DV問題の専門家に聞く 「警察以外」も環境整備を
川崎区で起きた女性遺棄事件では、被害女性が川崎臨港署(川崎区)にたびたび相談していたことが分かっているが、ストーカーやDV問題の専門家は、「警察以外」の相談先の重要性を指摘する。市内の相談・支援体制は万全だろうか。
適切な相談先に
DV被害者などを支援する民間団体の全国組織、NPO法人「全国女性シェルターネット」(本部・東京都)の共同代表・北仲千里さんは、今回の事件の教訓として、「ストーカー規制法の範囲で動く警察の対応能力にも限りがある。被害当事者が適切な相談先につながれる環境整備の重要性を、改めて感じた」と語る。
「配偶者暴力防止法(DV防止法)」は、配偶者や同棲しているパートナーからの暴力に関する相談や保護などの体制を整備することで、被害者の安全確保を目指している。
今回の事件は捜査中のため不明な点が多いが、北仲さんの経験上、交際相手を「犯罪者」にするための刑事手続きを自己決定できる当事者は、「決して多くない」という。そのため相談先を警察に限定せず、DV問題を専門とする支援者から客観的な助言を得たり、一時保護施設への避難を勧められたりすることで、「命を守る選択肢がぐっと広がる」と北仲さんは語る。
民間の対応能力
川崎市では電話相談窓口「川崎市DV相談支援センター」で、配偶者や同棲中のパートナーからの暴力行為に関する相談を受け付けている。相談者が希望する場合、神奈川県と連携のうえ女性相談支援センターや民間施設での一時保護も可能だが、保護中は安全確保のため携帯電話が利用できず職場にも行けなくなるなど制限が多く、一時保護に至らないケースも多いという。実際、2023年度は878件の相談があり、一時保護の件数は32件だった。
一方で、北仲さんは「神奈川特有の課題」も指摘する。県全体で「DV問題に関する民間の対応能力が弱まりつつある」というのだ。
DV被害の支援現場では、緊急性が高いと判断される場合に被害者のもとに駆け付け、そのまま保護する場面もあり、多くの都道府県で民間団体も対応している。ところが相談から保護判断までの一連の対応を行政に一本化した「神奈川方式」の導入以後、民間が対応する機会が減少した。「神奈川では、警察の担当窓口すら知らない団体も少なくない」と北仲さん。「DV被害で最悪の事態を防ぐためには、官民の分け隔てなく、迅速かつ柔軟に対応できる支援者育成が必要だと思う」と話している。