国分寺「清水農園」と「島崎農園」のおいしいカタチ。消費者が近い都市農業だからこそできることとは?
総農家数176戸(2020年)と農家が元気な国分寺。近隣5市に比べ、農地の割合が高いこの街には、販売方法からブランディングまで、個性的な農家がいっぱい。消費者が近い都市農業だからこそ、できることとは。
買い物ついでの立ち話も楽しい「清水農園」
現・国分寺市北町で5代続く農園。堆肥から自分たちで作り育てる野菜は、例えば茶豆は濃厚な味わいで、四葉(スーヨウ)キュウリはみずみずしい。直売所は主に母のケイ子さん・妻の美知さんが担当。各野菜のおすすめレシピも教えてくれる。雄一郎さんは、国分寺の農業を盛り上げるこくベジプロジェクトに創設時から参加。市民農業大学の講師も務める。
●10:00~12:00・15:00~17:00、不定休。
彩りで野菜を選ぶのも断然アリ!「島崎農園」
江戸時代中期から現・国分寺市西町で続く農家を10代目・島﨑さんが継承。紫カリフローレやビーツなど、スーパーではあまり見かけないカラフル野菜を中心に栽培。月・金はセブンイレブン国分寺東元町2丁目店・国分寺富士本2丁目店、土・日はパン工房の『Allemande Hiro』で購入できる(なくなり次第終了。収穫期のみ販売)。珍しい野菜の販売にはレシピを添える工夫も。
消費地が近い分、応援を肌で感じられる
およそ300年前。台地の上にあり水が乏しかった国分寺北部は、玉川上水が引かれたことで農地として開墾された。
「最初は狭い間口から、南北に開墾して農地を伸ばしていった。だからこの辺りの農地は細長い短冊形が多いんです」と、清水農園を継いで30年の清水雄一郎さん。その短冊の北側あたりに同園の直売所があり、育てた野菜はほぼここで売り切るという。
「母が25年前(2000年)に宮大工に依頼し、造ってもらいました。売り場にない野菜を求めるお客さんがいれば、裏の畑から切ってすぐ持って来られる。鮮度がよく、ロスはないのが有人直売所の良さですね」
この日も「梅干しを漬けたいからシソを」という主婦のために、畑からばっさり切って持ってくる一幕も。常連のご夫妻いわく「スーパーに行く前にまずここに寄る。旬の野菜が見つかるから」と笑顔。
「都市農業だからこそ地域の人に旬を知ってほしい。だから年間を通して約60種の野菜を育てているんです」と、清水さん。消費地が近い分、飲食店からの応援を肌で感じられるうえ、消費者の声もよく届くのだ。
買う“体験”も売る。目にも楽しいカラフル野菜
一方、30代後半までサラリーマンとして働き、2020年に就農したのが島﨑保夫さんだ。「父の入院がきっかけで、跡を継ぐことに。どうせやるなら全力で面白いことをやろうと決めました」。
お客さんがワクワクする野菜を——そこで、カラフルな西洋野菜を育て「Agritario(アグリタリオ)」とブランド化。黄色いニンジンや紫のトウモロコシは目にも鮮やかだ。
「糖度やオーガニック云々(うんぬん)よりまず、買い物自体が楽しくなる野菜を作りたい。出店時のテントやキッチンカーをおしゃれ仕様にしているのも、お客さんの買い物体験を盛り上げたいからなんです」
アパレル業界を経験した島﨑さんらしい視点に立ちつつ、農家魂も忘れてはいない。畑の一角でピーマンやトマトなど育てやすい野菜を栽培しているのは、いつか娘さんが継いだ時にひとりでも続けられるようにという思いからだ。
「農地が宅地になったら恐らく二度と農地に戻れない。300年の歴史をもつ農地を、僕らで途絶えさせるわけにはいきませんから」
取材・文=鈴木健太 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2025年9月号より