「ATフィールド系」は2025年のトレンドになるか?ーーワチャ系から音楽シーンの概念を考える
2025年2月。PK Shampooのヤマトパンクスと、連日のように酒を酌み交わしながら音楽の話をしていた。酔いが回るほどに話は脱線しつつも、なぜか本質的なテーマに行き着く(気がしている)。
「俺たちは泥酔ではなく、音楽で興奮していたい」
酒に頼らなければ楽しめないような状況を、音楽やエンターテインメントの力で超えていけないか。
渋谷の居酒屋・山家のカウンターでそんな話をしながら、ヤマトが買ってきた大量の『ガロ』を見て、ふと思った。
「もしかして、いま自分たちがおもしろいと思うシーンに名前があればいいんじゃないか?」
ヤマトパンクス
ワチャ系と対極のバンドが交わる場所
そこでまず思い出したのが、「ワチャ系」という言葉だ。
ヤバイTシャツ屋さん、バックドロップシンデレラ、超能力戦士ドリアンのように、ライブで楽しくワチャワチャしながら、異常な熱量を生み出すバンドを指す言葉として、ワチャ系は定着しつつある。
しかし、当然のようにワチャ系の枠に収まらない存在も多い。PK Shampooはその最たる例であり、ワチャ系の対極にあるともいえる。
にもかかわらず、彼らはワチャ系のバンドと同じイベントに出演することがある。
その対極のバンドが交わる場所――それが、ATフィールド(日本のロックエージェント)が手掛けるイベント〈BAYCAMP〉だ。
最新のBAYCAMP
同イベントには、水曜日のカンパネラやクリトリック・リスのようなバンドの枠にとらわれないアーティストもいれば、PK Shampooのような文学的である種のスノッブさも内包したバンド、トップシークレットマンのように青春パンクとハードコア、ハイパーポップをミックスしたような若手バンド、さらにはワチャ系と呼ばれるバンドまでが、同じステージに立っている。
さらに、2024年に話題となったTVアニメ『ガールズバンドクライ』内で、劇中バンド・トゲナシトゲアリが〈BAYCAMP〉に出演するシーンが描かれ、2024年9月14日、15日に神奈川・川崎のちどり公園で開催された同フェスの2日目にリアルで出演も果たすなど、カルチャーを横断するという出来事も起こった。
そこでひとまず、「ATフィールド系(以下、AT系)」という言葉がしっくりくるんじゃないかという話になった。
「ATフィールド系」とは何か?
AT系はジャンルではなく「スタンス」。
さらに話していくうちに、この言葉は音楽ジャンルではなく、むしろ「サブカル的な概念」に近いものだという話になった。
「AT系」のアーティストたちは、決まったジャンルに括られることを好まない。ロック、パンク、ヒップホップ、エレクトロ……さまざまな要素を持ちながら、どこにも属さず、独自のスタンスを確立している。だからこそ、シーンという形で括られづらい一面もある。
この「どこにも属さない」スタンスは、ATフィールド代表・青木勉がライブ制作を手掛けてきたアーティストたちとも通じる。銀杏BOYZの前身であるGOING STEADYからはじまり、group_inou、神聖かまってちゃん、キュウソネコカミ、忘れらんねえよ、東京初期衝動、そしてPK Shampooまで。
ATフィールドのHPを見れば、その系譜は一目瞭然だ。
ATフィールドHPより一部抜粋
彼らは、音楽的に統一されているわけではない。だが、既存の枠組みに囚われず、己の衝動のままに音楽を鳴らすという点で共通している。それは、単なる音楽のジャンルではなく、むしろカウンターカルチャーとしての在り方に近いともいえる。
なにより、「AT系」という言葉を考えたときに、『エヴァンゲリオン』における「ATフィールド(Absolute Terror Field)」の概念も込められているのがいいなと思った。ATフィールドは、個々が独自の領域を持ちながら、時に交わる「絶対恐怖領域」と言われている。それは、AT系アーティストたちがそれぞれ強い個性を持ち、独自のフィールドを確立しつつも、イベントの場では交わり、共鳴し合う構造と似ている。
「AT系」という視点を持つことで、彼らの活動をより明確に浮かび上がらせることができるかもしれない。そして、そこに共鳴する人たちが増えていくことで、新たなムーブメントが生まれる可能性もあるのではないか。そんなことをヤマトパンクスとの交驩(こうかん)の中で話していた。それを忘れないうちに記しておこうというのがこのテキストだ。
そして翌日。ヤマトがX(旧Twitter)で「AT系」という言葉をつぶやいた。
その夜に新宿で行われていたライブ(※<俺たちのバレンタイン2025>2025年2月14日(金)@新宿レッドクロス/出演:クリトリック・リス/ヤジマX(fromモーモールルギャバン)/ザ ニンクス)では、すでに「AT系」という言葉が飛び交っていた。
……ただ、出演者3組とも全員「ほぼ裸」になっていた(笑)。
AT系は、はじまった……のか?
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