小栗旬、松坂桃李、池松壮亮、窪塚洋介ら皆が主人公になる、新型コロナウイルスの〈ダイヤモンド・プリンセス号〉で起きていたこと。映画『フロントライン』が伝える医療集団〈DMAT〉という存在
全くと言っていいほど、知識も情報もなかった。ただ、劇場内のポスターを見ながら、小栗旬、松坂桃李、池松壮亮、窪塚洋介の4人の顔ぶれに惹かれてチケットを買った。チラシで内容を理解していたのは、日本中に新型コロナウイルス蔓延騒動にいたる直前の、横浜港に停泊した大型豪華客船〈ダイヤモンド・プリンセス号〉のウイルス感染のドタバタ映画だろう程度だった。
観終わった後に、申し訳ありません、と詫びを入れるのもご無礼と承知しつつ、我が国に〈DMAT〉という災害医療のチームが結成されることも知らなかった。本作で知ったことだが、地震や大事故がおきると、即座に医師や看護師などを派遣し、大勢の負傷者の治療はもちろん、入院患者の避難や、病院への燃料補給など、あらゆる支援を行う災害医療のスペシャリスト集団を〈DMAT〉という、ことも…。
そして、その〈DMAT〉が感染症という見えない敵と闘うことも初めてだったとは!
まだ、新型コロナウイルスの恐怖に高をくくっていた時期、テレビのニュースでは盛んに〈ダイヤモンド・プリンセス号〉の長期停泊は報道されていた。しかしその内部で何が起こっていたのか、想像もできなかった。感染を疑われれば乗船客の下船は許されず、狭い船室に閉じ込められる苦痛は並大抵ではないだろうな、と他人事だった。
さて、本作でも、メディアは他人事で悪者だった。船内内部を見てきたように対策後れをなじり、船内の魑魅魍魎を想像だけで報道していた。医療集団〈DMAT〉は、「船の中から一人でも亡くなる人を出さない」というミッションを明確にしたが、混乱は想像を絶していた。数十か国におよぶ国籍の違う乗船乗客には、言葉が通じない。持病のある高齢者もいた。DMAT指揮官の結城英晴(小栗旬)は目の前の乗客の命を優先し、常に冷静に判断しながら船内の猛威を防ぐ。やがて自ら勤務する病院に頭を下げて感染者を隔離させた。厚生労働省から派遣された役人、立松信貴(松坂桃李)の立場は、国内に感染を持ち込まないことを優先することで、当初はDMATと争う場面もあるが、理解しながら自ら防御服に身を包む。真田春人(池松壮亮)は家族を残してDMATに参加する。あまりに一方的で勝手な報道に苛立つも、結城の「メディアに言い訳はしない」という姿勢に納得する。結城はテレビの女性記者(桜井ユキ)に、「面白がっていないか!」と言い放つのだ。自らも感染する危険にありながら、船内に乗り込み現場の指揮を執る仙道行義(窪塚洋介)、東日本大震災では結城とともに救済活動に奔走しただけに時に本音で結城とぶつかりながら采配をふるった。なぜか、窪塚の肝の据わった演技は現場の指揮官そのものだった。乗客の不安を少しでも安らげようと必死に働く客船のクルー、羽鳥寛子(森七菜)も真摯さが伝わってきた。
あらためて、2020年早々に起きた〈ダイヤモンド・プリンセス号〉の〝災害〟を振り返りながら、あの不幸を無駄にしないという主人公〈DMAT〉の強い意志に涙した。
2025年6月13日(金)全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画