿が建ったよ」と言っていただいたことも。
宣伝にも力を入れ、ラジオドラマ「鉄人28号」を一社提供したり、セスナ機を使い、上空からチラシをまいたりなどもしたそうです。
─「炒飯の素」の何が当時そんなに受けたのでしょう?
炊いて残った「冷やご飯」を温かくおいしく食べられることが、大きかったと思います。今のように電子レンジのない時代でしたから。
しかも憧れのチャーハンを家庭で手軽に食べられる。子どもでも簡単に作れ、いつ、だれが作っても「味がぶれずに決まる」。こうした点もヒットにつながったと思います。
「ブレンド力」が肝
──「炒飯の素」のパッケージ裏に書かれている作り方で、卵チャーハンを作って食べてみました。普段、家で適当に作るチャーハンと違って、「わ、チャーハン!」と思わせる輪郭のはっきりした味に仕上がりました。
そう思わせる決め手は何でしょう。主成分は?
「炒飯の素」は塩味ベースで、オニオンとガーリックのパウダーの香りがたち、多彩なスパイスがエッジを効かせています。さらにカツオエキスのうま味がなじみやすい味にまとめています。
──では、あみ印の工場で野菜などを乾燥させ、粉状にしたものを混ぜてパッケージにしているわけですか?
いいえ。粉末の原料は専業のメーカーがありますので、そちらから仕入れています。弊社の勝負どころは、そうした原料の目利きと、複数原料のブレンド力にあります。
開発メンバーに鍛錬された技術者たちがいて、例えば店で食べたラーメンスープを完コピできるような人もいます。
そうした味覚に裏打ちされた「ブレンド力」が我が社の「肝」になります。
──時代によって「炒飯の素」の味は少しずつ変えたりしているんですか?
67年間全く変えていないんですよ。発売以来、同じ原材料で配合を変えずに製造してきました。
──それはすごいですね。ある意味、70年前に「ど真ん中の味」を捉えたということですよね。
時代に左右されず「変えない」という選択
──一方、70年の間には競合商品が登場するなど、販売環境の変化はさまざまあったのではないかと思うのですが。
それはもちろんありました。大手メーカーが具入りのチャーハンの素で参入してヒットを飛ばしたり、冷凍チャーハンが存在感を増したり。昭和30年代に「炒飯の素」を先駆けとして発売してしばらくは弊社の独壇場でしたが、当然そうもいかなくなりました。
──そうした局面はどう切り抜けたのですか?
社内では「炒飯の素」も具入りにした方がいいのではないかとか、時代に合わせてリニューアルした方がいいのではないかなど、さまざまな議論があったようです。
しかし「お客様の求める味を勝手に変えてはならん」というのが創業者の強いポリシーで。その考えのもと、先ほどもお話ししたように発売時の味や配合を変えることなく今日まで歩んできました。
販売シェアが縮小しても買い続けてくださるお客様はいらっしゃるわけですから。そうしたお客様を裏切ってはいけないと。
結果的に「変えない」ことが70年のロングセラーにもつながりました。
──「変えない」ことがロングセラーにつながったとは?
「炒飯の素」は開発当初から細かい粉末でして、顆粒ではありません。そのため素材に染み込みやすく、味が浸透しやすく調味料としても重宝します。
実際、そういう使い方をしてくださっているお客様も少なくありません。
──もともと「中華たれの素」という名前で最初発売しましたものね。
ゆで卵をお持ちしたのですが、味玉を作るには普通、液体で一日半ほど漬け込まないといけないんですが、粒子の粉末の「炒飯の素」は浸透が速いのでもみ込んで10分でできるんですよ。
シャカシャカフライドポテトも振りかけて30秒。どうぞつまんでみてください。
──いい香りがしますね。塩とスパイスが効いています。
野菜炒めにもおすすめですし、お湯を注げばスープにもなります。
「具入りにしない」決断をしたことで、万能調味料としての「強み」が残り今日に至りました。
応募券に熱いメッセージが7割
「炒飯の素」のパッケージには、発売当時から10枚集めて送ると必ず1袋もらえる応募券がついています。
毎月50通ほど届くのですが、応募券だけでなくメッセージをつけてくださる方がとても多くて。何割くらいだと思いますか?
──抽選でなく必ずもらえるとなると、半分くらい……?
7割近くです。
「子どもの頃からずっとあみ印です」「50年間使い続けています」「欠かせない調味料」「いつも助けられています」「これからも継続して販売してください」といったメッセージが書かれていて。ここに70年のロングセラーの理由があると私は思っています。
──どんな理由でしょうか。
メッセージからは「炒飯の素」が「嗜好品」でなく、「必需品」になっていることがわかります。それは家庭の調理上の課題や、味つけの悩みを解決しているからだと私は思います。
「炒飯の素」は67年前、1袋3包入り20円で発売し、現在も6包入り150円。1包あたり25円と「家計の味方」であり続けています。調理時間も3分程度と手軽。それでいて「炒飯の素」を使えば、確実に「味が決まる」。
「コスパ・タイパ・クッパ(クックパフォーマンス)」の、家庭の3つの定番課題に一貫して応えてきているのです。
──なるほど。課題解決型商品であることが70年のロングセラーにつながったと。
そうなんです。「70年の理由」をぜひ多くの方に実感していただきたいです。
※後編では、レトロ・ユニークで異彩を放つあみ印のSNS発信や、神山さんのおすすめの店、おいしいチャーハンの作り方のポイントなどを伺います。
次回は「NHK出版 本がひらく」で4月下旬に公開予定です。
プロフィール
あみ印食品工業 神山栄里子
事業戦略室課長。2014年入社。商品企画部、新規市場開拓部、研究開発室NB商品メニュー開発を経て、2022年より現職。1年半かけ X立ち上げから企画進行に従事し1万人余のフォロワーにチャーハンの魅力を発信し続ける。
あみ印X: @amibrand1952
取材・文
石田かおる
記者。2022年3月、週刊誌AERAを卒業しフリー。2018年、「きょうの料理」60年間のチャーハンの作り方の変遷を分析した記事執筆をきっかけに、チャーハンの摩訶不思議な世界にとらわれ、現在、チャーハンの歴史をリサーチ中。
題字・イラスト:植田まほ子