ばらずしセミナー(2025年3月16日開催)〜 日本遺産構成文化財の「ばらずし」を通じて倉敷の食を学びました
地域にある歴史的な建造物や町並みなど、地域固有の財産として体系化されたストーリーを「日本遺産」として、文化庁が認定する制度があります。
倉敷市で認定されている日本遺産ストーリーは以下の三つです。
・一輪の綿花から始まる倉敷物語~和と洋が織りなす繊維のまち~
・荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~
・「桃太郎伝説」の生まれたまち おかやま~古代吉備の遺産が誘う鬼退治の物語~
さらに日本遺産にはストーリーを構成する文化財(構成文化財)があります。
その一つが、瀬戸内の豊富な海の幸と旬の野菜を鮮やかに盛り合わせた「ばらずし」です。
しかし、今では家庭で食べる機会は減っているでしょう。そんな「ばらずし」について学ぶ「ばらずしセミナー」が開催されたので、そのようすをレポートします。
倉敷市日本遺産構成文化財「ばらずし」とは
「ばらずし」は日本遺産ストーリー「一輪の綿花から始まる倉敷物語~和と洋が織りなす繊維のまち~」に含まれる、構成文化財の一つです。
「ばらずし」について、公式資料では以下のように解説されています。
倉敷の商家では、祭りの日に近隣の人や知人を自宅に招き、瀬戸内の豊富な海の幸と旬の野菜を鮮やかに盛り合わせた「ばらずし」を作って振舞った。
引用元:「一輪の綿花から始まる倉敷物語~和と洋が織りなす繊維のまち~」の構成文化財(電子ブック版)
しかし、倉敷市出身で現在45歳の筆者も、「ばらずし」を自宅で食べた記憶はほとんどありません。どちらかと言えば、お店で食べるものくらいのイメージです。
「ばらずしセミナー」の内容
そのような「ばらずし」を学び、味わってみることを目的として、2025年3月16日に「ばらずしセミナー」が開催されました。主催は「倉敷市日本遺産推進室」です。
・倉敷東小児童クラブしらかべキッズの子ども素隠居
・倉敷商業高等学校の生徒
・岡山学院大学の学生
など、参加者は若者中心でした。
詳しい内容は以下の画像を確認してください。
開会挨拶
冒頭に倉敷市日本遺産推進室長の三宅順子(みやけ じゅんこ)さんから、開会の挨拶がありました。
そのなかで、倉敷市には三つの日本遺産と41個の構成文化財があると紹介されます。三宅さんは構成文化財について、
倉敷のことを詳しく知ってもらうきっかけになるもので、今日は「ばらずし」を通じて倉敷のことに詳しくなってほしい
と語りました。
倉敷の食を学ぶ
岡山学院大学・岡山短期大学 教授の尾崎聡(おさき さとし)さん、講師の平野聡(ひらの さとし)さんから、倉敷の食に関する話を聞きました。
尾崎聡さんの解説(歴史や具材について)
まず、全国にある「具だくさん寿司」として、五目寿司・ちらし寿司・ばらずし・箱寿司などがあると紹介されます。
このなかで、「ばらずし」は岡山県の郷土料理として、お土産としても人気があり、とくにJR岡山駅で駅弁として販売している「桃太郎の祭ずし」が有名とのことでした。
しかし、「桃太郎の祭ずし」は株式会社三好野本店の登録商標(第5839071号)であるため、「祭ずし」と紹介する際は注意する必要があるそうです。
「ばらずし」の起源は江戸時代にさかのぼります。
備前岡山藩主 池田光政(1609〜1682年)「食事は一汁一菜」と定め倹約に努めさせたところ(倹約令)、民衆が「大きな器に何十種類もの具材を全部盛り付けて一皿」と称し、対策したことに起因すると言われているそうです。
その後、おもな具材について説明してくれました。
平野聡さんの解説(栄養価・地産地消について)
続いて、平野聡さんから「ばらずし」の栄養価に関する話がありました。
「ばらずし」は三色食品群(食べ物に含まれる栄養素の働きをもとに、赤・黄・緑の三色に分類したもの)の観点からもバランスが良いそうです。
とくに青魚は現代ではなかなか摂りにくい魚ですが、お寿司にのせることでおいしく食べられるのがメリットとのこと。
また、地産地消の観点から、倉敷市の旬の食材を盛り込んでおり、どの季節でも「ばらずし」は作れるそうです。
倉敷のばらずしを学ぶ
ここからが「ばらずしセミナー」の本番です。
倉敷市茶屋町の老舗鮮魚店「魚春」の五代目店主光畑隆治(みつはた たかはる)さんから、実演を含む「倉敷のばらずし作り」を学びました。「魚春」は1898年(明治31年)に創業した老舗店です。
まず、光畑さんが「ばらずし」の話をするようになった経緯を紹介してくれました。
曾祖母に育てられた光畑さんは、幼い頃「魚の煮付け」のような料理ばかり食べていたそうです。現代は食の多様化で、魚の食べかたを知らない人が増えてきたことを知り、幼い頃の食事が「食育」になっていたと気づきます。
このため、魚の良さをもっと伝えたい、気候変動で魚自体が少なくなっているなかで、地元の魚をもっと大事にできたらという思いで、活動をはじめたそうです。
続いて、「ばらずし」と「ちらしずし」の違いについて教えてもらいました。
両者の違いは簡単に言うと具材の調理方法です。
ちらしずしは上に乗ってる具材が「生」で刺身をのせるイメージ。ばらずしは具材それぞれ全て味がついていて、それぞれの具材を別で調理し味付けしたものをのせます。
また、「ばらずし」にはおもに鰆(サワラ)が使われますが、実はこれをのせないといけないというものは決まっておらず、そのときあるものをのせるのだそうです。
サワラ以外の魚として「ヒラ」という魚があります。
この魚は全国で獲られるそうですが、ほぼ岡山でしか食べられません。このため、全国で獲られたヒラは岡山に集まるそうで、大阪・愛知の漁師はヒラが獲られたら「岡山がとれた」と言われるそうです。
理由はおそらく、骨が多く、食べるには骨を切らないといけないので「面倒くさい魚」だからだろうとのこと。しかし、夏のばらずしには欠かせない魚で、ばらずしがあるから岡山ではヒラが食べられていると思っている、と語っていました。
「骨を切らないといけない理由は、さばく音を聞いてくれたらわかると思います」と語り、光畑さんがヒラに包丁を入れます。
「ばらずし」作りを見学
ここからは、光畑さんが「ばらずし」を作るようすを披露してくれました。
作って食べてみる
ここからは、参加者が薄焼き卵作りに挑戦です。
倉敷のばらずしを考える
お腹いっぱいになったあとは、ワークの時間です。
ばらずしをもっと身近な食べ物として、手軽に食べるには、どんな工夫があればよいでしょうか?
をテーマに、グループに分かれて考えます。
最後にまとまった意見をグループごとに発表しました。
・できあがった「ばらずし」をコンビニなどで売る
・自分で好きな具材を持ってきて作る
・学校の授業などに取り入れる
・おにぎりにするなど、新しい形を提案する
などさまざまな意見が上がりました。
若干時間が押していたこともあり、最後は駆け足になりましたが、最後に光畑さんから締めの言葉をいただき、約4時間にわたる「ばらずしセミナー」は修了しました。
おわりに
郷土料理の一つくらいの認識しかなかった「ばらずし」。
歴史的な背景・食材の話を聞くことで、理解が深まりましたし、多くの参加者で一緒に考えることで身近になってきた気がします。
日本遺産ストーリーは歴史的建造物のような「箱物」だけではなく、「食べ物」など身近なものも構成文化財に含まれています。このため、多くのかたが接しやすい取り組みだと感じました。
そして、2025年10月25日・26日には「日本遺産フェスティバル in 倉敷」が開催予定なので、2025年の倉敷市は日本遺産イヤーともいえます。
当日に向けて倉敷市日本遺産に関連したイベントも今後予定しているそうです。
良い機会なので、日本遺産について学んでみてはいかがでしょうか。