西野カナ 歌、演奏、ダンス、舞台美術、衣装……エンターテインメントショウとしてのクオリティーも満足度も高かった、約6年ぶりの再会のステージを振り返る
Kana Nishino Love Again Live 2024
2024.11.14 横浜アリーナ
西野カナが11月13日(水)、14日(木)に神奈川県・横浜アリーナにて、実に5年9ヶ月ぶりとなるワンマンライブ『Kana Nishino Love Again Live 2024』を開催した。チケットは即完となったため、両日とも全国47都道府県の映画館にてライブ・ビューイングも開催された。
2019年2月1日~3日にかけて横浜アリーナで開催されたワンマンライブ『Kana Nishino Love Collection Live 2019』での「またね!」という声をもって、無期限の活動休止に入った西野カナ。今年の6月25日に活動再開を発表し、7月には久しぶりの新曲「EYE ON YOU」を配信し、9月にはキャリア初のEP「Love Again」をリリース。本公演は休止前と同じ横浜アリーナを舞台にした再開後初のワンマンライブとなっており、会場は開演前から「カナやーん!」という声があちこちから飛び交い、約6年ぶりの再会の喜びと期待で満ち溢れていた。
開演時間になると場内が暗転し、3面鏡のような巨大スクリーンにぼんやりと浮かんでいた西野カナの過去のアーティスト写真やジャケット写真の焦点がぴたりと合い、<20190203>という数字が映し出された。やがて、西野カナのヒット曲をミックスしたインストナンバーとともに止まっていた数字が動き出し、<20241113>を迎えたところで『Love Again』というタイトルが表示されると、ピアノのリフによるイントロに歓声が上がった。オープニングナンバーは「会いたくて 会いたくて」で大ブレイクを果たし、2010年にリリースした11枚目のシングル「if」だ。小さな偶然が重なって訪れた運命の相手との出会いを歌ったラブソングだが、ラベンダー色のドレスで歌われた《君と同じ未来/ずっと一緒に見ていたい》というフレーズは、この日に限っては、横アリに集まってくれた観客に向けて歌っているようで、未来に対するシンガーとしての決意のように聞こえた。
そして、ラッパーのWISE(TERIYAKI BOYZほか)とコラボしたR&B「遠くても feat.WISE」の《君と出会えたことが/かけがえのない宝物/今は会えなくても/Always Love You》という冒頭のフレーズを歌い上げた彼女は、ステージ中央に設置された大きな階段を降り、笑顔で手を振りながら「ただいまー!」とあいさつ。満員の観客は掲げた手を左右に振って盛り上がり、曲の後半には「歌って」と呼びかけに応え、早くも《I Love You》の大合唱となった。最初のMCでは、「ただいま」「おかえり」「元気にしとった?」という会話を交わした彼女は、「みんなと一つになって、いい思い出を作りたいと思います」と意気込んだ後、「緊張して最初の曲のフェイクを忘れた」と告白。すぐに「よっしゃ!」と気合いを入れ直すと、8人のダンサーが登場。大階段が二つに分かれて開き、クローゼットに様変わりし、スクリーンにはベッドが出現。めざましの音が鳴り響くとともにミントグリーンの衣装に早着替えをした彼女が現れ、「Have a nice day」「Darling」では働く女性の日常を切り取ったミュージカルのようなステージが繰り広げられた。
活動再開後のレコーディングやジャケット撮影、ツアーのリハーサルといったビハインドを収めた映像を挟み、グレーのジャケットにミニスカート、ニーハイブーツにロンググローブに着替えた彼女は、最新EP『Love Again』に収録された80’s風ロック調の「15」で力強い歌声とラップのようなフロウを披露。数々の楽曲でタッグを組んできたソングライターのGIORGIO 13 CANCEMIのソロプロジェクト、NERDHEADにフィーチャリングで参加した楽曲で、のちのMCで「15年前、2009年のリリースで、背中を押してもらった曲です」と語ったR&B HIP HOP「BRAVE HEART」を含むメドレーを経て、「今回のライブで初めて歌う曲です」という言葉を挟んで歌われたのは、2014年8月リリースの24枚目シングル「Darling」のカップリングに収録されていた「Still love you」。前向きで温かみのある別れを歌ったバラードを光のカーテンの中でドラマチックに歌唱。いくつもの別れを経験した大人の胸に響くものがあった。
ここでスクリーンにはベッドで寝転びながら本を読む西野カナの姿が映し出された。彼女がうとうとしだすと、棚の上に置いてあるスノードームにズームインしていき、ロマンチックな夢の世界へと誘われていった。7年ぶりに再始動したばかりのリンキン・パーク(LINKIN PARK)の新たなドラマーであるコリン・ブリテン(Colin Brittain)がトラックに参加した新曲「イントゥ・ミー」を含むメドレーは、そのタイトル通り、脳内で繰り広げられる恋の妄想を表現。スーツ姿のダンサーがハットを被り、ステッキやニュースペーパーを持って踊ると、西野はイエローをベースにしたレトロなファッションで現れたが、1曲ごとに衣装をチェンジ。ダンサーがハートで彼女を隠している間にあっという間にブルーのドレスに早着替えすると、レビューのような大きな羽に視界を遮られたと思った隙にベビーピンクに。さらに、ステージが少しだけ上昇し、上空から赤いラメが降り注いだ瞬間、まさに一瞬にして赤いタイトなワンピースへと変身! 黄色から青、青からピンク、ピンクから赤へという一連の早着替えの演出に観客は「おおっ」と思わず声を上げるほど驚きをみせた。復帰公演という点にばかり目が行きがちだが、歌、演奏、ダンス、舞台美術、衣装、照明、構成……とエンターテインメントショウとしてのクオリティーも満足度も高い内容だった。
さらに、「このままで」では水色のドレスに着替え、たくさんの花を積んだ船に乗って歌い上げると、続く「君って」では、アリーナに30個のランタンが浮かび上がり、会場を幻想的なムードで包み込んだ。ここで再びスクリーンにスノードームが映し出され、彼女がベッドから目を覚ますと、ライブは後半戦へと突入。チアロック「GO FOR IT!!」ではスポーティーなルックでトロッコに乗って場内を周回すると、「LOVE & JOY」ではタオルまわしとジャンプで会場が一体となって盛り上がり、代表曲「トリセツ」ではワイパーを繰り広げながら一緒に曲を口ずさむ観客に向けて《これからもどうぞよろしくね》とチャーミングな笑顔でアピールし、ステージとフロアの距離をさらに縮めてみせた。
本編最後の曲を前にしたMCではお休み期間中にアルゼンチンに行き、ペリト・モレノ氷河を訪れたことを写真とともに報告。「どうしても見たくて。夢が叶ったんです。車の免許もマニュアルで取ったし、すごく充実した期間やった」と語った後、「活動再開が決まってからはいろんな人にサポートしてもらいながら、今日、ここまで辿り着きました。音楽好きやし、楽しみながらやってきたんやけど、やっぱり、時にはうまいこといかんこともあるわけさ。行き詰まって、肩を落とす瞬間が何度かあって。その度に、みんなの顔が浮かぶと、また頑張ろうと思えて。さっきトロッコで回った時もみんなの顔が見えて嬉しすぎて……」と話す彼女の目には涙が浮かんでいた。一呼吸おいて、「みんなの存在にはいつもいつも助けられてます。本当にありがとう。胸熱になりました」と感謝の気持ちを伝え、初めてフィクションで描いたという新曲「また君に恋をする」でも大合唱が起こり、ピンクシルバーのテープの舞い散る中で本編は締めくくられた。
《例えば、離れていても 何年経っても/ずっと変わらないでしょ/私たちBest Friend》という観客のシンガロングに導かれた再びステージに登場した西野カナは、再始動の初めの曲として配信リリースしたバラード「EYE ON YOU」をほぼピアノの伴奏だけで届け、今の西野カナだからこそ表現できるラブソングの世界観を歌声だけでしっかりと構築してみせた。そして、「さっき、裏まで聞こえてきました。綺麗な歌声をありがとう。またみんなで歌えたら」と呼びかけた「Best Friend」を全員で大合唱。《ありがとう/君がいてくれて 本当よかったよ》と感謝の気持ちを伝え合い、心の深い部分で分かり合える親友との再会を果たしたライブはエンディングを迎えた。
バンドメンバーやダンサーを見送った後、西野カナが「みんなに伝えるのを忘れてた!」と声を上げ、2025年に全国アリーナツアーを開催することを発表。かつて“ケータイ世代のカリスマ”や“同世代の女心の代弁者”と称されたラブソングの名手が令和にどんな恋愛模様を描くのか。約6年ぶりに本格的に活動を再開させた彼女の今後の動向に大いに注目したい。
取材・文=永堀アツオ