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今話題のZEHとはどんな住宅?今後の見通しとともにプロが徹底解説!

リブタイムズ

今話題のZEHとはどんな住宅?今後の見通しとともにプロが徹底解説!

最近よく聞くZEH住宅とは、どのような住宅なのでしょうか。今回は百年の家プロジェクトを運営する株式会社ブルーシップの杉浦さんにインタビュー!ZEHの仕組みや今後の見通しをはじめ、ZEH住宅には欠かせない断熱性能についてもくわしくお聞きしました。

お話しを伺った方

株式会社ブルーシップ 百年の家プロジェクト代表 

杉浦一広(すぎうら かずひろ)さん

59歳・O型・かに座・寅年・愛知県吉良町出身

■創業百年の材木屋時代、シックハウス問題で住環境に直面し、2004年工務店支援として「超性能研究会~百年の家プロジェクト」を始動し「自然素材×高性能住宅」の先駆けとなる。執行役員を経て独立起業

■以来18年間で中小工務店だけ230社以上にその技術をレクチャーし、多くの行列ができる工務店を育てる。HP制作管理・動画・SNSなどいち早く実践し、建築業界では珍しいWEBマーケッター

■趣味:EU・北欧・USA・マチュピチュなど世界遺産や有名建築をめぐる旅好きで、世界三大近代建築の巨匠の作品、サヴォア邸・ファンズワース邸・落水荘はコンプリート。東京マラソン2回完走、ドローン操縦士回転翼3級

ZEH住宅とは?

最近よく耳にするZEH住宅とは、どのような住宅なのでしょうか。ZEH住宅の概要についてお聞きしました。

住宅の1次エネルギー収支をゼロにするZEH住宅

ーZEH住宅とはなんですか?

出典:経済産業省HPより

ZEH住宅とは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略語で、住宅の一次エネルギーをゼロにする住宅のことです。家庭の電気代を減らす節電とは意味合いが違うので注意が必要です。

ー一次エネルギーとはなんですか?

一次エネルギーとは、化石燃料をはじめ、石油や石炭などを加工せずに自然界からそのまま得られるエネルギーのことです。日本の場合は、化石燃料を燃やして発電する火力発電を中心に一次エネルギーを取得しています。

ZEH住宅が登場した背景

ーZEH住宅が登場した背景を教えてください

将来的に石油が枯渇し、エネルギー源が不足するという問題があるためです。日本で使っているエネルギーのうち、約3分の1が住宅関連で使われるエネルギーだといわれています。

ZEH住宅普及の目的は、エネルギー収支を0にする住宅を増やし、国で消費するエネルギーを全体的に減らしていくことです。

エネルギー収支を0にするには?ZEH住宅の仕組みを解説

ーどのようにエネルギー収支を0にするのでしょうか?ZEH住宅の仕組みを教えてください

電力会社から購入した電気エネルギーと同じ量のエネルギーを創ることで、エネルギー収支を0にします。日本のZEH住宅では太陽光発電でエネルギーを創ることがほとんどです。

一次エネルギーを0にするというよりは、火力発電で供給された一次エネルギー分を太陽光発電で相殺していくという方が正しいかもしれません。

ZEH住宅は性能をチェック!決め手は断熱性能

ZEH住宅とは、一次エネルギーの収支を0にする住宅のこと。一口にZEH住宅といっても、ハウスメーカーごとに性能は異なります。

ZEH住宅の性能についてお聞きしました。

ZEH住宅=性能がよいわけではない

ーZEH住宅はやはり性能がよいのでしょうか?

いえ、ZEH住宅だから性能がよいというわけではありません。要は住宅の一次エネルギー収支を0にできればZEH住宅になるため、太陽光でどれだけ創エネできるかが鍵になります。

たとえば、4人家族でエネルギーを30消費して30発電した場合でも、100消費して100発電した場合でも同じZEH住宅になります。

ー消費するエネルギー量に差があるのはなぜですか?

断熱性能が異なるためです。断熱性能が低いZEH住宅の場合は冷暖房が効きにくいため100のエネルギーを消費する一方、断熱性能の高いZEH住宅では冷暖房の効きがよく、30のエネルギーを消費するだけで同じように暮らせます。

一言でZEH住宅といっても断熱性能にばらつきがあります。建築予定のZEH住宅ではどのくらいの電気を太陽光でまかなう必要があるか、考えなければいけません。

断熱性能がよいほど設置する太陽光パネルは小さくなる

ー同じZEH住宅でも断熱性能が違うと、エネルギー収支を0にする方法も変わりますか?

そうですね。断熱性能がよいほど、必要な太陽光パネルは小さくなります。

ZEH住宅の購入時には太陽光パネルの補助金が支給されるため、大きなパネルでもよいという意見はあります。しかし、太陽光パネルにかかるメンテナンス費用を考えると、断熱性能を見ずにZEH住宅を購入するのはおすすめできません。

2022年4月から新たな断熱性能基準が登場

ーZEH住宅を選ぶ際は断熱性能が鍵になるのですね

そうですね。ZEH住宅を建てる際はエネルギー収支のシミュレーションをする必要があり、断熱性能によって大きく変わります。

ー断熱性能にはどのような基準がありますか?

従来は1~4までの断熱性能基準があった一方、今年4月から断熱性能5が登場しました。今年の秋ごろには、断熱性能6・7という基準も新たに追加されます。

断熱性能の基準が増えただけでなく、今年4月からは住宅会社が断熱性能基準を説明することも義務化されました。ようやく、一般消費者の方が断熱性能を選べるようになったのです。

ヨーロッパでいわれている差し引きプラスの考え方とは?

住宅のエネルギー収支を0(=差し引き0)にするZEH住宅が話題になっている中、ヨーロッパ(ドイツ)で現在提唱されているのはエネルギー収支がプラス(=差し引きプラス)になる「プラスエネルギーハウス」と呼ばれる住宅。エネルギー収支をプラスにするにはどうすればよいのでしょうか。日本での考え方もあわせてお聞きしました。

差し引きプラスとは?

ーヨーロッパでは差し引きプラスの考え方が広まっているとお聞きしました。どのようにエネルギー収支をプラスにしていくのでしょうか?

住宅の壁だけでなく、あらゆる場所に太陽光パネルを設置してエネルギー収支をプラスにしています。フランクフルト郊外にあるプラスエネルギーハウスの住宅展示場へ行った際、駐車場やガレージの屋根、住宅の外壁にも太陽光パネルを設置しており、大変驚きました。エネルギー収支をプラスにするため、幅広く対策が練られていると感じました。

そのほか住宅内の壁に使用する断熱材は30センチのグラスウールと呼ばれるものを使用しています。日本は在来木造住宅のため20~30センチの断熱材を入れるのが厳しい一方、ドイツは2×4(ツーバイフォー)や石積みの家が多いため、分厚い断熱材を取り入れやすいのです。

なぜ差し引きプラスの考え方は日本に根付いていないの?

ー日本にまだ差し引きプラスの考え方が根付いていないのはなぜですか?

一つの理由として、日本はヨーロッパと比べてサッシメーカーが少ないなど建材類のコストが高いというのが大きな要因でしょう。

住宅のエネルギーがいちばん逃げていくのは窓からなので、窓の性能を上げることが断熱性能の底上げにつながります。建材のコストが下がれば、断熱性能がアップするようにガラスが4、5枚の複層サッシを入れるなどの工夫を施せるのですが、現状では難しいでしょう。

以上の理由から、差し引きプラスの考え方はまだ根付いていません。そのため、まずは差し引き0にするZEH住宅を普及させることが大切です。

そもそも日本が断熱性能に遅れを取ったのはなぜ?

ヨーロッパよりも遅れているという日本の断熱性能。なぜ断熱技術が向上しなかったのでしょうか。

「家は寒くて当たり前」の考え方が根付いていた

ーそもそもなぜ日本は断熱性能に後れをとったのでしょうか?

「家のつくりようは夏をもって旨とすべし」「家は寒くて当たり前」と思っている方が多く、あまり必要とされていなかったのかもしれません。

断熱性能に関する研究が始まったのは、「次世代省エネルギー基準」が策定された1999年。北海道ではもっと以前から断熱性能について研究されていましたが、当時の建築学会などで発表しても「断熱性能が必要なのは寒い地域の北海道だけ」と考えている方が多かったそうです。

家は寒いものだと思っていた方が多かったため、断熱性能に対する理解が深まらず、遅れを取ったのではないでしょうか。

ーなるほど。家が寒いのは当たり前だと思っていたのですね…

家の中が寒いのは断熱性能が弱いか暖房機器が弱いかの2択なんですよね。煖房を付けていても寒い場合は、家の断熱性能が悪いと言っていいんです。

家が寒くてクレームをいう人がいない時点で、断熱性能に関する理解が進んでいない証拠。これからは新しい断熱基準がどんどん出てくるので、自分がどんな暮らしをしたいか考えながら断熱性能に関してある程度理解しておくとよいでしょう。

ZEH住宅は普及する?今後の見通しをお聞きしました

ZEH住宅の普及は今後進んでいくのでしょうか。今後の見通しをお聞きしました。

住宅政策の影響でZEH住宅は増えると予想

ー今後、ZEH住宅の普及は進みますか?

はい。住宅政策がZEH住宅普及に向けて動いているため、普及の流れは変わらないと思います。

使えない太陽光パネルが増える?ZEH住宅の普及で危惧される未来

ーZEH住宅の普及で、大きな省エネルギー効果が期待されますね!

そうですね。省エネ効果が期待される一方で、私が危惧しているのは将来的に使えない太陽光パネルが増えることです。日本政府はこれから建てる家をほぼすべてZEH住宅にしようと政策を進めており、今後どんどん太陽光パネルの設置率が上がっていきます。設置する際は補助金などでまかなえるため金銭的負担は軽い一方、30年間にメンテナンスや撤去・再搭載をする際にかかる金額は設置時以上とすれば、家の修繕費と合わせて一体どれだけの方が太陽光パネルの継続維持費用を払えるのでしょうか。

太陽光パネルの設置コストを下げたりメンテナンスの補助金を出すなどの策を講じなければ、メンテナンスされずに使われなくなった太陽光パネルが増えていくでしょう。

高断熱・高気密・低防湿の落とし穴

ーほかにZEH住宅の普及で危惧されている点はありますか?

断熱基準が義務化される一方、防湿(気密)についての基準が設けられていないことです。断熱性能のみ高めてしまうと、高断熱・高気密・低防湿の住宅になります。日本の家は木造住宅が多いため、壁の中に水蒸気が入ると家がすぐに傷んでしまうのです。

断熱性能をあげたのに防湿性能が低いために引き起こされた事例として、「ナミダタケ事件」が挙げられます。

ーナミダタケ事件とは?

1980年代に北海道や東北地方で起こった一連の事件のことです。当時北海道発の高断熱住宅が登場し、断熱性能に特化した家づくりが積極的に進められました。防湿対策をせずに高断熱の住宅を数10棟建てた結果、木材を腐らせる「ナミダタケ」と呼ばれるキノコが大量に発生し、新築の床がわずか数年ほどで抜けるようになったのです。

ー怖い事件ですね…!

当時かなり話題になったナミダタケ事件も今では風化してしまいました。防湿対策を講じないZEH住宅が増えることで、この事件と同じような現象が起こるのではないかと危惧しています。

充填(じゅうてん)断熱と外張り断熱

ー断熱工法によって低防湿の影響は変わってくるのでしょうか?

はい。充填断熱と外張り断熱を両方行う工法の場合、防湿対策をしていないとより家が傷みやすくなります。

ー充填断熱と外張り断熱とは?

充填断熱とは壁の中に断熱材を入れることで、外張り断熱とは家の梁や柱などの外側から全体を覆うように断熱することを指します。断熱性能を上げるために充填断熱と外張り断熱を組み合わせる工法は、家が傷みやすくなるため注意しましょう。

ーなぜ家が傷みやすくなるのでしょうか?

一般的に、防湿対策として壁の内側ほど防湿し、壁の外側に行くほど透湿するような壁構造にする必要があるといわれています。壁の中で発生した水蒸気を溜め込まず、外へ揮発(きはつ)させるためです。

充填断熱と外張り断熱を同時に行うと、壁の外側の透湿抵抗が高くなり水蒸気の通り道を封じ込める状態になるため、壁の中で結露(壁体内結露)しやすい構造になってしまうのです。

ーZEH住宅の普及に伴い、今後は防湿の基準も設ける必要がありますね

そうですね。防湿対策をしないと、断熱性能が優れていても夏は暑くて冬は寒い家になってしまうんです。

日本の断熱は海外と比べて後れを取っているため、まだ多くの人に理解されにくい業界だと思います。今後、防湿についても理解が深まることを願っています。

今後住宅業界が求められるもの

ZEH住宅に欠かせない断熱性能を正しく理解することが、長くもたせる家をつくる第一歩となります。今後日本の住宅業界が求められる家とはどのようなものなのでしょうか。

築30年になったら壊れてもいいの?

ー結露で傷むと、家はどうなりますか?

年々断熱性能が低下するため暖冷房費が増えるだけでなく、地震の際に壊れやすくなります。

地震があった際、視察に行くと柱の根元が腐って倒壊している家が多く見受けられます。柱の根元が腐っているのは、壁体内の結露が原因だと言ってよいでしょう。

地震が起きた後のニュースでは、しばしば「倒壊した家は築30年のものがほとんどでした」と報じられますが、築30年になったら壊れてもいいの?といつも疑問に感じます。

もちろん住宅を購入する際、一般の方が壁体内結露について深く勉強するのは難しいでしょう。住宅を売る側が確かな知識を持って家づくりができるよう、断熱・防湿性能に関して正しい認知が広まればいいなと思います。

楽に100年続く家を

ー築30年で壊れるのではなく、長く続く家を?

そうですね。自分たちより長生きする家をつくるにはどうすればよいか、日々考えながら家づくりをしています。

日本の場合、木造の家が多いためどうしても100年持たせるには努力と仕組みが要るんですよね。一方ヨーロッパは石積みの家が一般的なので腐りにくく、木造と違って壊しにくいため100年持たせるのは容易なんです。

日本に石積みの家を建てると、地震に耐えきれなくて壊れてしまいます。地域性や風土、天候などに差があるため、木造住宅の耐久性を飛躍的に上げていくことがとても重要です。

ー構造の違いも家の耐久性に大きな影響を与えるのですね…

たしかに構造の違いはあります。ただ、現在でもすべての世代で家が一軒建てられるわけではないため、今後は子・孫世代もずっと使えるような家が求められるでしょう。家のデザインや値段だけで決めるのではなく、性能や耐久性にもこだわって決めないと、健康被害や建て替え費用の負担など子々孫々に大きな影響を与えるのです。

構造の違いはあっても楽に100年続くような家をつくることが大切ですし、そういった努力をしていくことが今後の住宅業界に求められるのではないでしょうか。

まとめ

今回は、ZEH住宅についてお話しをお聞きしました。ZEH住宅を推進する経緯や目的、ZEH住宅の普及で危惧されていることなどをプロの目線から学べましたね。

正しい断熱性能の知識を意識的に取り入れることで、安全に長く暮らせるZEH住宅を建てられます。ぜひ家づくりの参考にしてみてください!

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