2025年、出社回帰で問われるエンジニアの「対話スキル」はどう磨く?【“伝えるプロ”澤 円が伝授】
2025年は、出社回帰の年になるだろう。
すでにGoogleやAmazon、Metaなどのビッグテックはオフィス回帰を加速させ、社員に対面勤務を求める動きが広がっている。国内でも同様の流れが見られ、LINEヤフーは25年4月からカンパニー部門の社員に原則週1回、開発部門やコーポレート部門の社員には原則月1回の出社を義務づける。
こうした変化の中で、より重要性を増していくのが「対面でのコミュニケーション力」だ。表情や声のニュアンス、間の取り方。オンラインでは曖昧にできた部分も、オフィスではそうはいかない。「技術力さえあれば大丈夫」ではすまされない場面が、今後さらに増えていくはずだ。
では「対話スキル」を磨くには、何を意識し行動すればよいのか。そのヒントを、プレゼンの神と呼ばれる“コミュニケーションのプロ”、澤 円さんの過去記事から探った。
※本記事は澤さんの連載『「コミュ力おばけ」への道』より一部引用の上作成しております
株式会社圓窓 代表取締役
澤 円さん(
)
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社) Voicyチャンネル:澤円の深夜の福音ラジオ オンラインサロン:自分コンテンツ化 プロジェクトルーム
目次
否定的な言葉を避け、心理的安全性を高めるMC力を身に付け、会話の舵取り役を担う「IF文」を駆使して雑談を盛り上げる
否定的な言葉を避け、心理的安全性を高める
エンジニアの仕事は、個人のスキルや集中力が重視されがちだ。一人で黙々と作業できるからリモートの方が快適だったのに……と嘆いている人も多いだろう。
ただ澤さんは「一人でやっていると解決しない問題も、別の人にアイデアを求めてあっさり解決するなんてことは、いくらでもある」と語る。
人というのは一人でできることは限られていて、コミュニケーションによって仕事のクオリティが向上するのは間違いない事実だと思います。
(中略)
これからのエンジニアは、いわゆる「作業」で価値を出しにくくなっていきます。AIや自動化ツールにとって代わられることのないものが、エンジニアのバリューになっていくのです。
リモートワークではテキストベースの会話が中心だが、オフィスに戻ればリアルタイムでの対話は避けられない。直接言葉を交わしながら問題を整理し解決へと導く力が、今後ますます求められるようになる。
その力を身に付けるためには「心理的安全性を高めるスキルとマインドセット」が必要だとした上で、いくつかの言葉を使わないことがお勧めだと澤さんは言う。
まず一つめは「べき」です。
「べき」という言葉は、排他的な思考のきっかけになると思っています。「この構文はXXであるべきだ」といった発言は、相手を委縮させる効果があります。なので、「ボクはこう考える」と言い換えてます。そうすることで「あなたはどう思う?」と聞きやすいし、違うアイデアもだしやすいのではないでしょうか。
もう一つは「難しい」です。
「難しい」は、取り組む意欲を削ぎかねない魔法の言葉だと思っています。「そのやり方は難しいんじゃない?」と言ってしまうと、相手は「自分はできると思ってるんだけど……」という話をしにくくなりそうです。なので、「さて、これはどうやったらできるか一緒に考えよう」の方がよっぽど生産性はアップしそうです。
エンジニアの心理的安全性を高める、マネージャーの「言い換え」テクニック【澤円「コミュ力おばけ」への道】https://type.jp/et/feature/23828/
MC力を身に付け、会話の舵取り役を担う
対面での打ち合わせや会議の場で価値を発揮する方法は、喋ることだけには限らない。「うまく話すことも有効なスキルですが、いい感じに話してもらうスキルも市場価値は高い」と澤さんは考えている。
というのも、システム開発や運用保守、トラブル対応などあらゆる場面で「複数の意見を取りまとめる」という必要がありますよね。そのときに、エンジニア自身がMC的役割を担うことで、会議の時間をできる限り濃密かつ効率のよいものにして、実際に手を動かす時間を最大化できる可能性があるからです。
ではMC的な役割を果たすには、具体的にどんなアクションを取ればいいのか。例として、システムトラブルが発生し、クライアントが説明を求めている状況を想像してみよう。
ピリついた空気の中で、
「今回のシステムの仕様は……XXさんお願いします」
「問題の原因となった部分については……○○さん説明してください」
「トラブル回避のための代替案については……□□さんから話してもらえます?」
と、ただ発言を振るだけでは、かえって先方の不安を増幅させる可能性がある。そのため、まずは状況を整理して前提を共有することが大切だ。
「このシステムの仕様は両者合意の結果○○のように決定したと文書に明記されているのですが、今回は当初の想定を大きく上回るアクセスがあったため、システムダウンにつながりました。
ということで改善策を協議したいのですが、(1)同時アクセスユーザー数を制限する(2)ネットワーク機器を増強して同時アクセス可能数を増やすの2パターンが考えられます。
それぞれにメリット・デメリットがありますが、皆さんからまずは意見をお伺いしたいと思います」
この一歩を踏むだけで、議論がスムーズに進み、先方も冷静に意思決定がしやすくなる。
エンジニアとして一流であると同時に、ファシリテーションのスキルを身に付けることは、長期的にキャリアを考える上でも非常に重要であると思います。
(中略)
「ファシリテーション」というと、カチッとした会議で司会をやるイメージを持つ人もいるかもしれませんが、大事なことは「参加者の人たちに発言の機会を提供する」ことです。つまり、「人が話しやすい空気感を作って、自然と口を開けるように促す」のが大事なポイントです。
もちろんファシリテーションスキルは、一朝一夕で得られるものではない。「誰しも簡単にできることではない」と前置きした上で、澤さんは次のようにアドバイスをしてくれた。
まず試してみてほしいのが、「自分がファシリテーションしていない会議で、会話の流れをじっくり観察する」です。いきなり本番に臨むのではなく、客観視する機会を作るのです。
その上で「自分ならこうやって話を振るかな」とか「あの質問は答えにくそうだから、違う聞き方がいいかな」とか、脳内でシミュレーションを繰り返すのです。漫然と内職するくらいなら、あらゆる会議の場を自分の糧にするマインドセットを持つ方が時間の無駄になりません。
まずは観察することから始めて、試したくなってきたら親しいメンバーやなじみのあるコミュニティーの集まりなどをコーディネートして、そこで腕試しをしてみましょう。
エンジニア×MC力で仕事がうまくいく? ファシリテーションスキルを磨くコツ【澤円「コミュ力おばけ」への道】https://type.jp/et/feature/22989/
「IF文」を駆使して雑談を盛り上げる
リモートワークのメリットとして、雑談のストレスが減ることを挙げるエンジニアもいるだろう。ただ、「職場のちょっとした雑談には、実はとても大事な要素が含まれていることもある」と澤さんは教えてくれる。
思いもよらないアイデアが出てきたり、相手の意外な一面を知ることができたり、困っていることの解決の糸口が発見できたり……。雑談は、時として通常の会議よりも価値の高い会話ができたりするものですよね。
その一方で、雑談が苦手だという人は少なくない。伝え方のプロである澤さんでさえ、「雑談が一番難しい」場面があると言う。
ボクが親しくしていた同僚にブラジル人がいました。ブラジルといえば、サッカーが盛んですよね。なのでサッカーの話題を振ることにするわけですが、「ブラジル人って、みんなサッカー好きなの?」といった質問をしたらどうなるでしょうか。
これではちょっと解像度が粗すぎて、答える側も戸惑うかもしれません。「うーん、好きな人は多いと思うよ〜。自分はサッカー詳しくないから、よく分からないけど……」質問の回答としては、こんな感じになりそうです。単なる「教えてほしい」モードだけでは、話を盛り上げるのが難しいかもしれません。
会話のきっかけが掴めない、うまく話が続けられずつい黙ってしまう……。そんなときに役立つのが、IF文のように話題を分岐させるテクニックだ。
「あなたはサッカー好き?」と聞けば、【好き】【嫌い】【どっちでもない】の三通りが予測できますよね。もし【好き】だった場合は、「どこのチームが好きなの?」とか「自分でもプレーするの?」とか「ワールドカップの時はずっとテレビ見てた?」といった流れで盛り上がれます。
一方、【嫌い】だったとしたら「ブラジル人でもそういう人はいるんだね!何かあったの?」と問いかけることもできます。【どっちでもない】なら、「そうなんだ!何か趣味はあるの?」と質問を変えていくことができます。
こんな感じで、相手の属性を一つピックアップしてそこから広げていくやり方なら、ゼロからトピックを見つける必要がないので、楽ですよね。
とはいえ、時には自分の作った「IF文」通りに相手が答えてくれないかもしれない。そんなときは、澤さんのメッセージを思い出してほしい。
うまくいかないのは自分の側「だけ」の責任ではありません。会話は、相互の協力によって成り立つものです。「会話が弾まないのは、自分だけの責任ではない」と思って、気楽に臨みましょう。そして、沈黙を恐れすぎる必要もありません。スマホでもいじっていればOKです。
「相手から感じが悪いと思われるかも……」と心配する人もいるかもしれませんが、会話が弾まない同士でギクシャクと会話するよりは、黙って自分の世界に没頭している方が、時間の使い方としては健全だと思います。
相手を尊重し、でも無理をせずに雑談には臨みましょう。
必死に話題を探さなくても、「IF文」を駆使すれば雑談は盛り上がる 【澤円「コミュ力おばけ」への道】https://type.jp/et/feature/27476/
編集/今中康達(編集部)
『うまく話さなくていい ビジネス会話のトリセツ』(プレジデント社)
重要な会議やプレゼン、1on1、交渉に雑談……。ビジネスの場では誰しも「上手に話さなければ」と思いがちです。しかし、「話し方」を上達させようと焦る必要はありません。
ビジネスにおいて本当に大切なのは、「成果を上げる」「課題を解決する」こと。そのためには、「うまく話す」よりもずっと重要なポイントがあるのです。
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