「前からはめる」守備、小学生年代に教える時のポイントは? 味方との距離など自分たちで気づかせる方法を教えて
「前からはめる」守備、プロの試合などでもよく見られるマークの仕方ですが、小学生年代に教えるのが難しい、いい方法はある? というお悩みをいただきました。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、プロの世界でもトレンドの「前からはめる」守備についてご自身の見解をお伝えします。
(取材・文 島沢優子)
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは、田舎のチームで子どものスポ少で指導しています。(指導年代:U-12)
学生時代はサッカーとは全然違うスポーツをしていたので、今保護者コーチをしながら楽しんでいると共に、知らないこともたくさんあります。
地元の強豪チームと対戦する機会があったのですが、DFの子が「前からはめて行け」という声をかけていて、その時は全く意味が分からず聞いていました。
後から調べましたが「前からはめる」というのは、前線の選手が相手GKにプレッシャーをかけに行ってキックのコースを制限したりすることなのですね。
意味やその戦術の効果は分かったものの、自チームに落とし込むときに上手く教えられる自信がありません。
味方との距離なども大事ですよね? おすすめのトレーニング方法や、選手たち自身に気付かせる方法、ヒントがあれば教えてください。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
プレッシングサッカーはプロの世界でもトレンドです。高い位置でボールを奪って前から攻撃をするために、できるだけ早くプレスをして前から守備をします。
ただし前から守備をするのは非常に難しく、1人かわされると相当ピンチになります。
■「前からはめる」を小学生がやる場合の弊害
「前からはめる」を小学生がやる場合、さまざまな弊害が生まれます。前線や中盤ははめようと追いかけるけれど、ディフェンスラインが遅れてしまうと、そこのスペースをつかれてピンチになります。
指導者の中で「伸び縮みするアコーディオン」という言い方をよくしますが、アコーディオンが開いた状態だとそこにスペースができるわけです。
そういったことを全員が理解しておかないとできない戦術なので、小学生には無理があります。
やらせようとすると、外から「はめろ」とか「みんな上がれ!」「そこで取りに行け」といった声がベンチから出てきます。そうなると、選手自身が判断する範疇ではなくなってきます。
コーチが「はめろ」と言うので選手たちは懸命に前に出ますが、もしかしたらその状況では無理かもしれない。見極めが難しいので、外から見てる人たちの命令に沿ってやろうとすると、1人だけがボールを追いかける状況になりかねません。単に前に出る守備の戦術が効果的なので勝つためにやる。そんな大人の意図が見え隠れします。
したがって、どんなふうに攻めてくるか、どこを守ったほうがいいのか。そんな基礎的なことを理解させながら育てたほうがいいと考えます。
小学生の間はサッカーのベーシックなものを学ぶことに注目してください。ボールを取られたら取り返す。みんなでパスをつなぐといったことに時間を費やしてくださいとセミナーなどでも伝えています。
■欧州では小学生の試合に「オフサイドライン」が設けられていることも
欧州では、小学生の試合に「オフサイドライン」が設けられていることがあります。ゴールラインから概ね12メートルぐらいのところにオフサイドラインが引いてあり、それを越えない限りはオフサイドにはなりません。
ディフェンスラインを高く保つことができないため、結果的に攻撃陣にスペースが与えられます。オフサイドがほぼないという状況になるので、「前からはめる」ディフェンスは無駄になります。
つまり、そういった「勝つための戦術」にさせないために、欧州では少年サッカーにオフサイドラインを設けるわけです。
サッカーの先進国では、小学生の間は基礎的なことをしっかりやりましょうという暗黙の了解があります。それは百年以上の歴史のなかで、育成においてさまざま試したうえで培われたものなので尊重すべきでしょう。
そういったことを理解したうえで、守備のトレーニングをしてください。
例えば「君は何番につこう、というように全部マンツーマンでマークを決めてごらん」と伝えます。自分のマークには絶対抜かれないことを考えよう。最後まで追いかけていこうと話します。
そうすると、その責任がよくわかります。それでも抜かれることがあります。そこで初めて「1人が抜かれちゃったら、どうすればいい?」とチャレンジ&カバーを教えることができます。そこからゾーンディフェンスを理解していくわけです。
■オシムさんが「日本人でCBができる選手がいない」と言った理由
以前、各都道府県協会のトレセンで12歳以下の研修会を受け持っていました。まず8人制で試合をすると、県トレなのでみんな上手です。
そこで「じゃあマンマークに変えるね」と自分のマークを決めさせると、途端にパスがつながらなくなります。全員マークされると、どうしていいかわからない。そんなことが日本で起きています。
オシムさんはかつて「日本人でセンターバックをできるやつはいないね」と話していました。
本当に危ないところに行く。もうここに行かないと失点するっていうところに外国人は行きます。ところが、日本人は自分のマークを捨ててその「最も危ないところ」に行けません。
自分のマークを見ていて離れないので、点をとられてしまいます。例えばJリーグで失点の場面を見ると、選手が「え? 今のは誰が行くの?」という顔をしています。自分は自分のマークを見ていたよ、と主張します。
そんな態度を、外国人のセンターバックは叱り飛ばします。俺はこちらをカバーしに行ったのに、おまえはどうしてここに来ないんだ? と言うわけです。いまだにそういうことが起きています。
オシムさんの指摘は間違っていなかったのです。そうなる背景には、日本の子どもたちが大人から言われたようにしか育っていない事実があります。海外に行った選手はそれを自分で修正したり、コーチに教えられて進化しています。
結論としては、「前からはめる」という戦術を子どもがやるのは、あまりいい傾向ではないと私は思います。
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。